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◆5 加入の理由

ジルとしてこの世界に転生して、一週間が経った。


僕はあれから毎日体を鍛えている。

もちろん、模擬戦もしているが、一本もとれていない。

あの圧倒的なスピードを埋める力と経験がまだない。

しかし、アリエルは日に日に上がる僕の実力に喜んでいるようにも見える。

僕は強くなっているのだろうか?


ギルドの人とも知り合い程度にはなった。

寡黙なネレイドさん。いつも冷たい目つきをしているけど、実は優しい。

この前、野良猫に餌をやっていたのを見た。

時々影からヌッとでてきて、まだ慣れないギルド内でさまよう僕に、道を教えてくれた。

いい人だ。


食料調達担当のイオさん。口調が『ござる』だから元日本人としては微妙な心境だけど、気の良い性格をしている。年齢は三十代だろう。髪は短髪で、茶色だ。

ちなみに体系はがっちりムキムキだ。刀も持ってなくて、大剣を背中に背負っている。

侍じゃないのかよ!

食料担当として、市で肉や魚を買ってきたり、時には自身で獲物を捕りに行ったりしている。


調理担当のディオネ。普段は気の弱い女の子だが、歳が近いってこともあって、僕相手には結構フレンドリーだ。ちなみに彼女は十六だ。髪は薄い青で、ショートボブにしている。

毎日、僕たちにとてもおいしい料理をふるまってくれている。

仕事では、戦闘要員ではなく情報収集を主にやっているらしい。



他にも、特徴的な人がいる。

ギルドの人数は僕とギルド長を含めて九人だからあと四人だな。


その中でも絶対に近づきたくない人が一人。


エウロパさんだ。なんだろうか、いつもフードを被っていて、口には狂気的な笑みを常に浮かべている。

乱れた無造作な紫の髪をしていて、身長は僕より少し数センチ高いくらい。

そして、毎日血の匂いがする。

暗殺者ギルドに依頼が来るのは週に一回あるかないかくらいだ。

一度にもらえる金銭が大きいので、それでもギルドは回っている。

つまり、この人は私事で毎日人を殺している。

危険人物だ。迂闊に近寄れない。


僕は、アリエルとの模擬戦が終わり、ログハウスであるギルド内をぶらぶらしていた。

すると、洗濯物を抱えて女の子が歩いてくる。ディオネだ。

みんなもこのログハウスに住んでいるから、洗濯物はディオネが管理している。


「あ、こんにちは。ジルくん。って怪我してるじゃないですか!無茶しすぎですよ」


「あはは、アリエルにまた負けちゃって。なかなか勝てないんだよなぁ」


「それは仕方ないですよ。アリエルさんは冒険者時代、Sランクにも届きうる存在、って言われてましたから」


あれ?そうだったのか?アリエルが冒険者だったってことも初めて知ったぞ。


「初めて知った。アリエルってそんなに凄い人だったんだな。でもなんで冒険者が暗殺者に?」


「アリエルさんは、大きな依頼を失敗してしまったんですよ。確か、貴族の護衛……だったと思います。その依頼で、アリエルさんは貴族を守ることができなかったんです。それで、その貴族を殺しにきた暗殺者がこのギルドの一員だったってわけなんですよ。冒険者ギルドの方には実力不足、ととらえられていたみたいで、違約金を払ったアリエルさんはすぐに私たちのギルドのもとに来たんです。『同志をみつけた!』って言ってらしたのを今でも覚えています」


そう言い、ディオネは思い出したように微笑んだ。


ディオネと別れた僕は、アリエルの部屋の前に来ていた。

ノックをする。


「入ってもいい?」


「ジル?どうぞ」


ドアを開ける。

部屋の中は、質素だが、清潔感のある部屋だった。

変に高級感が無いのが冒険者っぽいな。


「アリエル、前に冒険者だったことを聞いたよ」


「へぇ、聞いたんだ。Aランクって知って尊敬した?」


「いいや、まったく」


僕は冗談っぽく言う。


「あははは、そっか。でもまぁ、仕方ないよね。今は暗殺者なんだし」


何の負い目も感じていないように言う。

”暗殺者”であることを何とも思ってないんだろう。


「でさ、ここに来たのは気になったからなんだ。アリエルが暗殺者に共感した理由と、僕をここに連れてきた理由。何かあるんだろう?」


「あー、そうだね。少し話をしようか」


アリエルは語りだす。




—————————————————————


あたし、アリエルは貴族の護衛の依頼を受けていた。


Aランクともなると、こういう重要な案件がたびたび来る。

報酬はたんまり入る。でも、非常に面倒くさい。

自由でいたくて冒険者になったのに、何が悲しくて貴族なんかに縛られなくちゃいけないんだ。

しかし、指名依頼だったのだ。それに、家を一つ立てることができるほどの報酬。

仕方なくあたしは受けた。


あたしにパーティメンバーのいない、ソロだったので、一人で保護対象である貴族のそばに控えていた。

無駄に金をつぎ込んだ、城のような建物の最上階だ。

他のパーティのみんなはエントランスで警備している。

この貴族の情報筋から、今晩腕利きの暗殺者が送り込まれるとわかっていた。

あたしは一番信用できる、と判断したらしい。

もうじき日が完全に暮れる。襲撃されるならそろそろか、そう思ったとき、この部屋にある貴重なガラスの窓が破壊された。


「おっさん、下がってろ!」


「ひ、ひいいいいいぃぃぃ」


「あぁ、あれが標的か。あんな豚ぱっぱと殺して、帰ってディオネの飯を食したいものだよ」


現れたのはグレーと赤がメッシュになった髪を七三分けにしている、背の高い紳士的な男。

あたしは油断なくそいつを見る。相手は無手だ。魔法ならノーモーションでも放つことができる。

一つの些細な動きでも見逃すことはできない。


「ふむ、護衛は女性か。なるべく手を下したくはないな。なら”これ”か」


男はジャケットの内側から便を取り出し、投げる。

割れた。中から怪しい煙が立ち込める。

直後。

足元が安定しない。ふらふらする。

強烈な眠気が襲い掛かってきた。

なんなんだこれは?原因は恐らくあの怪しい煙だが、もしかして眠り毒が混ぜられているのか?


「なんで、なんであんたたち暗殺者は罪のない人を依頼だけで殺せるんだ?」


朦朧とする意識の中でそんなことを問う。

なぜ聞いたのかはよくわからない。でも、知りたかった。

暗殺者はどんな気持ちで人を殺しているんだって。

すると男は、まだ意識のあるあたしに少し驚き、問いに答えた。


「答えは簡単だ。この豚は罪をもっていない、そう君は言うが、それは本当か?私はこの豚は無実の市民を前を通っただけと言う理由で首をはねたと聞いている。もちろん、裏付けもある。そんなやつを殺せと言われて殺さない道理など私は持ち合わせていないのでね。それに私の所属するギルドは罪のなきものを殺す依頼を受けることなどない。暗殺者を全て一緒くたにしないでほしいものだよ」


そこまで聞いたあたしは、意識を保っていられず、眠ってしまった。




—————————————————————


「で、そのあとあたしはギルドの場所を一年かけて特定して加入したってわけだ」


そんなことがあったのか。

出てきたギルドの人物は僕がまだ話していない人だろう。話を聞く限り紳士的な人っぽいけど、アリエルは会うのは勧めない、と言っていた。


「それと、ジルを勧誘した理由、だけど、正直言ってほぼ勘なんだよね。ビビッときたっていうか、『この子は絶対に暗殺者以外では生きていけない』って思った。それと対人スキルが異常に高かったってのもあるかな」


『この子は絶対に暗殺者以外では生きていけない』って、なんだかさらっと酷いこと言われた気がする。

でも、アリエルの言うことは正しいと思う。

暗殺者以外生きていけない、とまでは言わないけど、暗殺者の仲間に入ったことで今の僕がいる。

冒険者にでもなってたら、一人のままだっただろう。

彼女に連れて帰られた僕は、この一週間で随分ほだされてしまっていた。

最初はこのギルドを滅茶苦茶にしてやる、とか思ってたけど、今はあまり思わない。

イメージと違ったってのもあるかな。もっと殺伐としているかと思ってたけど、仕事のある日以外は和気あいあいとしている。

僕が殺しなんてできるとは思わないけど、ディオネみたいに後方支援ならいいんじゃないか、って思い始めてる自分がいる。

ああ、そうか。仲間や友達ができて嬉しいんだ、僕。


「姉さん」


「え?」


「姉さんって呼ばせて」


アリエル姉さんは、感極まったように、僕に抱き着いた。

一週間で落ちるチョロインの成宮くんです。

友達、仲間なんていなかったので仕方ないことなのかもしれません。

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