◇23 即死回避 そして雷光
『四面楚歌の間』を攻略して、歩き続けること一日。
晩飯にカラス肉をむさぼり、元気いっぱいな俺は今日も歩き続ける。
と、そこで見えたのは新たな扉。
今回の刻まれているのは交わる剣だ。
『試練の間』
なんか出てくる敵強そうだな。
試練っていうからには俺より格上か?
深呼吸をする。さっきの『四面楚歌の間』のように、楽にはいかないだろう。
ポーションも持ってない。
でも、やるしかない。
行こう。
俺は扉に手をかける。
その瞬間、俺の【即死回避】が警報を鳴らす。
『戦うな、逃げろ』と。
でもまぁ、戦うしかないんだけどな。
逃げ道が塞がれて物理的に無理だし、この先に進まないと抜けられないわけだし。
【即死回避】の警報を無視し、扉を開き終えた後、光が灯り最初に見えたのは――黒い人型の何かだった。
それが二人分。その形には見覚えがあった。
―—バラムさんとブラントさん。
俺にとって師と呼べる二人だ。
なるほど。”師を超える”、それが試練ってわけか。
いいだろう、受けて立ってやる。
俺だって成長しているということを、嫌と言うほど分からせてやる。
身体の魔力を循環させる――【雷纏】、発動。
俺の顔は少しだけ喜びを頬に浮かべている。
嬉しいのだ。
作り物とはいえ、師と戦えることが。
自分より遥かに強いその人と力比べができることが。
それも、生死を気にせず思いっきり。
俺は戦闘狂なのだろうか?
――いや、違う。
作り物の師を本物と重ねて、俺のここまでの努力を認めてもらった気になって、自己満足したいだけだ。
でも、それが今の俺の動力となるならそれでいい。
前に進めるのだから。
俺の生半可な機動力じゃ太刀打ちできないし、持久戦になればなるほど【雷纏】の負荷が重くなる。
ならば、一撃必殺。
【雷纏】を構築しなおす。
足にすべての魔力を集める、一点特化型。
『雷を纏うほど練度が高い身体強化魔法の形態』を即座に作り上げるスキル【雷纏】をさらに一点に集めるのだ。
速度は恐ろしいものになるだろう。
ここまでが戦闘準備だ。
相手も武器を構え終わった。
だが、構えた武器は使わせない。
バチバチバチ!!
高速でバラムさん型の黒い魔物の目の前に移動し、腹に握りこぶしで雷の魔法を打ち込む。
殴った後に少し遅れてきた雷の爆発により、腹には大穴が開いていた。バラムさん型の魔物はそのまま霧になって消える。
これは、タンクであるブラントさん型の魔物が、俺の動きを見抜けずに、援護に回れなかったからだ。
本物のブラントさんだったら、即座に間に入っていたかもしれないが、考えても仕方がない。
あとは一対一。
今の一撃で高速移動での攻撃は見抜かれた。もう通用はしないだろう。
だが、負ける気なんてない。
俺は足に回していた魔力を全身に戻し、【雷纏】を構築する。
ブラントさんの堅い守りを抜くためには、様々な角度からの一斉攻撃が確実だ。
ならば答えは簡単。
イメージは稲妻。
それもガーゴイルを倒したときのように簡単なものではなく、軌道と性質を大幅に変える。
相手の間近で右と左に分裂し、ブラントさん型の魔物を間に挟んだところでさらに分裂し、襲い掛かる。
それを三セット。
魔力を大分消費してしまうけど、それほどまでしないと勝てない。
魔力が右手に集まる。
もちろん、【雷纏】の分を除いてだ。
右手が徐々に熱くなっていく。
だが、それは心地よくもある。生命力と密接な関係にある魔力を集めているからだろう。
俺の右手にあつまった雷が、地面や壁に引き寄せられ、降り注いでいる。
今回イメージした性質の分裂がしっかりとできているからだろう。
想像によって手にできる雷の見た目や動きも違ってくるのだ。
後は放つのみ。――とそこでブラントさん型の魔物に接近されていることに気づく。
集中しすぎていたようだ。
【雷纏】を発動したままだった俺は、後ろに飛び、ロングソードの一撃を回避する。
その一撃は、真上から振り下ろす攻撃だった。
地面に亀裂が入る。
なんて威力だ。コピーとはいえ、ブラントさんなだけある。
だが、所詮は模造品。
性能の劣化は免れない。
空中にいるままの俺は維持していた右手の雷魔法を放つ。
手から放たれたそれは、一瞬ブラントさん型の魔物に直進したように見えたが、次の瞬間には間に挟むようにして展開していた。
そして、様々な角度からの雷撃が放たれる。
この一撃は盾で全方位防ぐことは出来ない。
その魔物は正面のものだけ防ぎきる。
三セット放つ。ブラントさん型の魔物の背中はもう火傷と呼べるほど生易しいものじゃない。
黒い霧のようなものでできているから、よくわからないが、現実だったら皮膚は完全に溶け切っているだろう。
そんな攻撃が入ったにもかかわらず、それは立っていた。
だが、そこまで予測していた俺は、既に後ろに回り込んでおり、ショートソードで突き貫く。
魔力切れだったので、仕方なくショートソードを使うことになったのだが、その一撃は【雷纏】の見せる鮮やかな軌道により、『雷光』と呼ぶにふさわしい一撃だった。
ブラントさんの堅さの要因は圧倒的経験による盾での立ち回り。
装甲自体は脆いのだ。
よって、剣でも通用する。
貫かれたまま、ブラントさん型の魔物も霧となって消えた。
俺は剣をしまい、立ち尽くしたまま、呟く。
「劣化版とはいえ、師匠に勝てたんだな」
俺はまた一つ、強くなった実感を得た。
得難い歓喜。
そして、それに連なるように扉が開く。
「ん?おい、ミル!ギルが来たぞ!」
「おおお!ギルも攻略できたのだな!」
――三つ目の扉の先にいたのは、俺の仲間だった。
名前:ギル=セイクリッド
種族:人間
歳:16
加護:なし
スペシャルスキル:【限界突破】【即死回避】
ユニークスキル:【雷纏】【迅雷】【光翼】
スキル:【炎魔法+】【水魔法】【土魔法】【雷魔法+】【光魔法】【魔力感知】【魔力集約効率化】
ランク:D
パーティ名:なし
パーティランク:D
パーティメンバー:ラルフ ミル=クレーネ