◇28 魔闘技大会登録
俺らは王都に入った。
先ほどから聞こえてくるのは人の声。
各個人の話し声から呼び込み、勧誘など様々だ。
確かにエーオスの街も活気があったが、ここほどではないな。
さすがは首都だ。
と、そこで一つの看板に目を向ける。
『魔闘技大会出場締め切り間近!』
うおっ、まじか。
登録しておかないと。
俺も一応出場したいわけだし。
「ごめん、ラルフとミルは街を周っててくれ。俺は登録しに行ってくるよ」
「おーう。適当に観光しとく」
「わかったのだ! ギルの分も食べてくるのだ!」
「いや、できれば買って取っておいてくれると助かるんだけど……まあいいや。じゃあ行ってくる」
ラルフとミルに手を振り、別れる。
数分歩くと、受付と思わしきものがあった。闘技場の横にテントが開かれている。
列になっていないところを見るに、どうやら他の参加者はほとんど登録が終わっているらしい。
「登録したいんですけど」だけど」
「あれ?」「ん?」
受付の人に声をかけたとき、誰かと声が重なった。
見てみると、そこにいたのは金と銀の髪をメッシュにした少年。
目が合い、俺が少し気まずくなってると、大柄で大剣を背負った男も近づいてくる。
「だめでござるよ、フェーベ。今回は依頼で来たんでござるから、滞在するつもりは無いでござる。登録なんてしたら最低一週間は拘束されるでござろう」
「ん、そうだね。仕方ないか。賞金に興味があったんだけどね」
そう言って二人は去っていった。
いやいやいや、『ござる』ってなんだよ。
ツッコミどころ多いなぁ。
「すみません、登録したいんですが」
改めて受付に話しかける。
すると、受付の人は大会の概要を説明してくれた。
・対戦相手の殺害禁止
・武器の持ち込み禁止 魔法と魔法を使用した体術のみを可とする
・制限時間は十五分 それまでに相手を気絶、降参させれば勝利
・魔法属性は問わない
ということだ。
その辺の説明は知っていたので、手早くサインをする。
どうやらこれで登録は終わりのようだ。
後ろを振り返ってラルフ達の元へ戻ろうとしたとき――
黒髪の少年がいた。
黒い髪の色をした人は珍しい。
少し目を奪われてしまった。
その少年は足音もなく、人混みに紛れて行った。
なんか不思議な子だったな。
妙に落ち着いてる風貌だったし。
っと、そんなことに気を取られてる場合じゃないな。
早く合流して俺も飯を食わないと。
俺は少し足早になってラルフ達を探し始めた。
三十分ほど探しまわった後、テラスで食事をしているラルフ達を見つけた。
俺もラルフ達のそばに駆け寄る。
「おお、ギル! ここの店の料理は美味いぞ!」
「ギルも早く座るのだ!」
そう言い、ミルが椅子を差し出してくる。
遠慮なく座った。
今ラルフ達が食べているのは菓子パンのようなものだ。
携帯食のように黒くなく、やや白めの柔らかそうなパンに、ジャムのようなものが塗られている。
シンプルだけど、美味しそうだ。
値段はきっと高い。
宿で出てたのが黒パンだからな。白いパンなんて想像もできない。
まあでも、せっかく王都に来たんだから贅沢してもいいだろう。
俺も同じものを頼む。
給仕さんによってパンのセットが運ばれてきたので口に運んでいると、ラルフが話しかけてきた。
「ギル、登録はうまくいったのか?」
「ああ、ちゃんと間に合ったよ」
「そうか、ならよかった。でもギルってどのくらいまで勝ち上がれるんだろうな?」
「ワタシはギルなら本大会くらい余裕で入れると思うぞ!」
「ははは、ミル、ありがとう。そうだなぁ、予選突破はしてみたいなぁ。せっかく雷魔法っていうアドバンテージもあるんだし」
そう、雷魔法は大きなアドバンテージなのだ。
相手の知らない属性と軌道、そして威力。
防御もろくに展開できないと思う。
予選突破、できたらいいんだけどなぁ。
「まあ、あんまり気張らずに頑張れよ。ギルならいいとこ行くだろ」
「ああ、ありがとう」
ただ、二人の俺に対する自信はどこから来るんだろうか。
所詮Dランクだぞ?
この大会にはCやB、優勝候補にAまでいるってのに。
まぁいいか。
素直に喜ぼう。
仲間がこんなに信頼してくれているんだ。
「それはそうと、俺が魔闘技大会に行ってる間は何をするんだ? さすがに食べてばっかりじゃないだろう?」
魔闘技大会の予選は公開されないのだ。
本選から客が入るようになる。
「ああ、そのことなら心配いらない。オレとミルで近くのダンジョンに潜ることに決めてんだ。がっつり稼いでくるから期待してろよ?」
おお、ダンジョンに入ってくれるのか。それはありがたい。
王都に来たんだし、金はいくらあってもうれしいしな。
そんなことを話しながら食事を摂っていると、すぐに日が暮れてきた。
宿をとってなかったので、空き部屋のある宿を探す。
宿はすぐに見つかった。
門から歩いて十分程度の場所にあるところだ。
二食付きで一人当たり銀貨三枚。
前の宿の三倍だが、それに見合うだけはあった。
食事は小さめのものだが白パンで、スープも具沢山で美味しい。
部屋もベッドの毛布がふかふかだ。
これは嬉しい。
前のベッドはかなり寝苦しかったからな。
今日から快眠できるな。
とそんなこんなで王都に来て一日目が終わった。
初日は登録をして飯を食っただけで終わったけど、明日は冒険者ギルドに顔を出すつもりだ。
それに明後日は大会予選一戦目がある。
今日はしっかりと休んで英気を養わないとな。
そう思いながら、俺は眠りについた。