◇25 竜の剣 そして上層
「ギル!オレたち下級竜を倒しちまったぞ!」
「おう!やったな!」
「ワタシも役に立てたのだ!」
三人でハイタッチを交わす。
俺に腹を抜かれた竜は、現在もなお霧になって消えていっている。
面積が広いからすべてが霧になるのに時間がかかっているのだ。
「そういえば、ラルフとミルのあのスキル、どうやって手に入れたんだ?」
「ああ、実はオレが戦ったオーク、結構強くてな。刃が通らなかったからどうにかできないかな、って思って試したのが魔法武器ってわけだ。存在自体は知ってたからな。運よく成功して、気づいたらスキルになってた」
「はぁ、なるほど。ラルフには魔法武器の才能があったんだな」
【魔法武器】というスキルは取れる人物とそうでない人物が大きく分かれる。
取れる人は本当にあっさり取ってしまうし、取れない人は何年も修行しないと取れない。
それゆえ、ユニークではないけど習得が難しいスキルとして知れ渡っているのだ。
失敗する人は魔力の込めすぎで武器を壊してしまうことが多いらしいから、魔力操作が得意な魔法使いが覚えやすいスキルだと言われている。
どうやらラルフは前者のあっさりとれるグループだったようだ。
「ミルはどうなんだ?」
ミルのスキルについても聞く。
俺も冒険者ギルドの本棚である程度この世界の知識を詰め込んだ自信はあるが、【同化】なんてスキルは聞いたことが無い。
恐らく召喚士の希少さも相まっているんだと思うんだが、少なくとも俺は知らなかった。
「実はワタシも『間』で苦戦してな。でだ、召喚した魔物がワタシを守ろうとしたとき……なんかピカーンって光ってワタシは強くなっていたのだ!」
えっへん、とあまりない胸を張るミル。
「ごめん、よくわからなかった。でもまぁ、ミルにはそれ以上を求めてないし聞かないことにするよ」
「えっ!それはどういう意味なのだ!」
ミルは既に俺の中でアホの子認定されているということだ!
と、そんな感じでスキルについて語ったあと、丁度竜がすべて霧になって消えた。
そして、竜のいた場所には大きく、煌びやかな宝箱が設置されている。
箱だけでも相当な値打ちが付くんじゃないんだろうか。
そう思わせるほどに高級感が溢れている。
「ミル、ラルフ、開けるぞ」
一言声をかけて、俺が開ける。
宝箱を開けるときには、木の軋む音すら無かった。
内側には赤いクッションのようなものが引いてある。
そして、クッションの中央には思わず二度見してしまうほどの、綺麗な片手剣が入っていた。
長さは俺のショートソードと丁度同じくらいで、持ち手と鍔の部分には竜のレリーフが入っている。
刀身は引き込まれそうなほどの淡麗な白。
所々に金色の装飾がなされてあるが、派手ではなく上品にまとまっている。
至高の剣だ。
「ギル、どんなのだったんだ――って、うおっ! これは凄いな! こんなのAランクでも中々持ってないぞ!」
「すごく格好いいのだ!」
「ああ、本当にな。この剣、どうする? 外に出られたら売りに出すか?」
「ん、オレは別にそのまま使ってもいいと思うぞ。上位ランクになるごとに結局は武器を変えなくちゃいけないんだ。なら手元にあった方がいいだろ? ギルが使えよ。オレじゃそのサイズは扱えないからさ」
ミルも同じ意見だ、と言うように首を縦に振った。
「いいのか? ラルフ、ミル。これがあれば数年は遊んで暮らせると思うぞ?」
「ワタシは別にお金が欲しくてやってるわけじゃない。楽しければそれでいいのだ。だから、どっちでも構わないぞ」
「金欲しさに装備ケチって死にたくないだろ? せっかくいい武器手に入れたんだから使っとけよ」
「そうか……じゃあこれは俺の武器にするよ。二人とも、ありがとう」
俺の言葉に二人は短く返事をする。
これからはこの剣と魔法が主兵装だ。
王都に着いたら鑑定もしてもらいたいな。
そのためにもまずは、このダンジョンを抜けないと。
俺たちは既に開いていた扉の先へ歩く。
俺たちの目の前に広がった光景、それは道が枝分かれしている洞窟。
周りに岩がゴツゴツしており、魔法具で辺りが照らされていることには変わりはない。
ただ、一本道ではない。
恐らく『間』を全て超え、あとは普通のダンジョンということだろう。
このダンジョンは転移によって下層から始まり、『破壊の間』があったのが恐らく中層で、ここは上層と言うわけだ。
着実に出口は近づいてきている。
早くここを超えて外に出よう。
「オレは右だと思うぜ」
「ワタシは左だと思うぞ!」
「いやいやいや、オレの勘では右だな」
「ムム! ワタシは絶対に左だと思う! ラルフの勘は当てにならないのだ!」
「んだと、このチビ!」
「るっさい悪人面!」
「はいはい、喧嘩すんな。間をとって真ん中だな。さぁ、行くぞ」
「お、おう? やけに積極的だな、ギル」
いつもは仲裁か傍観に徹する俺の違いに驚くラルフ。
何度も言うが、早く外に出たいのだ。
何が悲しくてこんなダンジョンに籠り続けないといけないんだ。
本当なら今頃王都で楽しい観光の日々を送ってたんだぞ!
くっそー、早く美味い飯食って大会で腕を振るいたい!
こうして、俺たちは真ん中の道を少し足早に歩きだした。