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◆2 敗北 そして暗殺者ギルド

赤毛の女は、右腕の肘で僕の腹部を狙ってきた。僕は右手を離し、後ろに飛び、距離をとる。

おそらくこの女はかなりのやり手だ。動きが速く、無駄がない。

下手に接近すると本当に一発もらいかねない。


「あっはは!今のも躱すかぁ」


彼女は僕が予想外の強さだったようで、得難い喜びを得た、と言ったような顔をしている。

こっちは全然喜ばしくないぞ!なんで異世界にきて十分で二回も戦闘経験しなくちゃいけないんだ!


「じゃあ、これはどうかな!?」


「うわあ!?」


なんと、火の塊が四つ、弧を描きながら襲い掛かってきた。

確か『剣と魔法の世界』だったな、ここは。

じゃあ今のは魔法か。

僕は上手く体をひねり、すべての塊を躱す。

ふと火の着弾地点を覗くと、塀が溶けだしていた。

戦慄が走る。

なんだよ今の!当たったら確実に死んでたぞ!

文句の一言でも言ってやろうと思い、彼女の方に向きなおすと、既に距離は三メートルしかなかった。

この一瞬で、距離を縮めたのだ。


「そらそらそらぁ!」


最初に襲い掛かってきたのは隙の少ない左ジャブ。

僕は、拳の速さに驚きつつ、右腕で防ぐ。

鈍痛が走る。なんて重い一撃だ。

ジャブで、しかも防いでこれとは。

予想外の痛みに困惑する僕に、休む間もなく攻撃が飛んでくる。


左ジャブ―—右腕を相手の腕にぶつけ、軌道を逸らす。

右ストレート―—右に体を逸らし躱す。

左ジャブ――もう一度、軌道を逸らす。いや、逸らせていない。

僕の右腕が空を切る。そして、視界が回る。

――なんだ、何が起こった!

そこで、空を見上げていることに気づく。僕は自分の体が宙に浮いていると認識した。

体を後ろに半回転させて、両の手を地面につけ、倒立の態勢に入った後、腕に力を籠め後ろに下がる。


「あっはははは!最高だ、ジル=オルクス。これは、引きずってでも連れて帰らないと行けなくなったな!」


「よくわかんないけど、僕はいきなり襲ってくるような人のところに行くつもりはないぞ!」


両脚に力を籠める。そして、構えのまま前進。今出せる最高速だ。

彼女はあまりの速度に驚いたのか、目を見開いた。

そして、真似る。さっき僕が受けたフェイントを。

そう、先ほどのは僕の経験が足りず、見極めることができなかっただけで、単なるフェイントだったのだ。

左ジャブを予備動作で止め、すぐに右のローキック。

頭の中で思い描いたイメージ通りに体を動かす。


決め――られなかった。

脚は踏みつけられ、両腕は付け根からがっちりホールドされてしまった。

これが経験の差かよ。悔しい。完敗だ。

そのまま、僕は腹に右膝の重い一撃を受け、沈んだ。



―――


「ひ、ひいいいぃぃぃぃ」


ケインは戦慄していた。Cランクを容易く倒してしまったジルを圧倒したのだ。

Dランクには強すぎる刺激だろう。


「はぁ……」


対する赤毛の彼女はため息をつく。


「あんたさぁ、この子に助けてもらったんでしょ?少しはこの子のために動こうとか思わないわけ?」


ケインはそれを聞き、思い出す。前に魔物を襲われていたところを助けてもらい、憧れたこと。

自分も人を助けたい、その一心で冒険者になり、Dランクに上り詰めたこと。

そして、たった今、この子に助けてもらったこと。


「う、うわああああああ!」


ケインは出鱈目な動きで殴りかかる。型もなく、攻撃と呼ぶかも怪しいものだが、それでも彼は進む。

勇気を振り絞ったのだ。


「そ。ちゃんとできんじゃん」


そう言い、ケインの首にトンッと手刀を入れ、気絶させる。その動きは洗練されており、彼女が並の人間でないことを示している。

ケインを抱え、ゆっくりと地面に下ろしたとき、影から人が現れる。そのまんま、地面にある影からだ。


「おい、アリエル。何をしている」


「ああ、ネレイド。ごめんごめん、少し気になった子見つけてさ、拾っちゃった」


そう言って、アリエルと呼ばれた女はそばで眠るジルを指さす。


「……そうか、好きにしろ」


ネレイドと呼ばれた高身長で、口元に鉄製のマスクをしている男は、興味のなさそうにそう言うと再び影に潜る。


「さぁて、帰りますか、ギルドに」


アリエルは、ジルを抱え上げると人間とは思えない跳躍力で高く飛び上がり、屋根にのぼると、人気の少ない方へ走っていくのだった。



―――


悪夢。

たった一人佇む子供。

全て親の言う通りに動いてきた彼はいわば感情を持った操り人形。

故に誰からも賞賛されず、誰からも羨まれた。

そんな彼が望むものは――



―――


「うわあああ!?」


ベッドから飛び起きる。

なんだなんだ?変な夢を見てた気がするぞ?

うーん、思い出せないな。

まあ、いいか。その程度の夢なんだろう。


ところで、ここはどこだ?

木で作られた床と壁。絨毯もひかれている。まだ路地裏しか見てないから分からないけど、結構な高級品なんじゃないか?

そもそもなんでこんな場所に――


ガチャ、という音とともに赤毛の女性が入ってくる。

その女性は僕が起きていることに気づくと、声をかける。


「ああ、起きたか。体は痛む?」


「ッ!」


咄嗟に後ろに下がる。僕を襲った人だ。何するかわかったもんじゃない。


「まぁまぁ、そんなに怖がらなくても。危害を加えるつもりはないから。ね?」


「……なぜ、なぜ僕を襲って、ここまで攫ってきたんだ」


「そうだね、理由は簡単。あたしたちのギルドに入ってほしいのよ。今メンバー足りなくてさ」


なんだ、そんなことか。メンバーが足りないなら入――いやいやいや、まてまて、なんで襲ったか聞いてないぞ。まだ。

勧誘のために人を襲うってどういうことだよ。


「ああ、だってギルド名言ったら絶対断られそうだったから。だから確実に加入してもらうために拉致してきたってわけ」


「え?人から嫌われるようなギルド名?」


「そう。暗殺者ギルドよ」


は、はぁぁあああ!?



これが僕の、暗殺との出会いだった。


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