プロローグ -二人目の転生者-
成宮パートは飛ばして頂いても問題ありません。
興味が出たときにでも遡ってください。
僕は成宮零。高校二年生だ。
暮らしは裕福だった。
僕は所謂お坊ちゃま、と言うやつだ。
家も屋敷と言うにふさわしいくらい広く、大きい。
学校は県内有数の進学校。
入ってくる人はみな”天才”と呼ぶに相応しい人たちばかりだ。
そして、僕はその学校でいつも一番をとっていた。
運動もそう、勉強もそう。
一番を取らないと、親に殴られる。
僕の親は、僕のことをステータスとしてしか認識していないのだ。
「またか……」
早朝、まだ誰もいない時間に学校にきて、自分の座席につこうとした僕は、ため息交じりに声を出してしまう。
そこにあるのは、落書きされた机。
『死ね』『消えろ』『キモイ』
言いたい放題だ。
そう、僕はいじめられている。
理由はいろいろあるのだろうが、大きいのは僕のコミュ力不足と嫉妬によるものだろう。
『僕だって頑張ってるのに、なんで』
何度そう思ったことか。だが、その思いは加害者に届くことはない。
もう半ばあきらめている。
幸い、まだ陰湿な悪戯だけだ。殴られたり、蹴られたりはしていない。
なんとか卒業まで耐えきろう。卒業したところでいじめられなくなるかは分からないけど。
落書きを消して数十分後、クラスメイトが教室に入ってくる。
みんな教室のドアを開け、僕の姿を確認すると、嫌そうな顔をするか、ニヤニヤとしだすかの二択だ。
ああ、もう嫌だ。
そう思っても、僕が学校に来るのをやめないのは、親による圧力があるからだ。
息子が登校拒否するようになった、となっては世間が許さないからだろう。
――正直、両親が、怖い。
チャイムが鳴った。
今から授業が始まる。
「成宮くん、この問題を解いてみて」
先生に当てられるのはいっつも僕だ。『この子を当てるとすぐに模範解答を書き、授業がスムーズで楽だ』
とでも考えているのだろう。
しかし、その行動が周りの嫉妬をさらに集める。
僕は解答を、一度も手を止めずに書き終えた。
「流石だ、成宮くん」
「はい、ありがとうございます」
その言葉は僕の心には響かない。
勉強なんてできて当然だ。そう親に教わってきた。
いや、違うな。薄々気づいてるんだ。”天才”と言われる集団で一位をとる自分は凄いんじゃないか、自分は周りよりも頭一つ分飛びぬけているんじゃないかと。
そして、その”才能”を恨んでもある。もちろん、一番を取らざるをえない環境にした親も。
そのせいでいじめられているのだ。
それを含めて、その褒め言葉は僕の心には響かない。
自分勝手で親不孝だってことは分かってる。それでもだ。
親は子がいじめられているのを知っていて無視するものなのか?
親は自分のステータスのために子を育てるのか?
そのあとの授業時間、僕はずっと親のことを考えていた。
終礼が終わる。帰ろう。歓迎してくれる人は誰一人いないだろうけど。
恐らく僕が帰った後、イジメの主犯者はまた机に落書きをするんだろう。
明日も早めに来て、消しておかないとな。
そんなことを考えながら、教室をでて、校門をくぐる。
ゆっくり、気持ち遅めで歩く。
そんなことをしたって家に帰らなければならない事実は変わらないのに。
そんな時、いきなり叫び声が聞こえた。
「通り魔だぁぁぁああ!」
えっ、通り魔!?
僕は振り向いた。
すると目の前にはナイフを持った男がいた。
僕は刺された。もちろん通り魔に。
腹部が熱い。これが血を流す感覚か。
ああ、意識が薄れてきた。死ぬんだろうな。
通り魔が走っていったのを見計らって、知らないおじさんやおばさんが駆け寄ってくれたけど、彼らが話している言葉を聞き取ることはできない。
視界がぼやける。
ああ……もうだめだ……
でも―――
そうやって僕は死んだ。
僕が死ぬ間際に感じたのは、このふざけた世界から解放された幸福と、結局なにもできないまま死んでしまった悔しさだった。
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目の前に広がるのは真っ白な世界。そしてその世界に佇む人型の光。
「やあ、成宮零くん」
その光に話しかけられる。
僕は、この光が喋ったことと、真っ白な世界にいることで、疑問が多すぎて、黙り込んでしまった。
いや、やっぱりコミュ障なせいなのかもしれない。
そんな気がしてきた。
「さて、まずは自己紹介をしよう。私は【ケレスピア】と言う世界を管理している神だ」
「えっと、僕の名前はもう知っているようですが、成宮零です。よろしくお願いします。神様」
「ははは、礼儀正しいんだね」
そう言い、神は笑う。この光が神って実感がわかない。不思議と威厳はあるんだけど。
「ところで、【ケレスピア】ってなんですか?それと、何故神様が僕に会っているんです?」
ふう、質問できた。簡潔に、伝わりやすいようになってるよね?
「ああ、そうだね。【ケレスピア】っていうのは所謂異世界さ。剣と魔法の世界。そして私が君に会っている理由は一つ。君をぜひとも【ケレスピア】に招待したいからだ」
「僕を、招待?」
「そうだ。君を私に世界に転生させたいんだ。それも記憶を持ったままね。君を【ケレスピア】に連れてくることで、世界を発展させたいんだ」
な、なるほど。転生か。本は好きだったので、結構読んでいた。
そのなかで、人が生まれ変わる、転生の考え方を知ったことはあった。
それを体験できるのか、記憶を持ったままで。
「嫌だったら、そのまま地球に転生するまで待つこともできる。もちろん記憶は消えることになるけどね」
「嫌じゃないです!」
僕はとっさに叫んでしまった。冗談じゃない、どうしてあんな場所に戻らなくちゃいけないんだ。
神は、僕がこうして叫ぶことをわかっていたかのように、顔に笑みを浮かべている。
口元がニヤついているのだ。ちなみに口っぽいものは光の凹凸で再現されている。目はないけど。
「そっか、じゃあさっそく転生の準備をしよう。まあ、準備って言っても質問を一つするだけなんだけど」
「質問?」
「ああ、質問。君はどんな力がほしい?」
君はどんな力が欲しい?
力?そんなものいらない。力を持ちすぎて嫌われるなんてもうごめんだ。
「すみませんが―――」
「言ってなかったね。【ケレスピア】では、力は正義だ。身体能力、知力、なんでもいい。圧倒的な力があれば、不条理を捻じ曲げてでも生きていける。君を笑うやつがいれば殴り倒してやればいい。咎める奴なんていないだろう」
「えっ、じゃあ」
「そう、気にする必要はないんだ」
僕はその言葉を聞いたとき、少し泣きそうになった。
そして、言った。
「できる範囲でいいです。誰からも見下されず、嫉妬されることも許さないような、誰もが恐れる才能をください。僕はその力で、あの狂った世界のやり直しをする。あの世界で忌み嫌われた才能で」
「うん、よく言った。君には【全知全能】と【即死回避】を授けよう。このスキルは最強じゃない。でも、君の行動しだいで最強になれる。頑張ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
僕は神にお礼を言う。
そして神は言う。
「じゃあ、君を【ケレスピア】に送る。ノルマなんてない。是非、私の世界を楽しんでくれ」
そして僕は、異世界へと旅立った。
一位がとるのが当たり前だったので、最初は周りの嫉妬の意味も分かってなかったけど、『実は自分は凄い』と考えると筋が通ったので、そういう意味で嫉妬してるのか、と気づいたということです。
三章は、成宮零のストーリーとなります。
拙い文章ですが、これからもよろしくお願いします。