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◇30 予選一回戦目

大会出場人数を減らしました。


 予選会場である闘技場の脇にある建物の中に入った。

 その後に受付で本人確認を終え、対戦用のリングのあるこの部屋に入ったのだ。

 あたりを見回すと、魔術師とは思えない巨漢から、この世界の成人である十五を越しているかどうかすら怪しい女の子まで様々だ。

 誰しもが特徴的である。

 服装についても一般的なローブからなぜか全身をフルプレートアーマーで囲んだ人間や、上半身裸のいかにも格闘家のような人間もいる。

 すごいところだな、ここは。


 これから数分後に予選が始まる。

 完全にランダムのトーナメント方式だ。

 勝ち残ったもの十六名のみが本選に参加できる。

 だが、本選に出場するのは十六名だけではない。

 シードがいるのだ。

 この王都に設立されている学園の首席、次席がシードとして参加する。

 個人的には学園の首席と言ってもそんなに厚遇する必要はないんじゃないか、と思ったりもする。

 なんせこの大会にはAランク冒険者も多数出場するんだからな。

 学園で一番とはいえ、冒険者にかなうことはない、というのが俺の本音だ。

 

 Aランクが多数出場するといった点と完全ランダム式、となると重要になってくるのは運だ。

 予選でAランクばかりと当たっていたら俺の実力じゃどうしようもないだろう。

 逆に自分より格下と当たり続ければ楽に本選に出れる。

 運って大事だ、ほんとに。


 予選も含めこの大会に参加する人数はなんと百五十人。

 王都でも名をはせた魔導士たちが集まるため、普通の闘技大会よりは多いが、少なすぎるというわけではない。

 だいたい九人に一人が本選出場だ。

 つまりぱっと見回して勝てそうな人がそれなりに居なければそれだけで勝ち残りはあきらめた方が賢明だ。

 だが、俺はその必要はなさそうだ。

 バラムさんに教わっていた魔力感知が役に立っている。

 ほかの魔法使いはほとんどが俺と同じ程度の魔力量。

 それならば雷魔法を操る俺の方が圧倒的に有利なのだ。

 まあ、相手も体術やらなんやら奥の手を準備している可能性もあるから一概には言えないが。


 と、頭の中で思考しているうちに予選開始の時間になったらしい。

 メガホンのような魔法具を持った中年の男が選手全員に向けて声を発した。


「皆さん、今日はお集りいただきありがとうございます! 早速予選を開始していきたいと思います。AリングでCランク冒険者ケビンさんと――」


 リングごとに最初の選手の名前が呼ばれていく。

 今回は効率化のためにリングはA、B、Cの三つだ。

 それぞれが石の檀上で戦えるようになっている。

 広さは昨日の決闘の時と同じように少しくらいなら走り回っても大丈夫そうだ。

 

 A、B、Cリングの試合が一斉に始まる。

 俺の目をひいたのはBリングの試合だ。

 透き通る青色の髪をして、平民の着るようなローブでも胸当てなどでもない何の変哲もない服を着ている男。

 歳は大体俺と同じくらい。

 

 その男が使う魔法は水魔法。

 それ自体は何もおかしくないのだが、威力が桁違いだ。

 水圧が俺のだす水とは全く違う。

 あれは打ち方を変えればきっと首でもはね飛ばせるだろう。

 それほど恐ろしい魔力純度だ。

 イメージも相当苦労して手に入れたと思われる。


 結果、相手は水に流された挙句、体中を打撲だらけにされて気絶した。

 男の勝ちだ。

 レフリーの言葉によると学園の生徒で、『斬水』のミゲルということだけ分かった。

 学園の生徒って強いんだな。

 少しだけ見方が変わった。

 これならシードの方も相当実力があるのかもしれないな。


「『雷光』のギルさん、Cリングにどうぞ!」


 おっと、次は俺の番のようだ。

 少し駆け足でCリングの上に立つ。

 相手は大男だ。

 魔法使いらしくない筋肉と鉄製の胸当て。

 唯一の要素はそのローブくらいか?

 かなりキツくてピチピチになっているが。

 

「おーっと坊主、運が悪かったなぁ。相手はこのBランク冒険者アルダス様だ。今回の大会はあきらめるんだな」

「アルダスさんですね。よろしくお願いします。こちらも負けるつもりはないですよ」


 挑発には乗らずに爽やかな笑顔で返す。

 だが、それがかえって気に障ったようだ。

 少し不満そうな顔を見せる。

 これにはさすがの俺も苦笑いしかでない。

 冒険者っていっても本当にいろいろいるな。

 昨日みたいなのからブラントさん、バラムさんのように手本となるべき方まで。

 まあそんなことはどうでもいいか。

 ひとまずぱっぱと倒してしまおう。


「それでは試合開始!」


 試合開始の合図がかかる。

 相手は何も考えずに直進してきた。

 手に炎が纏ってあるところから見るにつかんだ後に直接焼くつもりなのだろう。

 さしずめイメージは着火ではなく火そのものってところかな。

 それだと魔力が火に上手く変換されず、どれだけ凄い魔力を持っていようがなかなか威力が出ない。

 

 冒険者はやはり対人をする機会が限られているからあまりこういうところで頭が回らないのだろう。

 確かにある程度の魔物を倒すならその程度の威力でも頭を掴んで焼き続ければ倒せるだろうし、適当に直進しても真正面から戦ってくれるだろう。

 だが、今回はあくまでも対人だ。

 ずっとつかみ続けることは出来ないし、真正面から戦ってくれるとは限らない。

 その辺を失念してしまっているのだろう。

 それに速度も遅い。

 知能の高く、素早かったユニークゴブリンに比べると全てが劣って見えた。

 

 これは経験差だ。

 それも量じゃない、質の差。

 こちとら伊達に命懸けで格上の魔物と戦ってきたわけじゃないんでね。

 申し訳ないけど勝たせてもらおう。

 この世界に来てからずっと使い続けた魔法は既に息をするように展開できる。

 両手から紫電が流れる。


「うおっ、あれって噂の『雷光』じゃないか!?」

「すげぇ、本物の雷だ……」

「相手は凄い大男だな。勝てるのか?」


 周りが何やら言っているが気にしない。

 さすがにこんなこと言われて調子に乗ってたら相手に失礼だ。

 俺は冒険者である俺らしく、自分を信じて戦おう。


 連続で試合がある場合に備えて雷纏は使えない。

 でも、雷纏の感覚は覚えている。

 体は思う通りに動かしづらいかもしれないけど、動かないわけではない。

 感覚は身体に多大なる影響を与えるのだ。


 姿勢を低くして、アルダスと同じように走る。

 向かい合ってお互いに走っている状態。

 普通ならすぐに衝突するし、アルダスはそれを狙っている。

 体格で圧倒的に有利であるという自覚があるから、ねじ伏せようとしているのだろう。

 だからこそ、衝突はしない。


 ギリギリまで近づいたところで飛ぶ――!

 頭上を通り相手の背後に回り込む。

 丁度アルダスの首元に俺の足先がある状態だ。

 そのまま首に足をつけ、膝を伸ばしてさらに奥に飛ぶ。

 そして着地の衝撃を受け流すとともに展開していた雷を投げつける。

 アルダスは振り向く暇もないまま、背中を雷で撃たれた。

 

 これで終わりだ、と思ったが――


 アルダスはまだ立っていた。


「やるじゃねぇか、坊主。いや、『雷光』か?」


「そちらこそ、存外にタフですね。今ので決まったと思ったんですが」


 互いに顔には笑みが浮かんでいる。

 純粋に俺も、アルダスも戦いを楽しんでいる。

 周りは既にうるさくなりはじめている。

 どうやら俺とこの人の試合を見にきているようだ。


 なんだろう、やっぱりアルダスは悪い奴じゃないかもな。

 純粋に血気盛んなだけかも。

 じゃないとこんなに楽しそうな笑みを浮かべられないだろうし、俺もつられることはなかったと思う。

 いや、今はそんなことはどうでもいいな。

 とりあえずねじ伏せて予選一回戦目を突破してやる。

 覚悟しろ、アルダス。


 惜しみなく雷纏を発動させる。

 こんな楽しい試合で力を抑えてどうする。

 それこそ相手に失礼だ。

 全力で相対させてもらおう。


 ――全身が活性化する。

 心地よいとともに少しずつその爽快感が失われていく。

 魔力を浪費しているのだ。

 後の試合まで体力を温存したいのは事実。

 ならば―—速攻!


「――ぐっ!? それが本気ってわけかぁ! なかなか面白いじゃねぇかぁ!!」


 高速で、それも捉えるのが困難な速さで駆け寄る。

 が、Bランク冒険者の腕は伊達じゃないらしい。

 ギリギリで俺の右の拳を回避した。

 この一撃が決まっていたら昨日の冒険者みたいに体中電流が駆け回って気絶するはずだった。

 失敗してしまったが。


 アルダスは回避した後の不安定な姿勢を、逆手で火をジェットのように噴き出すことでもとに戻し、その反動を活かして右の拳で殴りつけてくる。

 火の反動により拳速は通常より遥かに速い。

 そして、不安定な姿勢なのは攻撃がかわされた俺も同じ。

 それでもギリギリ体をひねる。

 脇腹に掠って吹き飛ばされてしまった。

 だが、雷纏で向上している身体能力を最大限活用して受け身を取り、すぐに元の姿勢に戻る。


 お互いの息が切れる。

 汗も滴り落ちてきた。

 視界が汗で奪われるため、右の腕で振り払う。

 

「ははは、こんなに楽しい戦いなんて初めてですよ……同格と思いっきりやれるのがこんなに楽しいなんて思ってもみなかった。――こちらも消耗が激しいので次の一発で絶対に決めますね」


「やれるもんならやってみやがれ。カウンターでもう一発入れてやるよ」


「ふふふ、ははっ、はははは。じゃあ、遠慮なく行きますよ……!!」


 迅雷を発動させる。

 足から雷が巻き起こる。

 すぐにでも走り回りたいぐらい足が軽いのに対し、上半身は鉛のように重くなる。

 体力を使いすぎている。

 本気で決めないとまずい。

 集中、集中するんだ……

 目を見開き、相手の動き、息遣い、視線、全てを淀みなく把握する。

 

 動く。


 まだダメだ。

 このタイミングじゃない。


 動く。


 違う。

 今行ったところで潰されるのがオチだ。


 動く。


 視線が動く。


 動いた先は俺の足。

 迅雷で纏った雷に何かあるのかと不安に思ったのだろう。

 

 行くなら今しかねぇ!


 ()()()()()()加速。

 視線を動かし、俺の動きを凝視していなかったアルダスは見切れなかった。

 今、決める。

 魔法構築をする余裕はない。

 迅雷による加速を利用した蹴り。

 思いっきりぶつける。

 一発で気絶に持ち込めるような、絶大な一撃……!!


 放つ。

 その一撃は大男のみぞおちをしっかりととらえる。

 蹴りの軌道は普通の人間が見えたものではない。

 まさに雷光。

 一瞬の雷の光の軌道を描き、その重く鋭い一撃を与える。


 アルダスは五メートル近く吹き飛んだところで倒れ込む。

 一向に立ち上がる気配のないその男にレフリーが近寄った。

 頬を叩き、そのあとに動脈を確認する。

 少し経ち、レフリーはおもむろに立ち上がり、高々と宣言した。


「アルダス選手気絶により、勝者、『雷光』のギル選手!」


 その言葉を聞いた後、力が抜けて座り込みたくなったが、グッと堪えてリングから降りる。

 周りは歓声やらなんやらでうるさい。

 そして、視線は尊敬、感動から、敵意、警戒まで様々だ。

 だが、そんなのは今は関係ない。

 アルダスが何人かの職員により医務室に運ばれるのを見ながら、建物の端で座り込み、静かに体力を回復させることにする。


 はぁ、一試合目からこれか。

 次の試合が楽しみである反面、体力管理を気を付けないとな。


 そう考えながら、次の試合までの休息を取り始めた。

 

 

 

  

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