◇26 悪魔 そして脱出
俺たち三人はダンジョンの中を歩く。
戦闘がラルフで、順に俺、ミルという、前にコボルト退治に行った時と同じ隊列だ。
「来たぞ!」
ラルフが前に魔物を発見し、俺とミルに知らせる。
現れた魔物はオーク三体。
オークとは二足歩行の豚型の魔物で、ゴブリンよりも強い。
冒険者で言うとDランクがタイマンをはれるくらいの強さだ。
ラルフが飛び出す。
右手に持っているククリでオークの顔を右から左へなぎはらう。
鮮血。
うまく目を斬ったようだ。
オークは目を抑えてうずくまり始めた。
「ラルフ! 次のオークを抑えてくれ!」
俺はそう叫び、右手に込めていた魔力を雷に変換してうずくまるオークに放つ。
命中。
オークは黒焦げになり霧に変わる。
俺が攻撃している間も、ラルフは次々とオークを行動不能に追いやる。
二体目は足の筋を切られ、三体目はまだ傷つけられてはいないがラルフの動きに翻弄されて身動きが取れていない。
すかさず二体目を黒焦げにする。
あとは三体目。
だが、俺の出る幕はないようだ。
ラルフが会心の一撃を見事に決め、オークの首を吹っ飛ばした。
普段、ラルフの攻撃力では仕留めるのに時間がかかってしまうため、隙を作ることに徹してもらっているが、時々今のような見ていて気持ちの良い、凄まじい一撃を決めることがある。
恐らく型を毎日練習している成果が少しずつ出ているんだろう。
やるな、ラルフも。
俺ももっと強くならないと。
「ギルとラルフだけでやってしまってずるいのだ! ワタシも活躍したい!」
「ははは、ミルの召喚魔法は消費が激しいからな。ここぞというとき以外はとっておかないと」
「そうだぞチビ。お前は割と戦力になるんだから大人しくしとけ」
「ムー。そうか、じゃあ大人しくしているとしよう」
ミルは少し残念そうだけど、ちゃんと言うことを聞いてくれている。
ミルはとっておきだ。
召喚魔法はかなり強力だからな。
真ん中の道を歩き始めて小一時間。
目の前に扉がある。
『間』の時のように大きいものではなく普通に人間サイズだが、同じように石でできてあるため、威圧感がある。
「この扉、なんだろ?」
「よくわかんねぇな。とりあえず開けてみたらどうだ?」
「そうだな、じゃあ二人とも下がっててくれ。罠があるかもしれないからな」
二人を三メートルくらい後ろに下げる。
扉を開けるのは俺。
何が来てもいいように【雷纏】を発動させておく。
俺は扉に手を付け、押し開く――
「罠はなかったぞ」
扉は何事もなく開いた。
罠が飛んでくる気配もない。
俺の言葉にラルフ達が寄ってきた。
「そうか、中は――んー?なんだここは」
中は広場だった。特に何も置かれてないし、洞窟のままだ。
うーん、嫌な予感がする。
「どうする? 入ってみるか?」
「もちろん、入る。何かあるかもしれないし出口への道が隠れてるかもしれないしな」
「ワタシも入りたい! 気になるのだ!」
「わかった。じゃあ入ってみるか」
俺たちは一歩踏み出す。
本当に何もない部屋だな。
そんなことを思いながら辺りを見回していると――
『お前たち、外に出たいんだろう?』
部屋に声がこだまする。
どこからの声だ?
周囲には誰もいない。
「ギル、ミル、逃げれるように準備してたがいいと思うぞ」
「ワタシは走るのが遅いから抱えてほしいのだ」
「ああ、その時は俺が担ぐから大丈夫だ」
と、そんな感じで緊張していると、部屋の中央に霧が出始めた。
魔物が消滅するときと同じ霧だ。
俺たちは武器を構える。
しばらくすると、そこには頭に角を生やした執事服の男が出てきた。
二十代前半くらいに見える。
体格は痩せているとも太っているとも言えない。
「私はこのダンジョンのコアを支えている悪魔だ」
男はそう名乗る。
悪魔、本で読んだことがあった。
人が召喚するか、ダンジョンで発生するかで顕現する人型の生物。
生体は詳しくわかっていない。
「ダンジョンコアを支えている……?」
俺は疑問を口にする。
いや、このダンジョンで生み出されたって意味なんだろうけど、確認だ。
「そうだ。このダンジョンを創った方の右腕、といったところだ。敵対意思はない」
「おいおい、敵対意思がないからって言われてはいそうですかって武器を下せるわけねぇだろ?」
ラルフが凄む。
しかし悪魔と名乗った男の顔はピクリとも動かない。
「ならば武器を下さずともいい。重ねて問うが、お前たちは外に出たいのだろう?」
「ああ、外に出たい」
俺が返事をすると、悪魔は――
「ならば、外に出してやろう」
あっさりと言った。
「え、ええっ? どういうことなのだ?」
ミルも困惑している。
「この先にはダンジョンコアがある。まだ生まれてまもないこのダンジョンにはコアを守る防衛設備もない。ここから先に通すわけにはいかないから外に転移させてやると言っているんだ」
「なるほど。このまま先に進むと俺たちがコアを破壊するかもしれないからってわけか」
別に俺たちにもコアを壊そうって気があるわけじゃない。
ダンジョンコアを壊してもメリットなんて無いからな。
レアアイテムとかドロップするわけでもなく、ただダンジョンが朽ちるだけ。
たまに魔物が外に這い出てくるダンジョンがあって、そういう時は大掛かりなパーティが組まれて壊されるとは聞いたけど、俺たちには関係のない話だしな。
「外に出してほしいんだが……信頼できないな。転移魔法に見せかけて攻撃されたんじゃ笑い話にもならない」
俺は食って掛かる。
すると――
「信用する必要はない。『今から転移させる』という事実を知らせたかっただけだからな。後はこちらで勝手にさせてもらう」
「えっ?ちょ、まっ!」
俺たち三人の足元はこのダンジョンに来た時と同じ、白い光に包まれていた。
えっ、えー?
最初っから俺たちの意思関係なかったのかよ!
そして光が収まったころ。
俺たち三人は洞窟の外に突っ立っていた。