◇24 再会 そして下級竜
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「ラルフ、ミル!無事だったんだな!」
「おう!ギルこそ無事で何よりだ!」
「ワタシもギルが生きてて嬉しいぞ!」
俺はすぐに扉をくぐり、ラルフたちがいる部屋に入る。
そこは円形のホールのような場所で、魔法具の光は弱く、薄暗い、不気味な雰囲気だ。
扉は全部で四つあり、俺がやってきた扉を含める三つの扉が弧を描くようにして設置されている。
最後の一つは入ってきたものよりさらに大きく、異様な雰囲気を醸し出している。
と、そこで一番大きな扉からガタンッと大きな音が鳴った。
三人の視線が扉に集まる中、ラルフがつぶやく。
「多分……扉が開くようになったんだな」
「扉が開く?どういうことだ?」
「このダンジョンは特別な構造をしているらしくてな。入り口に入った瞬間に一人ずつに分断される。そこまではギルも分かってると思う。でだ、ミルとずっと考えてたんだが、恐らく分断された全員がそれぞれの『間』を攻略して、生き残った全員がここの部屋に来た時、奥への扉が開いて最後の『間』に挑戦できるって仕様なんだ。つまりはここから先は三人で挑むってことだな」
「なるほど。というか、二人はどのくらいでここにたどり着いたんだ?やけに早かったようだけど」
「オレは転移させられて丸一日くらいかな。『間』の数は二だった。結構ギリギリで危なかったんだぜ?」
「ワタシは八時間くらいなのだ!『間』の数は四つだったぞ!出てくるのはとにかく多かったけど、新技で倒してやったのだ!」
「おっ、新技って見方ならオレもあるぞ!次の『間』で見せてやるよ!」
どうやら二人も苦労したらしい。
だが、それに応じて強くもなったようだ。
これは期待できるな。
それに、ラルフの装備に目をやると、ラルフは武器が短剣からククリナイフに変わっており、頭にはターバンをバンダナ風に掛けている。
対するミルは黒いローブが装飾の付いた高価そうなものに変わっている。
「ミル、旅に出る前新調したローブはどうしたんだ?」
「破れたのだ!だからドロップ品のこのローブを使っている!」
破るの早いな!
恐らくラルフのものもドロップ品だろう。
それに、強敵と戦ったのだとしたら魔法具である可能性が高い。
なかなか装備品も整ってきたようだ。
と、ここで次の扉の攻略について話し合う。
「すまない、二人とも。さっきの戦いで魔力を消費してしまってるんだ。少し休憩してから突撃でいいか?」
「おう。オレは別に構わないぜ」
「うん、ワタシも気にしないのだ!」
「ありがとう、助かるよ」
こうして、二時間ほど携帯食料を食べたり、雑談しながら過ごすことにした。
ラルフの戦った敵は標準より一回り大きいオークと黒い魔物として現れた俺。
ミルはゴブリンの群れ、コボルトの群れ、と全て弱い魔物の群れだったようだ。
明らかに俺だけ強敵を出し続けているな。
実力別に分けられたのだろうか?
というか、それ以前にみんなは普通に地面に転移したらしい。
空中転移ってひどすぎるだろ!
そう考えている間にあっという間に時間が過ぎた。
「二人とも、次の『間』も誰も欠けずに攻略して、地上に帰ろう」
「おう!もちろんだぜ!」
「わかったのだ!ワタシも頑張る!」
二人が俺の鼓舞に応じる。
次は『破壊の間』。
扉には代表的な三属性である火、水、土属性が描かれている。
もちろん雷と光はない。
俺の適性の雷魔法と【光翼】のスキルとともに手に入れた光魔法は描かれていない。
俺が先頭に立ち、扉に触れる。
扉から漏れた光が今まで俺たちがいた部屋を明るくする。
どうやら今回は最初から明かりが灯っているようだ。
グギャアアアアアアア!
中央にいたのは――成体ではない下級竜。
大きさ約八メートルで、黒い鱗を全身に携えている。
その見た目は邪悪。凶悪な牙、長い爪。これでもかと言うほど人を殺せる要素を持っている。
下級竜だ。Aランク四人程度の実力。
まだ生まれて間もないから、さしずめCランク四人くらいの実力か?
大丈夫だ。俺らなら、倒せる。
このダンジョンに籠っていたのは僅か二日。
でも、俺たちは時間じゃ測れないくらいの戦闘経験を積んだはずだ。
「いくぞ!ラルフ、ミル!」
俺たちは勢いよく飛び出す。
【雷纏】は既に発動してある。
足に集中させる【迅雷】ではないのは、一瞬で体力を消耗してしまうからだ。
「【魔法武器】!」
ラルフが走りながら武器に炎を宿す。
魔法剣、だ。
ユニークスキルではないが、通常のスキルの中でも強力で、習得が難しい部類だ。
ラルフは加速する。その速度は俺を超えている。これも何らかのスキルだろう。
一足先に竜の目の前に到着したラルフは、竜の爪攻撃をかわしながら、その燃えるククリで喉元を焼き切る。
切り口は浅いが、竜は火傷を負ったようだ。ブレスはこれで防ぐことができる。
「【同化】、なのだ!」
可愛らしい声と同時に、後ろからミルが掛けてきた。
頭には狼のような耳――って獣人じゃないか!
尻尾もちゃんと生えている。
どうやら召喚した魔物の特性を盗んだらしい。
四足歩行で竜の腹の近くまで駆け寄り、爪を立てて交差させて切り裂く。
竜の腹から血が噴き出した。なかなかの鋭さのようだ。
よし、最後は俺の番だ。
ミルが傷つけた腹に向かって一直線に走る。
右手には雷魔法だ。
バラムさん型の魔物と戦った時のように、腹に魔法をぶち込んで、爆発させる。
これが今のところ俺の持つ魔法で一番威力が高い。
【雷纏】として身体が強化できるようになって、同時に魔法を発動することが少し楽になった。
これに雷攻撃上昇の効果もかかる。
正真正銘最強の一撃だ。
「うおおおおおおおお!」
竜の腹を殴りつける。
拳からは血が飛び散ったが、気にしない。
竜の体内に雷の魔法を流し込む。
そして、膨張、爆発!
激しい爆音。
辺りは煙でいっぱいになっている。
竜の姿は見えない。俺の魔法で後ろに吹き飛んだようだ。
「まだ、油断するなよ……!」
俺は静かにラルフたちに言う。
彼らは声をかける必要が無かったと感じさせるほど真剣な表情だ。
ズサッ
音が聞こえる。
それは、何かが立ち上がった音に聞こえた。
グギャアアアアアァァァ!!
そして、数秒も置かずに聞こえてくる咆哮。
煙が晴れ、下級竜の姿を認識できた。
腹に大きな傷を負わせているが、まだ仕留められていない。
相手は手負いの肉食獣。
一番危険な状態だ。
だったら、俺が遠距離から仕留める。
右手に込めるのは雷の魔法。
発生。属性。性質。形。軌道。威力。消滅。
全ての要素を頭で想像する。
雷撃。
雷属性で、レーザー状、まっすぐの高威力。
まるで一度みた光景を再現しているかのように、スムーズに頭が働く。
「これならイメージなんて、簡単だ」
そう自然と口から漏れるまで、今回の構築は完璧だ。
この世界に来て三度目の極限の集中。
異形のゴブリンとの戦い――落下による絶対絶命――そして、今。
俺は絶対に外さない。
――そう、絶対に、外さない。
俺は確信していた。
――放つ!
それはこの世界で最初に放った全力の魔法。
だが、スピード、威力、大きさ、全てにおいて上回る。
そんな魔法が、打ち勝てないはずがないだろう。
先ほどの爆発に続いて二度目の爆音。
爆発ではないそれは、煙を巻き起こすことはない。
そして、俺らの目にはっきり映る。
大きな風穴を開けられ、ゆっくり霧へと変わっていく下級竜の姿が。
俺たちは、竜を倒したのだ。