第三話
楠見と、疫病神(作者)の会話回。
事実のみを書いてますよ、ちなみに。
新たな楠見の仕事先が決定する。
表の方で、関連会社としての派遣社員登録をなされており、得意分野かそうでないかは関係なしに、派遣先の企業へ行かねばならない。
楠見自身は、この状況を若干ではあるが楽しみながら受け入れていた。
「まあ、やる気のない仕事はダメだからな。経験無くても、楽しみながら仕事すれば、嫌々やるよりも良い仕事ができるだろう」
それはそうなんだが、これがなかなか実行できないのがサラリーマンのツライところ。
こんな仕事ばかりなら、作者も最初の会社を早めに辞めることもなかったろうに……
「ん?なんだか俺以外の事で愚痴ってる感じがするんだが……」
これは失敬。
どうも作者は、楠見に同情的である。
「なんだか丁寧に言われてるが、結局は酷いこと言われてるような気がするんだが……」
いやいや、そんな事は無い。
1年に数回、仕事であっちこっちへ飛ばされまくる生活は、ツライという実感があるから。
「あ、俺の仕事も、そんな風になるの?キツイよ、それ」
もちろん、そのつもり。
1年で4箇所も回ってみなさい、家に返ってくると、しばらく家から離れたくなくなるぞ。
まあ、慣れてくると、それから半月も経つと、会社での仕事に飽きて出張へ行きたくなるんだが……
「それ、仕事中毒って言わない?酷い生活だね」
君にゃ言われたくない。
これから、君には毎回ごとに違う職場が待っている。
もちろん、現場が一日で終わるはずがない。
数ヶ月から1年の長丁場だから、安心しなさい。
「うわぁ、それ決定事項じゃないか。初心者社会人なんだから、もっと手加減してくれ!」
甘い。
作者は入社一ヶ月未満で関東の某地へ送り込まれて、その月から残業120時間とか、やらされた。
健康診断で指摘されて残業80時間以下になったが、また次回の健康診断で異常なしと判断されて120時間超えの残業生活だった。
「うわぁ!完全にブラック企業じゃないかぁ!若いから大丈夫だったの?」
若いからね。
ちなみに出張生活も、酷い時には半月の予定で行って、宿に止まったのは移動日だけ。
初日に現場事務所へ出勤したら、そのまま宿へ帰れずに2週間が過ぎ、最終日に午前中で仕事が終わり、帰りに宿へ寄って荷物を受け取り、あまりにかわいそうだからと宿代を半額にしてもらい風呂だけ入って、その後に新幹線へ乗って帰社。
「しくしく、あまりに酷い……さぞかしスタミナだけはあったんでしょうね」
太ってたし食う量だけは凄かったね。
ただし、これも30代後半までしか通用しなかった。
40代になったら若い頃の無理が跳ね返ってきて無理が全然きかなくなった。
肉体は正直だなと思ったよ。
その時、無理できても、老いてくると無理のツケが返ってくる。
身体は若い時に大事にすると老いてもある程度動けるけど、若い時の無理は必ず10数年後に返ってくるから気をつけるように。
「はい、身にしみます。身体は大事にします……しますからぁ……」
はっと気がついた。
楠見はベッドからガバっと起き上がる。
「変な夢見たな。寝汗が酷い……よく覚えてないが、よほどの悪夢だったのかも知れない……」
まだまだ若い、楠見。
無理はしたくないのだろうが、ぼつぼつ、無理をしないと終わらない仕事を入れることとしようか……
「ハックション!うう、何か疫病神のような奴が俺の噂をしてるような気がする……」
楠見は体調を崩し、一日だけ出社を伸ばしてもらった。
こんなことができるのも完全にブラックな企業は駆逐されたからだ……