◇12 暴走した魔物 そして崩壊
「ああ、そういえばまだ名乗ってなかったな。俺がギル=セイクリッドで、こっちの茶髪がラルフだ。俺が魔法使いで、ラルフが前衛の短剣つかいな」
「ああ、ギルとラルフだな。よろしく頼むぞ」
そう言って、ミルは集中しだした。召喚魔法を使うのだろう。俺とラルフはすぐに得物を構える。
彼女の足元にはいくつもの魔法陣のようなものが展開される……
そして……
「うわっ!」
目の前が一瞬真っ白になった。
そして咆哮。
「ブモオオオオオオオオオォォォ!!」
俺は一瞬怯んだが、すぐに目を開ける。もし暴走していたらミルを守らなくてはならない。
目を開けたときに飛び込んできたのは、牛。ちゃんと四足が地面についている。ミノタウロスではない。
だが、どう見ても異常である。
何故か。
頭が二つあるのだ。そして目が血走っている。これは正常じゃないと思い、俺とラルフはすぐにミルと牛の間に立った。
「うっ……どうやら失敗したみたいだ。頼んだぞっ」
「おう、そうこなくっちゃな!ミルは後ろに下がってろ!」
ラルフが待ってましたと言わんばかりに叫ぶ。【即死回避】は発動していない。どうやら圧倒的に力の差があるというわけではないようだ。
先ずは先制。ラルフが牛に突っ込む。恐らく無策ではない。ラルフはお調子者だが、それは実力があるからこそなのだ。実力を持ってないやつはお調子者になんてならない。
正面に走ってきたラルフを見て、牛もラルフに向かって突進する。大きく、鋭利な角で串刺しにしてやるつもりらしい。
ラルフと牛がぶつかる三メートル前、ラルフは武器を持ってない左手を前に出し、火球を飛ばした。
「へへっ、この距離なら必中だ!」
「ブモオオオオオ!!」
牛の右の頭に火球が当たる。牛はいきなりの衝撃と、熱量に足を止めてしまった。
しかし、ラルフの突進はまだ止まらない。
ラルフは大きく溜め、若干左寄りに飛び、牛の背中の上を飛び越した。
ただ飛び越しただけではない。右に持っていた短剣で背中にまっすぐ切り込みを入れている。
そして、牛の背中が終わるあたりで、短剣を持っている腕を振り上げつつ、背中から抜いた。その反動すら利用するラルフは、空中で器用に一回転し、着地時に足を後ろに出し、百メートル走のスタートのような体制で勢いを殺した。
だが、ラルフの攻撃はまだ終わってなかった。その体制のまま勢いよく飛び出し、尻尾を切り落とした!
そのあとはすぐに距離をとった。次は俺の番のようだ。
やっぱラルフはすごいな。なんというか、すごく身軽で、見ていて爽快感のある戦い方をしてくれている。
ショーでもしたら金とれるんじゃないか?
あ、俺がサボってるって思ってるだろ?
俺だって見ているだけじゃないし、ラルフに感心しているだけではない。
魔力を右腕に集めていたのだ。まだ、鍛錬を初めてそこまで期間が立ったわけではないので、魔力を集める速度は遅い。しかし、時間をかけることで、自分でも驚くくらい、数値で表すと七くらい集めることができるようになっている。
今集まっているのは六だ。これ以上集める時間はない。前に使っていた魔法の二倍だ。悪くはないだろう。
この一撃で仕留めることはできなくても、弱らせることはできるはずだ。
よし、いくぞ。
イメージするのは落雷。俺の手から放たれるものは当たったものを焼き焦がす。
俺から出る電気は+、あいつは-の電気を持っている。
うん、やはりこのイメージが最適だ。
ダンジョンのユニークと戦ったときの電気の+-のイメージ。これをするかしないかで俺の魔法の命中率が著しく変化するのはこの三日間で把握していた。
あとは放つのみ。落雷のイメージで放つのは初めてだが……やってくれるだろう。俺のイメージしうる最高の威力だ。
俺は腕を前にだし、手のひらを牛型の魔物に向ける。
そして心の中で数えるカウントダウン。
三……二……一……
「そらぁっ!」
発射!
閃光。
魔法を使っている俺の目はなぜかつぶれないが、ラルフやミルは今頃目を押さえているだろう。
そして本当に一瞬、遅れて聞こえてくる音。
ドゴォ!!……ガラガラ……ガッシャン!!
「えっ?」
俺の声だ。閃光で目をやられなかった俺はいち早くその惨劇を把握した。
目の前の二頭を持つ牛は瀕死状態だった。それはいい。
問題はその後ろだ。
なんと……
超召喚魔法研究所 が 崩 壊 し て い た
「あ……あ……、え………?」
これはミルの声だ。うん、ものすごく唖然としている。
あとで、しっかり謝ろう。
とりあえず俺は牛にとどめをさし、ついでに肉も抉り取っておいた。
そのあと、牛は霧になって消えた。肉は手元に残ったままだ。
どうやらダンジョンと同じで、霧になる前に取ってしまえば残るらしい。
今日の晩飯は焼肉だ、豪勢だなぁー(現実逃避)