プロローグ ー異世界へー
今日も仕事が終わった。
俺、久坂 彰は至って普通のサラリーマンである。
身長百七十四センチ、体重六十一キロ、そして顔は、日本でよくある、平たく陰影の乏しい顔。
強いて特徴を上げるとしたら、全体的に穏やかそうに見えることだろうか?
決してイケメンではないが特別不細工というわけでもない。
小、中、高、と平均より少し高い程度の学力の学校に通い、運動もクラスで真ん中くらいにはできるほうだった。
友達は、たくさんはいなかったが、ボッチというわけでもない。
高校で仲の良かった奴は今でも時々連絡を取っていたりする。
少し述べただけでも、わかる。
俺には大した特徴がない。
それによる弊害か、二十七になってもいまだに彼女が一人もできたことがない。
モテないわけじゃないと思うんだけどなぁ……
高校までは奥手(と言っても、話しかけられて顔を赤くしたりだとか、挙動不審になるとかじゃなく、自分から話しかけづらいくらい)だったけど、大学に入ってからは、勇気を出して積極的に女の子と話したりしたし。
評判も悪くはなかったと思うよ?
例えば……
「久坂くんって、いい人だよね」
「優しいし気が利くしね~。まぁ、彼氏にどうかって考えると微妙だけど」
「わかる!ぱっとしないっていうかー」
うん、泣きたい。
まぁ、そんな俺でも一応安定した生活を送っている。
上司との関係も良好だしな。
それで、今日の仕事は終わった。
今は、会社に徒歩で通ううちに歩きなれた道を通り、家に帰っている。
明日、会社は休みだ。
自然と足取りが軽くなる。
今日の夕飯は何を食べようか、明日は何をしようか。
ああ、田中が趣味でバンドを始めたって言ってたな。
初ライブが明日だとか……行ってみようかな。
そんなことを考えていたら、後ろから悲鳴が聞こえてきた。
なんだなんだ?なんでこんな大通りで悲鳴が聞こえる?
気になって振り返ると、目の前には――
大型トラックがあった。
「えっ?」
あまりにも一瞬の出来事で、何が起きたか理解できないまま、俺の意識は途切れた。
―――
目が覚めた。
あれ?俺何してたっけ……?
仕事が終わって、それで——
「あっ」
最後に見た光景が大型トラックが突っ込んできている場面だと思い出した。
確実に死んだよな、俺。
あれ?じゃあここはどこだ?
ここまで思い出して俺はあたりを見回す。
うん、真っ白だ。
もしかしてここが死後の世界?
そんなことを考えていたら背後から声をかけられた。
「久坂彰くんだね?」
いろいろな人の声質を合成したような声だった。
老若男女どれともとれる。
俺は声のした方に振り返り、驚いた。
なんと、その人(?)は人型をした光の集まりのようなものだったのだ。
顔はもちろんのっぺらぼう。
それでも声をあげなかったのは、自分が既に死んでいて、これから何があるかわからない、と頭の中で少しは考えていたからだろう。
「君は今から三時間前に死んでいる。ここは君たちの世界と死後の世界をつなぐ場所だ」
「死んだんだ、俺。それにしても、死んだってのに、自分でも怖いぐらい落ち着いてるなぁ」
やはり俺は死んだらしい。
何故かは分からないがすんなりと受け止められた。
そのことに不思議がっていると、その人(?)は説明してくれた。
「ああ、私が魔法をかけたんだ。人を落ち着かせる効果のあるものをね」
魔法?そんなもの使えるのか?それとも比喩的なものかな?
「そうだな、魔法も関係あるしまずは君のこれからを話そうか」
そう言ってその光は、俺に二つの選択肢を示す。
「簡潔に言うと君には二つの選択肢がある。今の記憶を持ったまま私の管理下にある世界に転生するか、このまま死後の世界に行き、君の世界に転生するのを待つかだ」
死んだら転生できるんだな。
そして俺は記憶を持ったまま転生できる選択肢がある……と。
言い方からして、恐らく死後の世界に行ってからもう一度地球に転生すると、記憶は消えるんだろう。
でも――
「あなたの管理下にある世界?いったいどんな世界なんですか?」
「所謂異世界、というやつだね。剣と魔法の世界で君の世界で言うと中世の世界観に近いかな。ゲームのようにステータスやメニュー画面はないがスキルは存在する」
おお、異世界!それもラノベでよくある剣と魔法の世界。
「でも何故転生させようと思ったんです?」
単純に疑問に思ったので聞いてみた。
なんでわざわざ俺を異世界に転生させるんだろう。
「私の世界は今行き詰っていてね、発展がないんだ。君のような異世界人は必ずこの世界に影響を与えてくれる。だから呼ぶことにした。安心してくれ、死にづらいようにスキルも与えるし、君の世界に帰ることができる魔法も存在する。悪くない話のはずだ」
なるほど。
確かに異世界人が現れたら何らかの影響を与えることになるな。
そして、記憶をもったまま地球に戻れる可能性もある。
もともと、俺の親は既に他界していて、友人たちは俺が死んだくらいで立ち止まるようなことはない。
もし地球に戻れたら、会いに行けばいいしな。
異世界に行ってみるのもいいんじゃないか?
「そうですね、あなたの世界に行ってみます」
「おお、そうか。申し遅れたが、私は君がこれから行く世界、【ケレスピア】を管理する神だ。君が【ケレスピア】で活動するための肉体だが……元の体はバラバラでね、新しい体を用意することになる。そこでスキルを一緒に混ぜるのだが……君はどんな力がほしい?世界のバランスを壊しかねないような大きな力は無理だが、そこそこのスキルなら混ぜることができるぞ」
神様だったのかよ。めっちゃ光ってますやん。
力かー……うーん……
「そうですね……成長の限界を底上げするスキル……とかってありますか?」
そういうと神様は少し笑った……気がした。
「ほう、珍しいな。普通だったら剣術やら、魔法やらのスキルをとると思ったのだが。了解した。では【限界突破】のスキルと安全のための【即死回避】をつけよう」
他人から力をもらって我が物顔で使いまわすのは嫌だった。
これなら俺が鍛えれば鍛えるほど強くなる。
俺の力だといえる。
もちろん【限界突破】のスキルも与えられた力だが、これが俺の妥協点だ。
妥協しないと普通に死にそうで怖い。
だって魔物とか出るんだろ?
「よし、これで転生をする準備は整った。あとは体を送るだけだ。一応金銭は新しい体に持たせてある。【ケレスピア】にはとっつきにくい常識は特にない。十分適応できるだろう。私から課すノルマなどもない。好きなように過ごしてくれ」
「はい、ありがとうございます。心の準備は整ってます、お願いします」
「ああ、ではぜひ私の世界を楽しんでくれ」
こうして俺は異世界に旅立った。
拙い文章ですが、これからどうぞよろしくお願いします。
※少しずつですが、文章を書きなおしています。
話の前後で少し矛盾が生じているかもしれません。
申し訳ありません。