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◆6 魔法講習(氷) そして悲報

僕とアリエル姉さんは、訓練所に来ていた。


「さて、今日はジルがどの属性の魔法を使えるかを確認しようと思います」


「火属性以外のものってこと?」


「ええ、そうよ」


でも僕は近接主体だから、無理に覚える必要はないんじゃないか?

そう言ったら、『戦略の幅は広げておくべき』と返された。

まぁそうだな。素直に使えるようになっておこう。


「火のほかには”土”と”水”があるんだけど、それぞれの形をイメージして、火魔法みたいに具現化させることはできる?」


「試してみる」


僕は、水をイメージする

どんな温度か、流れはどうなっているか。

そして、火魔法を使ったときのように体の力を一点に集める。


よし、水ができた。大きさはバレーボールくらい。形は一切乱れていない。


「おお、すごくきれいだね。これは水の効率は高いと見た」


「効率?」


「ああ、人によって適性があって、一の魔力でどれだけの魔法を作れるか決まっているんだ。ジルはぱっと見火より水の方が高いね」


そうなのか。

というか、さっきあと”水”と”土”って言ってたけど、”氷”とか”雷”はないのか?

試してみよう。


先ずは雷だ。

授業の実験で見た、放電現象を想像する……が、何も起こらない。


あれ?やっぱり言わなかったってことはできないのかな?

とりあえず”氷”もやってみるか。


イメージするのは飲みものによく入れるあの氷。

肌ざわり、舌触りを想像して、具現化させる――


「おお、できた」


僕の手のひらの少し上にはゴルフボールくらいの氷ができていた。

不思議と冷たさは感じない。僕がだしたものだからだろうか。


姉さんは、僕をみて固まっていた。


「あ、あの。どうしたの?姉さん」


「ど、どうしたのって、それ、氷だよね?まさか、魔法で出したの?」


「え、あたりまえじゃん。逆にどうやって出すのさ」


「はぁ、やっぱり天才(ジーニアス)って二つ名は間違いなかったね。いい?氷属性は変換効率でゼロ以外を出したひとはいない、つまり誰も使えない魔法なのよ」


「え、えええ!?じゃあ僕だけが使える魔法ってこと!?」


「うん、そうなるね」


ええええええ。何気なく使って使えただけなのに。

【全知全能】の効果なのかな?

うーん、なんか厄介ごとに巻き込まれそうだな。

だって誰も使ったことない魔法だよ?


そんなことを考えていると、姉さんは、何かを決心したように頷き、言った。


「ジル、今日から魔法は氷魔法だけを伸ばしなさい。それはキミにとって大きな武器になる」


「え?じゃあ火魔法とかは?」


「火魔法、いや、火に限らず全部の属性の魔法は、対人にはあまり向かない。それぞれを防ぐための魔法防具(マジックアーマー)が出回ってるからね。でも氷魔法は対策なんて一切ない。氷魔法が使えるだけでジルの戦闘ランクが一段階上がったも同然なんだ。だから他の属性は練習しなくてもいい。もともと標準以上はできてるんだ。極める必要はないわよ」


「そうなんだ。じゃあ僕はこの力を伸ばす、活かす戦法を身につけるって感じでいいんだね?」


「ええ、その通り。あー、でもこれで魔法に関しては教えられることがあまりなくなっちゃったな」


「そんなことはないよ。僕は素人だ。魔法と近接の組み合わせなんて全く思いつかない。姉さんに教えてもらうことはまだまだある」


「ジル……!」


姉さんは、感激した、と言うような顔で目をうるうるさせ、手を胸の前で組みながらこっちを見てきた。

姉さんは美人だし、こういう仕草をすると本当に綺麗だな。


「じゃあさっそく模擬戦だね!あたしも魔法を混ぜながらやるから、いくつか真似してみて」


ごめん、さっきの訂正。

またボコ殴りにされるんだ、僕。



—————————————————————


よし、完成だ。

これが僕の、僕だけの戦闘スタイルだ。


「うん、いいんじゃないかな。初見の相手じゃ絶対に見抜けない」


「ふう、苦労した甲斐があったよ」


氷魔法を覚えた日から、さらに二週間が経った。

あれからは姉さんとの模擬戦に加え、個人で戦闘のイメージトレーニングを行っている。

そして昨日の個人練で、やっと形ができたのだ。

その戦法を見せた結果がこれ、と言うわけだ。


あれ?もしかして僕、この戦法の開祖だよね?

『オルクス流魔闘法』みたいなね。

あ、氷魔法って僕しか使えないんだった。


そんなことを一人で考えていると、ネレイドさんが、影からヌッと出てきた。

珍しいな。いつもは訓練所に来ることはない。

姉さん曰く、みんなは訓練する必要が無いほどの実力者として、既に完成してるから、ここに来るのは僕くらい、ということだった。

うーん、その考えはあまり好きじゃないな。つまり自分の限界を認めてしまった、ってことでしょ?

まぁ、そんなことを考えてても仕方ないし、他人の考え方に口出すのもどうかと思うから言わないけど。


思考を止め、ネレイドさんを見ると、いつになく慌てている。

いや、別にそういう仕草をするような人じゃないから完全に雰囲気だけど。

でも、なぜだ?ネレイドさんが慌ててるところなんて初めて見たぞ。



ネレイドさんは、低い声で、僕たちに伝える。



「悲報だ。遠方で活動していたフェーベが帰還途中に襲われ、拘束された」






この出来事をきっかけに、僕の人生は大きく、そして歪に変わっていくことになる。

そのことを、まだ僕は知らない。






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