◇5 魔法講習(雷) そして狩り
とりあえず火に変換できた。
他の物にも変換できるか試してみよう。
危ないかもしれないので、ラルフには離れてもらった。
俺の魔法に興味津々で近くで見たがっていたが致し方がない。
「よし、じゃあ次は雷だ。派手でかっこいいしな」
「雷?そんなのできるのか?」
「えっ?」
ラルフの言葉を聞いて間抜けな声がでてしまった。
雷はできないのか?
まぁとりあえずやってみるか。
俺がの体が電池とイメージ。
そして俺の手が+極だ。
体中の魔力を再び手に集める。
電気がすべて手のひらに流れてくる……そんな感覚。
俺の手から見えない回路が出ていて、手の少し上で断線していると仮定。
そこから……放電ッ……!
バチッ!
でた!一瞬だったけど雷だ!
維持させてみよう。
ラルフがなんか驚いてるけど、まぁ気にしなくていいだろう。
火と違い、絶え間なく魔力を流し続ける。
バチッ!ジリジリジリ……
よし!維持できた!
と、そこで体が少しだるくなったので、魔力を流すのをやめ、腕を下す。
これが魔力切れってやつか。
「ほら、できたじゃないか、雷」
「おおおおおおお! お前本当に才能あるな! 少なくともオレは、雷の魔法なんて聞いたことなかったぞ!」
ラルフが興奮したように言っている。
雷魔法はあまり出回ってないのか?
この世界には電気製品なんてないから電気がイメージできないとか?
うん、だったら使える人間なんてまったくいないだろうな。
納得。
この調子だと、本当に神様の言う通り異世界人一人来るだけでもかなり影響を与えそうだな。
「よし、魔法も大体わかったし狩りに行こう。動物、狩るんだろ?」
「おう、そうだな!オレの狩りの技術を見せてやるよ。村での自給自足は伊達じゃないってな!」
「ああ、期待してるぞ」
そう言葉を交わし、俺らは森の奥に入っていく。
奥に進むにつれ、そこは魔物の立ち込める魔窟になって――なんてことはない。
日本でも普通にありそうな森だ。
風景と鳥の声を楽しみながら歩く。
すると、遠くの茂みからガサッ、と言う音がした。
俺らは極力音を出さないようにして、近くにあったもう一つの茂みに身を隠す。
音の聞こえたほうを見てみると、鹿がいた。
ラルフが俺の肩をたたいてきた。
そちらを向くと、手でここで待ってろ、とラルフがサインをしている。……たぶん。
とりあえずうなずいて止まっていると、ラルフが腰の短剣を抜いて、何も持ってない左手を鹿に向けた。
直後、ラルフの左手から小さな尖った石が形成される。
それを放つと同時に駆け出した。
鹿は突然の物音にこちらを振り向いて確認しようとするが、振り向く途中で体にラルフが放った石が刺さる。
反動で怯んだ鹿の目の前には既にラルフがいた。
首めがけて短剣を差し込まれ、暴れる鹿。
ラルフはいったん短剣から手を放す。もちろん刺したままでだ。
その瞬間鹿は勢いよく逃げ出す――が、一歩目を踏み出した前足が着地する直前に付け根に鋭くとがった石が刺さる。
さっきと同じ魔法だ。
結構な反動があったんだろう、鹿は足払いされたように転倒した。
その隙を見逃さず、ラルフが近づき、首に刺さった短剣を抜き、もう一度刺す。
抜いて、刺す。それを数回繰り返すと、鹿は絶命した。
俺はラルフに駆け寄る。
すごいじゃないか!と声をかけようとしたが、ラルフがどうだと言わんばかりの顔で俺を見ていたのでやめた。
お調子者なんだろうな、こいつは。
「ラルフは解体もできるんだな」
「んー。まあ狩猟民族だし」
ラルフは集中をしているのか、適当に返事をして手際よく鹿を解体していく。
うーん……なかなかにグロいな……
まー耐えられないレベルではないけど。
数分後、ラルフが解体を終えたので次の獲物を探しに行くことにした。
次の獲物は俺が仕留めるらしい。
うーん、できるかなぁ……
鹿を狩った後、再び歩き出す。
三十分くらいだろうか。
しばらくすると、少し先からグギャッグギャッと変な鳴き声が聞こえてきた。
ラルフと顔を合わせ、茂みに隠れつつ奥をそっとのぞき込んでみる。
すると――
ゴブリンがいた。一匹だ。
ボロボロの布を腰に巻き、手には刃が大きくかけた青銅の剣を持っている。
ふと横のラルフを確認すると、こちらを向いてあごでゴブリンのほうをさした。
俺が行けってことか……人型だが……いけるか?
考えてても仕方がない。
冒険者になるからには、やるやらないじゃなくて、やらなくちゃならないんだ。
そう自分に言い聞かせて、大きく深呼吸する。
よしっ……!
俺は勢いよく飛び出した。
その勢いのまま両手でショートソードを持ち、飛びながら斬ろうとしたがあっさり躱される。
いや、戦うのが初めてだからそうとらえてしまったが、意外とギリギリだったみたいだ。
このくらいの敵なら一人で行けるな。
ラルフと二人がかりでやる必要もない。
ゴブリンが何も策なし(たぶん)に突っ込んできたから右に半歩進み避けると同時に、ゴブリンの腹を水平に斬る。
スパッ!という音が聞こえそうなくらい綺麗に真っ二つになった。
ゴブリンの体はとても柔らかいらしい。
うん、真っ二つだ。
手には肉の感触が残っている。
少し震えているが、それは気持ち悪くなったからではない。
緊張していたのだ。
そして分かった。
俺の体はこの世界に順応している。
確かに気持ち悪くはなったが、吐きそうになるわけでもない。
耐性が付いているのだ。
神様が適応しやすいようにしてくれたのかな?
ラルフが近寄ってきて、サムズアップしてくれた。
うれしかった。達成感があった。
俺でもこの世界で生きていけるような気がしたから。
―――
ゴブリンの討伐証明である耳を回収した後ラルフと散策し、鹿をもう一頭狩った。
二人で売れる部分を袋につめ、背負って帰る。
重いな、と声をかけると、この世界には魔法具というものがあって、見た目より容量が大きい袋もあると教えてくれた。
かなり高価なようだが。
「いつか名の売れる冒険者になって、買ってみたいよな!」
そんなことを言うラルフと笑いあいながら、俺たちは帰路についた。