◇21 正念場
まだ、意識を手放したらだめだ。
俺は暴れる視界の中で、無理矢理立ち上がる。
俺の死で悲しむ人がいる。
こんなところであっさりと死ぬわけにはいかないんだよ。
ガタガタと震える腕に鞭を打ち、腰のポーチに掛けてあった薬を取り出す。
転生した時に持っていたものだ。
コルク栓を歯を使って抜き、青い液体を一気に飲み干した。
「ぐっ……はあっ」
腹の傷が、新たに皮膚が作られているかのように徐々に塞がり、意識が明快になる。
とても下級のものとは思えない。上級のポーションだろう。
俺が余韻で少しふらつく足をただし、目の前にいるゴブリンを視界に入れると、それはニヤニヤとしながらこちらを見ていた。
俺が飲み干し、回復するのを待っていたのだろう。
もちろんその理由は対等に戦いたい、なんてものじゃない。
完膚なきまでに叩き潰し、俺の心を折りたいのだ。
魔物ながらにそんなことを考えられるほどの知恵があるなんてな。
さすがはユニーク、ってとこか。
回復はしたが、まだ絶体絶命は変わらない。
だが、ここが正念場だ。
一発を入れるのがやっとだった過去を超えるんだ。
体内の魔力を再び駆動させる。
俺の雷を作り出す魔力のせいだろうか、体のいたるところから放電が起きている。
不思議と体が軽くなった気がした。
右手には身体強化に回した以外の魔力を集中させる。
装備しているコートが、俺から出される激しい風に揺られる。
魔力の高まりに呼応して、大気が荒れているのだ。
さすがにまずいと感じたのか、ゴブリンが再び突進してきた。
身体強化魔法の練度が上がったのか、思ったより早く感じない。
これなら、いける!
俺はそのまままっすぐ駆けだす。
俺の方が、早い!
この状態で新たな魔法の構築、発射は困難だ。
だから、直接魔法を叩き込む。
ゴブリンの頭を鷲掴みした。
まっすぐ壁へと走りながら、右手に込めた魔力を雷に変換する。
ゴブリンは俺に引きずられている状態だ。
「うおおおおおおおお!」
激しい雷の音。
右手から直接流し込まれた魔力に、既にゴブリンは所々が焼け焦げている。
だが、まだ生きている。
ドガァッ!
そのまま、壁に叩きつける。
雷を絶え間なく流し続ける。
俺の魔力が尽きるまで。
バチバチバチバチ!
――グギャアアアアアアァァァアアアアアア!!
まだだ、まだ持続させる!
グチャ、バチッ、バチバチバチッ!!
――ギャアアアアアァァァァァァァァアアアアア!!
数秒間断続的に続いた激しい閃光の後――――立っていたのは俺の方だった。
意識が朦朧とする。
失った血は薬では戻ってきていないのだ。
俺はそのまま後ろに倒れこんだ。
だが、その顔は歓喜に溢れている。
「よっしゃああああああ!」
無性に叫びたくなった。
過去、自分が歯が立たなかった相手を倒したのだ。
ふと、視界に霧になって消えるゴブリンが移った。
そうだ、ドロップ品!
俺はガバッと上半身を起こし、確認する。
そこにあったのは腕輪。
すぐに手に取る。
それは質素な作りで、銀でできているリングに、ドラゴンのレリーフが刻まれている。
入ってきた扉に描いてあった紋章にそっくりだ。
きっと魔法具なんだろうな。
こんな苦労して飾りとかだったら笑いにもならない。
ひとまずつけてみよう。
俺の腕より一回り大きい腕輪だったが、着けると自動的に俺の腕ぴったりのサイズになった。
すごいな、魔法具。
どんな効果があるんだろう?
魔法に関するものかな?
俺は手を前に出し、火の玉を作ってみる。
すると、出てきたのは今までより一回りサイズが大きい火の玉だった。
おそらく、変換効率を一つ分、上のランクに上げてくれるんだろう。
これは助かるな。無条件に魔法の威力が一段階強化されるわけだ。
とりあえずずっと付けておくことにしよう。
そういえば、俺が雷を纏ったのってなんなんだろうな?
考えること十数秒、結論が出る。
多分、魔力を高速で循環させたときに、溢れた魔力が外に漏れてしまったんだろう。
魔力のまま外にいることはできないから、無意識のうちに雷に変換して放出したんだと思う。
ただ、この現象は見た目だけではないらしい。
自分の持っているスキルは自然と頭で把握することができる。
そのせいか、雷を纏った瞬間、俺の頭の中に一つの情報が浮かんできた。
スキル【雷纏】。
俺が偶然起こしたこの放電をしている状態が、スキルとして認められたらしい。
効果は機動力の上昇と雷攻撃の威力上昇。
スキル欄から身体強化魔法が消えていたことから、恐らく統合されたのだろう。
以前のように身体強化魔法を使おうとすると【雷纏】が自動発動するみたいだ。
これは良いスキルを手に入れた。
習得難易度が高い……というか他人じゃ習得できないから、ユニークスキルってことになるのかな。
ああ、それと落下するときに使った光の翼もスキル化していた。
【光翼】。
効果はそのまま空を飛べる。
恐らく、ただの魔法を飛ばすのは【〇魔法】のスキルとして含まれるが、一つの”技”として作り上げたものは、この世界、もしくは俺が出会った神に認識され、【雷纏】や【光翼】のようなスキルになるんだと思う。
まぁ、難しい話はどうでもいい。
つまりは俺は、『希少なスキル』と定義されるユニークスキルを二つ獲得したわけだ。
これらのスキルは普通のスキルより格が一つ上であり、カード上にもユニークの欄ができるほどだ。
なんだか強くなった実感がわいてきたぞ。
今ならさっき戦った弱体化ユニークゴブリンと互角に戦えるんじゃないだろうか。
倒してしまったから測りようがないけど。
そんなことを考えていたとき、ふとさっき閉まった扉が気になり見てみると、入ってきた方と逆側の扉が開いていることに気づく。
入り口の扉と全く同じ形だ。
俺が入ってきた扉は開いていない。
先に進めってことだろう。
だけど、魔力を大量に消費しててきつい。
少しくらい、休んでいいだろう。
俺は少し休憩してから進むことにした。
名前:ギル=セイクリッド
種族:人間
歳:16
加護:なし
スペシャルスキル:【限界突破】【即死回避】
ユニークスキル:【雷纏】【光翼】
スキル:【炎魔法+】【水魔法】【土魔法】【雷魔法+】【光魔法】【魔力感知】【魔力集約効率化】
ランク:D
パーティ名:なし
パーティランク:D
パーティメンバー:ラルフ ミル=クレーネ
ステータス表示を全体的に変えてみようかな、と思案中です。
ユニークスキルを獲得しましたが、使い手が未熟なのでさして強くなってません。
恐らくまたユニークのゴブリンと戦っても負けるでしょう。
同じように死ぬ気で戦ってギリギリ勝てる位です。
スキル化について
文中通り、一つの”技”として認められた時にスキルになります。
スキル化による効果は様々で、魔法の展開が容易になる、威力が上がる、負荷が少なくなる……etc
技がスキル化する、と言うのは一種のステータスでもあります。
【雷纏】の場合、雷が溢れるほどの身体強化の形態にすぐになることができます。
それも【身体強化魔法】でその形態になるときの、五分の一くらいの消費です。
【光翼】の場合、念じるだけで翼が構築できます。
操作も容易になっているはずです。
物語の最中でこの設定を持ち出せたら、この説明文は削除しようと思います。