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◇15 魔法の師 そして地獄の一週間

今日も今日とてランク上げ。そんな日々を送っている、ギル=セイクリッドです。


コボルトの討伐から一週間が経った。今やDランクまであと二回の依頼達成となっている。

つまり、十八回も依頼を成功していることになる。

どんな依頼をやったか、というと、変にお使いや雑用をせず、ひたすら毒消し草集めだった。

冒険者が冒険をしていない現状にどうかとも思ったが、これは低ランク冒険者の宿命だ、と思って諦めることにした。だって、EランクとFランクって、討伐系の依頼なんてほとんどないし。


ここ最近、Dランク昇格が近づくにつれ、我がパーティで話に上がっていることがある。

それはずばり、Dランクに上がるとともに、拠点を王都に移そうということだ。

理由はもちろん依頼が豊富だから……ではなく、全会一致で観光だ。

王都は、国の中心ということもあり、衣食住が高水準でまとまっており、なおかつ闘技場、カジノ、ショーなどの娯楽がある。エーオスもいい街だが、そういった類のものは一切ない。

異世界生活を満喫したい俺にとって、既に必ず訪れたい場所リストに入っている。

ちなみに、毒消し草の採取ついでに、薬草も採取していて、ミルに依頼達成させているため、ミルも一応Eランクまで上がっている。Dになるにはまだまだ時間がかかりそうだが、時期に俺とラルフに追いつくだろう。


というわけで、今日も毒消し草を採取しに行こう。

そう思って、ギルドに向かう道を歩いていると、声がかかった。

どこかで聞いたことのある声だ。うーん、この落ち着いていて、威厳のある声は……


「ブラントさん!」


「よう、ギル。元気にしてたか?」


ミルが、誰だこいつ、とでも言いたそうな顔をしていたので、互いに自己紹介をしておいた方がいいかな、と思い、声を出そうとする……前にブラントさんの隣にいた男が口を開いた。


「ほう、キミがギル君ですね。ブラントから話は聞いていますよ。体格はどちらかと言うと戦士寄りですが……キミが未だ人類がたどり着いていない、雷魔法を使える天才だなんて信じられませんよ」


どうやらブラントさんの連れらしい。

身長はブラントさんに負けないくらいの高身長であるが、体格は、モデルのようだ。足が長い。恐らく八頭身だろう。目にはモノクルをつけていて、明らかに学者、いや魔法使いか。生真面目で、厳格な印象を受ける。


「あの、ブラントさん。こちらの方は?」


「ああ、失礼しました。私の名はバラム=ローシェ。王都でAランク冒険者をやっている、魔法使いです。以後、お見知りおきを」


そう言い、非常に丁寧なお辞儀をし、その綺麗な紫色の瞳で、まっすぐ俺の目を見て、いきなりとんでもないことを言い出す。


「そしてギル君、キミは今から私の弟子となります。拒否権はありません」


「「「えっ」」」


俺、ラルフ、ミルの三人の声がハモった。

どういうことだ?意味が分からん。いや、数少ない実力者のAランク、さらに魔法使い。そんな人に魔法を教えてもらうのは光栄なことだが……一体どういう風の吹き回しだ?


「なぜ自分が私からの手ほどきを受けるのか、不思議がっていますね?理由は簡単です。私は人類初めての雷の使い手を潰したくないのですよ。いわば保護、そして私の活動はただのボランティアなのです」


雷を使える人がそうそういない、とはみんなの反応から薄々気づいていたけど……

まさか一人もいなかったなんて。その言葉を聞いたミルは、『おお、すごいぞ!ギルは天才だったんだな!』とでも言いだしそうな顔をし、尊敬の眼差しで俺を見てくる。どうやらミルは雷魔法が希少だと初めて知ったらしい。最近は三人だけで活動してたから、まぁ知る機会もなかったもんな。


「ギル、素直に受けとけ。こいつはこれまで気に入ったやつを四人弟子にしているが、全員がAランクまで成り上がっている。冒険者として、強さは是が非でも獲得すべきものだ。いい機会だと思った方がいい。それにバラム、今回も一週間で仕上げるんだろ?」


「ええ、もちろんです。一週間で基礎と応用、そして鍛錬方法を叩き込んであげましょう」


一週間で仕上げるのか!?凄いな、それ。今回もってことは、お弟子さん全員一週間でAランクになるための知識をつけたのかよ……これはブラントさんの言う通り、受けておいた方がいいかもしれないな。


「わ、分かりました。では、一週間だけ受けてみたいと思います。よろしくお願いします」


「ええ、もちろんです。立派な魔法使いにして差し上げますよ」



もちろん、一週間に詰め込んだ教育プランはまともなものではなく……


俺の地獄の一週間が始まった……




—————————————————————


一日目:身体強化魔法(地獄の持久走)


今日からバラムさんの魔法講習が始まる。ちなみに受けるのは俺一人だ。ミルとラルフは、ミルのランク上げの状況を俺と同じくらいまでにしておくそうだ。


指定されていた、門の前で待機していると、バラムさんが大量の重りのようなものを抱えてこちらに歩いてきた。そして、俺の隣にたどり着くと、重りを地面に下ろす。


「さて、ギルくん、君には今から身体強化魔法を覚えてもらいます。理論は簡単なのでよく聞いておいてください」


バラムさんは、モノクルを少しクイッと持ち上げ位置を直すと、俺に説明を始めた。

曰く、身体強化魔法は、体内の魔力を高速で循環させることにより、身体機能を活性化させることだ。

魔力は一種の生命力のようなものであり、なくなると気絶したり、体がだるくなったりするのはそのためらしい。

身体強化魔法は、非常に集中力、神経を使うが、体内で魔力を循環させるだけなので魔力消費が無く、使い勝手が良い。

前衛職も、極度の集中状態になると自然と行っている魔法だそうだ。

バラムさんが言うに、王都の魔法使いは全員使えるし、使えないものは魔法使いですらないそうだ。


俺が、身体強化魔法を使える人間はいざ知らず、そもそも存在を知っている者が一握りだということを知るのは、後の事である。


「はい、それでは実路です。やってみてください」


俺は普段、魔力を腕に集めるときにやるイメージを、今度は魔力が循環するイメージでやってみた。

イメージは血液の流れだ。体の隅々にいきわたる魔力。

よし、できた……と思う。けど


「あの……ぐっ……これ、維持する……のっ……すごく難しく……ないですかっ!?」


そう、頭の中で血液のイメージをしたまま、口を動かし、別のことを考えているのだ。非常に難しい。

現に、俺の身体強化魔法は途切れ途切れだ。


「ええ、最初はとても難しいです。それでは、この重りをつけて、この街の外周軽く三十週行ってみましょうか。ちなみに身体強化の練度を上げないと、とてもじゃないですが、運べない重量になってます。がんばってくださいね?」


「えっ……ええッ!?だって……維持……もむず……かしいっ……のにっ……!」


「何言ってるんですか。維持をするのを安定させるためにやるんですよ?」


ニコニコとした、どこかサディストのような笑みで、そう言い放ったのだった。


鬼だ……この人っ!!



結局その日は三十週走り終わった後、確認ということでさらに二十週、計五十週走ることになった。



二日目:魔術の変換効率鍛錬(人体改造)


今日は、バラムさんのエーオスにある別荘、その地下に来ていた。

なんかすごくヤバイ設備がいっぱい!ペンチっぽいやつから、ノコギリのようなものまで!

やばいよこれ!!


「お待たせしました」


バラムさんが、中に優に百を超える量の怪しい薬の入った大量の木箱を抱えて地下に来た。

いやいやいやいや、それ絶対危ない薬でしょ!!


「さて、まずは理論面を説明しましょうか」


今回の授業は魔力の変換効率についてだった。人の魔力には適性があり、その適正の違いによって、一の魔力で三の火が作れたり、逆に一の魔力で一未満の水が作れたりするらしい。

俺の魔力変換の才能も図った。一番弱い魔力で魔法を作れと言われたので、最弱の魔力で、いつものイメージでやった。

結果、

火:4/1

水:2/1

雷:比較対象なしのため、測定不可能

土:1/1

だった。イメージによる違いも出るため、完全に正確ではないようだが、大体これであっているようだ。

ちなみに、水魔法と土魔法は、やれるかどうかわからないけど……と一言断ってやったらできたので測った。

火、水、土の三属性を扱えるだけでも、相当な器らしいが、俺はすべてが平均のラインに達している。バラムさんは燃えていた。

ちなみに、雷の魔法を見たときは、


「おおっ!!これが雷魔法!!なんと神々しい!!」


……と、うっとりしていた。どうやらバラムさんはマジックジャンキーらしい。



そして、薬の出番が来た。

なぜ生まれ持った才能である変換効率にこの薬が関わるか。

バラムさん曰く、この薬は少しの間だけ魔力の質を弄り、適正をランダムに入れ替えるものらしい。そして適性を入れ替え、ほかの属性を高い適正で打つ感覚を覚え、全属性の練度を上げるそうだ。


「さぁ、この薬を飲んでください」


なんでそんなに楽しそうに笑うんだ!やっぱ危ない薬なんだろ!それ!



躊躇していると、そばにある拷問器具で固定されて飲まされそうなので、自分で飲む。


……


………


……………ああああああああああああああああああ!!


辛い辛い辛い!!

つーか体が痛い!!!!やばい、激痛!!!意識が飛びそうだ!!

四肢を何度ももがれてるような感覚もする!!




そのあと、激痛が続く中でまさかの感覚をつかめという指示。

感覚をつかみ、火の一の魔力で出す威力を、土や水で平然とだせるまで、あの狂った薬を飲まされ続けた。


三日目:雷魔法鍛錬(知識欲求満たし)


三日目、俺は門の近くの草原に呼ばれた。

何故かバラムさんは、大量のスライムを抱え、森から出てきた。

森でスライムを捕獲したんだろうか?


「さて、今からとにかく雷魔法でこのスライムを仕留めてもらいます」


「は、はぁ……イメージとかはなんでもいいですね?」


「いえ、できるだけ色々なイメージを使ってください。私の勉……実戦では、様々な技を使えた方が戦いを有利に進められますからね」


いや、今、完全に自分のことしか頭になかったろ!!

でも逆らったら怖いのでやるしかない。畜生。

でも、バラムさんは雷魔法のイメージについて、俺から詳しく聞き出すつもりはないらしい。

他人の考えだしたイメージを盗み、我が物顔で使うのは、プライドが許さないのだとか。



その日は、いろいろなパターンの雷魔法をひたすら使った。

俺の方にも、イメージの勉強、魔力の総量上げ、どちらのためにもなった。






—————————————————————


それから、残りの四日も地獄だった。身体強化魔法を使った訓練もあったし、普通の魔力鍛錬もした。

頭おかしいくらい長時間で、ぶっ倒れそうだったけど。

まぁ、そのおかげで、魔力を集める速さは今までとは比じゃないくらいまで高まったし、身体強化も五分なら持続できるようになった。終わった後は精神的にも身体的にも相当きついが。



「バラムさん、一週間魔法を教えてくれてありがとうございました。本当に助かりました。自分でも強くなったのが実感できました」


「いえいえ、最初にも言った通り、これは私がしたくてやっていることですから。それよりも、鍛錬を怠ることがないように。キミの才能ならきっと上を目指せます」


「はい!ありがとうございます!」


俺は頭を下げた。本当に感謝している。恐らく、普通の人が一年近くかけて手に入れる力を、このたった七日間で手に入れてしまった。それは、地球の知識で、魔法の一番時間がかかるイメージをつかんでいることなどもあるが、やはりバラムさんがいなかったらできないことだっただろう。


「ああ、そうだ。王都に来たときは是非私のい……」


バラムさんがそこまで言った時だった。



後ろから悲鳴が聞こえてきた。

ギルの強化です。

一週間なのでまだまだですが、教えてもらった知識と鍛錬法で、これからも強くなっていく予定です。

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