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◇13 新たな仲間 

「うぅ……ぐすっ……ワタシの……ワタシのマイホームがぁぁ……」


「ごめん、俺が悪かった。加減を間違えたんだ」


「ああ、すまなかった」


俺とラルフは絶賛土下座中である。悪いのは俺なのだが、ラルフまで謝ってくれた。


うん、完全に失敗した。今回失敗した原因はイメージだ。威力ばかり考えてしまったせいで、範囲を度外視していた。それに込めた魔力は所詮六で、威力自体も全く足りていない。牛を仕留めきれなかったのがいい証拠だ。

そう、未完成なイメージのせいで、派手、広範囲で、威力はしょぼいという何とも残念な魔法を放ってしまったのだ。

今回当たったのが家だからまだよかったが、ラルフやミルに当たったら冗談じゃ済まされない。

魔力鍛錬に加えて、魔法の開発も最優先だな。


それから、五分ほどでミルが泣き止んだ。俺らはまだ、土下座の体制を崩していない。

そこでミルが言う。


「ワタシ、冒険者になる……」


「「えっ」」


どういうことだ。どうしてそうなった。理解ができない。


「もともとため込んでいた硬貨は底をつき始めてて、仕事を探す必要があったのだ……。そこで、住む場所がなくなった。もう定住を必要としない冒険者しかないだろう?」


「いやいや、確かに家はなくなったし、手っ取り早く稼ぐなら冒険者は良い職業だと思う。しかし急すぎじゃないか?」


「るっさい!ワタシがなると言ったらなるのだ!ということでギルたちのパーティに、ワタシを入れるのだ!」


ビシッと音がする勢いで、その可愛らしい指を向けてきた

えっ……ええー……?話飛躍しすぎじゃない?もしかして元から冒険者に興味があったとかか?

いや、新しい仲間を入れるってのは別にいいんだけど、この子はなぁ……

なんかうるさそうだし。無茶苦茶しそうだし。あって数分でわかるくらいアホの子だし。



「なんだその目は!さっさと観念して、家を壊した責任とってパーティに入れろバカ!」


俺は他人から見てもわかるくらい嫌そうな顔をしていたらしい。

そして、家を壊してしまったことを持ち出されると弱い……

ラルフのほうを見る。どうやら俺に判断を委ねるようだ。

はぁ……仕方ないな。


「わかった。ミル、キミをパーティに迎え入れよう。頼むから駄々とかは、こねないでくれよ?」


「駄々をこねるとはなんだ!ワタシは子供ではないぞ!」


いや、パーティに入りたいって駄々こねてたじゃないか!


それから落ち着くのにまた五分かかった。



「コホン、改めまして、ミル、ミル=クレーネだ。召喚士をやっている。これからよろしく頼むぞ」


そう言ってミルは手を前にやって、きれいにお辞儀をした。

なんか、言動と行動がちぐはぐだな。

微笑ましくて、少し笑ってしまった。

案外かわいらしいな。少し考えがおかしいが。


そのあとはギルドに戻ってミルの登録をした。カードを受け取った本人は、興奮したように、ずっとカードを眺めていた。ちらっと目に入ったが、歳の欄は十六になっていた。本当に成人してたのかよ!

あ、ちなみにギルドの登録料は流石に俺が払った。

本当は、依頼達成の料金も辞退しようとしたのだが、召喚魔法の実験を手伝ったことは事実だから、受け取ってほしいとのことだ。


家を失ったミルは、俺らと同じ宿に泊まることになった。うん、いい場所で、なおかつ安いからな。

俺が、誰かにお勧めの宿を聞かれたら、迷わずここを選ぶだろう。


宿の名前は休息のオーブン亭だった。何気に初めて知った。


そして昼。俺らは三人で、また森に来ていた。

理由は簡単。朝に倒した牛の肉を食べるためだ。


「おお、昼から豪勢だな!」


「ワタシも沢山食べるぞ!」


「今日はミルのパーティ参加記念だからな、少しくらい贅沢をしよう」


比較的、どんな魔物でも肉は食べられる。まぁゴブリンとか、絶対に食べたくないやつもあるが……


この前読んだ冒険記では、『私たちは道に迷ってしまった。食料も底を尽きる。仕方がなかったので道中屠ったゴブリンの肉を食べることになった。味は最悪だ』なんて書かれてた。

やっぱりゴブリン肉はだめらしい。絶対に食べないぞ。俺は。


そんなことを考えながらも手が動く。牛の魔物からは肉をごっそり削いでいた。かなりでかい肉塊を焼かなければならないのだ。

火魔法で火を起こし、棒を刺した肉を回しながら炙る。

なんか、某ハンターゲームを思い出すな。

ミルとラルフは炙られる肉を、待ちきれないといった表情で見つめていた。

少しは手伝え。


肉が焼けた。

調味料は塩だけだ。胡椒だとか、砂糖だとかは高くて使えない。

でも心配することはないろう。塩だけでも十分うまそうだ。あの牛は相当な上物だったらしい。


炙った肉を一口サイズに切り、木の器につぎ分ける。肉だけなのも何なので、パンを少し、持ってきていたので、それも添える。

三人全員の器に肉とパンが渡ったところでいざ、実食。

この世界に『いただきます』と言う習慣はないが、俺は日本での習慣からか、続けていた。一緒に食事を摂るラルフも、気づいたら一緒に言うようになってた。


「「いただきます」」


「お、おお?いただきます……なのだ!」


俺らが『いただきます』といったのを聞いたミルは一瞬首をかしげたが、すぐに復唱した。

『いただきます』の意味は多分通じただろう。この世界にも、食事の前に祈りをささげる宗教もあるらしいからな。


「おお、美味いな。これ」


「おおおおお!美味だ!鹿とは比べもんになんねぇな!」


「うむ、ワタシもこれほど美味い肉は久しぶりに食べたぞ!」


二頭を持つ牛の肉はおいしかった。これは地球で食べたものを合わせても結構上位に入るぞ。

俺が舌鼓を打っていると、左右から声がかかった。


「「おかわり!」」


ミルとラルフの声が重なる。

一瞬の沈黙。

その沈黙を先に破ったのはラルフだった。


「おいおい、この肉は俺とギルが仕留めたものだぜ」


「ム!それを言うならワタシが牛を召喚したんだ!ワタシがいなかったらそもそも肉が食えなかったんだぞ!逆に感謝してほしいくらいだな!」


二人の間で火花が散る。肉のあまりの美味さに我を忘れてる。

仕方ないなぁ。


「ほら、残りは俺の分も合わせて全部二人で分けていいから、喧嘩しないでくれ」


そう言って、俺は新しく肉を切り、器に盛りつけ、二人に渡したのだった。



ちなみにミル=クレーネはミルクレープから取りました。

まんまです。

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