◇11 アホの子 そして召喚魔法
俺たちは森の中のボロい、木で作られた小屋の前にいた。
「なぁ、ギル。もう帰ろうか?」
「ああ、それがいいと思う」
俺たちは踵を返す……直前に声をかけられた。
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「はい、この依頼ですね。場所は南の森の奥にある小屋です」
「へぇ~、そんなところに小屋なんてあるんだ。ありがとう」
「はい、行ってらっしゃいませ、ラルフさま、ギルさま」
ラルフが受付嬢と言葉を交わす。ここ最近ずっとこの人に鹿を買い取ってもらってたから、顔と名前を憶えられている。
俺らは、そのまままっすぐとギルドの外に向かった。
「森の奥の小屋か……どんなところなんだろうな?実験って言ってたから、小屋の地下、ちょっと怪しめな実験室とかかな?」
「どうだろうな、案外普通の小屋かもよ?」
俺は苦笑いで答える。
うん。地下の実験室なんて御免だ。どんなマッドサイエンティストがいるか、わかったもんじゃない。
俺がそんなことを考えてる最中にラルフは屋台を見つけて、近づいて行った。
「おっちゃん!串焼き一本!」
「あいよ。銅貨五枚な」
ラルフは腰に掛けていた袋から銅貨を三枚取り出し、会計を終え、串焼きをもってこっちに戻ってきた。三日間も鹿を狩っていたおかげで、買い食いできるくらいには俺たちの懐は温まっていた。前は宿代でいっぱいいっぱいだったからな。神様も銀貨たった五枚で放り出すなんて無責任なもんだ。
そこまで考えたとき、高そうな服を着た男が横を通った。反射的に自分の着ている服と比べる。
うん、確かに余裕はできたけど、これで満足してたらダメだな。俺らは冒険者だ。どうせなら一攫千金を目指そう。ロマンだ、ロマン。
「あんまし食いすぎるなよ、動きが鈍るぞ」
俺はラルフに声をかける。言っとかないと動けなくなるくらい食べそうな気がする。
つか、朝飯食べたばっかりだよな?
「わかってるわかってる。食うのはこれだけだよ」
本当か?まあいいか、この依頼を成功させたら銀貨六枚入るんだ。空腹で戦えないよりかはましだな。
結局、ラルフは、串焼きを食べ終わった後もいろいろな屋台によっていた。
食いしん坊認定されるぞ、お前。
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いつも通り門を超え、森に入ってきた。
鹿を狩りに、計四日通った道は、既に歩きなれていた。
どんどん奥に入っていく。途中でゴブリンを数体見かけたので狩っておいた。俺とラルフの連携も大したものだ。あまり時間をかけずに討伐した。
さらに三十分くらい歩いたころ、小屋が見えた……まさかな?
いや、だってものすごくボロボロだし……
ラルフと話し合った結果、ひとまず近寄ることになった。
はぁ、なんか近づきたくねぇ……
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ここで冒頭に戻る。
俺らが踵を返そうとしたとき、声がかかった。
「おお、キミたちが依頼を受けてくれた方か!」
ドアをダン!と大きな音がなるほど勢いよく出てきたのは十二、三歳ぐらいに見える、二つ結びのかわいらしい女の子。
だが、なんかおかしい。雰囲気というかなんというか……
「ワタシは、この実験設備、超召喚魔法研究所に住む、天才召喚士、ミルだ!よろしく頼む!」
なんだよ、超召喚魔法研究所って!どこが研究所だよ!しかも超つける意味なんだよ!自称天才だし!絶対危ないやつだ!
「ギル、今オレは猛烈に帰りたくなった」
「ああ、俺もだ、さっさと帰って違約金払おう」
異論?あるわけねーだろバカヤロー。
「ああーーー!ちょっと待った待った!ごめんなさい!謝るから話だけでも聞いて!お願い、お願い!」
改めて後ろに振り返り、帰ろうとすると、そのミル……だったか?は、慌てて俺たちを引き留めてきた。
さっきの威厳(があるように見せようとしていた態度)なんて微塵もない。
なんなんだ本当に。
しつこく泣きついてくるので仕方なく話を聞くことになった。
ラルフはもう、興味がなくなったと言わんばかりに短剣を磨き始めた。
はぁ……仕方ない、俺が話を聞くか……。
「で、依頼ってのはなんなんだい?お嬢ちゃん」
「ム!ワタシはお嬢ちゃんじゃないぞ。もう成人しておる。それにワタシの名前はミルといったはずだ。ミルと呼んでくれ」
えっまじか。この世界の成人って確か十五だろ?
改めて彼女を見る。
二つ結び、身長は百四十と少し。髪は金髪、目は露草色だ。服は黒いローブのようなものを着ている。
ええ~?どうやっても十三くらいにしか見えないぞ?
「なんだその失礼な視線は!ワタシは偉い召喚士さまだぞ!」
俺が懐疑的な視線で見ていると、そうお声がかかった。というか、さっきから言ってるけど召喚魔法とか、召喚士ってなんだ?よくわからなかったので聞くと、
「ん?召喚士を知らないのか。そうかそうか、それではワタシが説明してやろう」
自信満々な顔でそんなことを言い出した。あ、ラルフに似てるかも。そう思ってラルフを見ると、召喚魔法について興味がでたのか、近づいてきていた。
「ザックリいうと、召喚魔法は、その名の通り魔物を召喚するものだ。召喚士とは召喚魔法を主体として戦うものを指す。注いだ魔力の分だけ強い魔物が呼び出され、力を貸してくれる。ただ、魔物は一定時間たつと霧になって消えるんだ。だから一回の戦闘ごとに魔物を呼び出さないといけない。これが魔物使いとの大きな違いだ。あ、ちなみに魔物使いは魔物を手なずけて、ともに過ごしている者のことを指すぞ」
「ん、要するに魔物を使って魔物を倒すってことだな。で、魔物使いってのが、常に魔物をそばに侍らせる人間に対して、召喚士は敵と会うたびに魔物を召喚、そして召喚した魔物の消滅を繰り返すってことか」
「概ねそんな感じだ」
「でも召喚魔法なんてどうやって使うんだ?やっぱりイメージの問題なのか?」
「いや、召喚魔法は少々特別でな。召喚魔法のスキルを生まれ持っている人間じゃないと使えないんだ。召喚魔法のスキルを持っている人間が、使う魔力量を決め、ある程度方向性、まぁ足が速い、とか盾を持っている、とかだな、それを持たせて魔物を召喚することを念じれば召喚される」
なるほど。できるんだとしたらチャレンジしたかったが、これは完全に才能の問題のようだ。
「よし、では本題に入ろう。ワタシは今召喚できるのはゴブリンとスライムのみだ。しかし、これだけでは召喚士の名が廃るというもの。そこでだ!新しい魔物を召喚してみようと思うのだ!」
なるほど、確かに召喚士としての才能をもってるのにスライムとゴブリンしか召喚できないんじゃあ格好がつかないよな。
でも
「それで、なんで俺らが必要なんだ?」
「ああ、実はワタシの手に余る魔物を召喚したら、暴走してしまうんだ。そんな魔物は、さすがにゴブリンとスライムだけじゃ撃退できないだろうから、キミたちを呼んだってわけだ」
あー。なるほど。暴走した時の保険ってわけか。
でもゴブリンを召喚できる彼女が手に負えない相手……少なくともゴブリンより強いことは確かだ。俺らはまだひよっこだからな、少々苦戦するかもしれない。少し気合を入れておくか。
最初は違約金を払う気満々だった俺だが、心の中ではどこかやる気になっていた。
ヒロイン(?)の登場です