◆10 氷撃と斬撃
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僕とネレイドさんは、二人で冒険者五人と対峙していた。
相手は、恐らく『大草原の支配者』のリーダー、マグノリアとほかのパーティのものだろう。
マグノリアは地球では秘書をやってそうな、いかにも知的な女性だ。
青色の髪を肩の高さで規則正しく整えてある。そしてディオネから聞いた彼女に関する情報は一つ。
『水魔法の達人』であるということだけだ。
これは僕と相性が良くないな。相手はネレイドさんに任せよう。
「……ジル、俺は右の三人をやる。左の二人は任せたぞ」
「はい。やってみます」
ネレイドさんは僕が言わずとも、マグノリアの相手をしてくれることになった。
そして、僕が相手をする二人とは、顔全体を覆う白い仮面をつけ、先が二つに分かれた帽子をおそろいでつけている、そっくりな二人だ。
身長は二人とも僕と同じくらい。
彼らは、僕を指さし、嘲た様子で言う。
「なあなあ兄貴、マグノリア様がなにも言わないってことは、俺ら二人でコイツをぶっ倒すんだよなぁ?」
「そうだな弟よ。私たちが相手をするほかないだろう」
「ひゃはははは!明らかに弱そうな方じゃねぇか!」
ああ、なんだか面倒くさそうだ。
それが第一印象。
それはひとしきり笑い終わった後、再び口を開く。
「おい、そこのチビぃ!てめぇの相手はこの双子冒険者ぁ、弟のカピスと――」
「兄のトラーノで相手をしてやろう」
おい!僕と同じくらいの身長じゃないかお前ら!
バカにしやがってぇ……!
こんだけ挑発されたんだ。
少しは返してもいいだろう。
「えーと、カビとトラなんちゃらさんですね。ぱっぱとその減らず口を塞いであげますから、楽しみにしておいてください」
「あ、あ、あ。カッチーン。俺、ちょっと切れちゃったかもおおお!?」
「はっはっはっは。弟よ、私も今のは耐え難かったぞ」
弟は目に見えるほど激昂している。
兄の方は割と冷静……と思ったけど肩が震えてるな、相当抑えているようだ。
「じゃあ、ネレイドさん。僕たちは少し奥でやってきますね。すぐに行動不能に持ち込んできます」
「……ああ」
ネレイドさんの返事を聞いたあと、僕は左に走り、移動する。
あれだけ挑発に乗ったんだ。ついてくるだろう。
「うおおおおらあああああああ!!どこに逃げてんじゃあああああ!」
「待てえええい!成敗してくれるわあああああ!」
予想は的中したみたいだ。二人とも大声をあげながら、遅いスピードで追いかけてくる。
姉さんの動きで慣れてしまった僕にとっては、カメと呼ぶのもおこがましい速度だ。
仕方がないので少し速度を落とし、走る。
さて、ここならいいだろう。近くにあった荒原だ。
ネレイドさんともたいして離れていない。
僕は、やっとの思いで追いついてきた双子と対峙する。
「さぁて、さっそく戦闘を開始しますか。約束通りその口を塞いであげますよ」
「はっ、それはこっちのセリ――!!」
相手の言葉を待つ必要はない。
僕は素早く距離を詰める。狙いは弟だ。
先ずは右のハイキック――空振りだ。相手も伊達にAランクではないらしい。
キックの軌道にキラキラとしたものが舞い散る。
そして間髪を容れずに黒い刀身の短剣を抜刀。連撃を入れる。
僕と弟は互いに走っている。だが方向は逆。
僕が追い詰めているのだ。それも軽く駆け足程度あるスピードで。
対する弟は後ろ歩きをしながら持っているロングソードで何とか凌いでいる。
しかし時折攻撃を防ぎきれず、切り傷を受けている。
弟は、極度に僕を恐れていることが手に取ってわかるような声を出す。
「な、なんだよコイツはぁぁぁ!強すぎるぞ兄貴!」
「うおおおお!弟よ、今助けるぞおおおお!」
「仲の良い兄弟なんですね。でも、貴方達は既に隔離されているんですよ」
「なっ、それはどういう――!?」
直後、兄の足と腕がビキビキと凍る。
僕の魔法だ。
「な、何故凍った!?」
凍ったのにはいろいろわけがある。
このスタイルを完成させるのに苦労したのは、実は相手を凍らせることである。
氷の塊を相手に向けて放つことは簡単だけど、相手を凍らせるには、対象に触れておかなければならないのだ。
理由は簡単で、僕の魔力の位置にある。
氷は僕の魔力を変換して作っているから、遠く離れた場所には出現できないのだ。
だから、相手に触れていないと凍らせることができない。
そこで僕は、なんとか遠隔で凍らせることができないか考えた。
一週間考えに考え抜いた結果が、水魔法との併用だ。
僕の攻撃のタイミングで水、それも目には到底見えない細かいものを周りに放出する。
その水の温度を人の体温より少し高いくらいに設定し、水の温度が人の体温に変化したら急激に下げ、凍るようにした。
キラキラ舞っていたのがその水、と言うわけだ。
だが、凍らせるのにはまだ水の量が足りなかった。そりゃそうだ、目に見えないような水が凍ったところで人体が凍るわけがない。
そこが一番悩んだところだ。だが、答えは至極単純なものだった。
水の持つ魔力を増やせばいいのだ。
僕たちは、魔力を増やせば増やすほど”大きく強力”なものが出ると思い込んでいる。
でも、そんなものはただの固定観念だ。
僕は水に込める魔力を増やした。イメージは先ほどの温度設定に、圧縮、そして膨張を付け加える。
魔力の力で水を可能な限り圧縮させ、温度変化とともに膨張する。
その結果、相手に触れ、水の温度が変化すると同時に膨張し、水が相手の体を覆う面積が広くなった後に凍る。
これがこの魔法の仕組みだった。
応用もできる。水が氷になる条件を、体温への変化ではなく、時間経過にすれば僕の攻撃の軌道上に、遅れて全く同じ形で氷塊が出現する。相手との間にできれば回避にも使えるし、指向性を強めれば敵に飛んでいく氷の刃にもなる。
さらに、氷魔法の特異性による魔法防具の無効もある。
僕はそうとう反則じみた力を手に入れたんじゃないだろうか?
「くっ、くそおおおおおおお!!」
「残念、チェックメイトだ」
弟も、既に僕の水に触れていた。
何もないところから拡大していくように出てくる氷に、弟は足と腕を地面に固定されてしまった。
さて、二人を動けなくしたことだし、ネレイドさんのところに戻るか。
僕は、なにやら叫んでいる双子を置いて、元居た場所に走った。