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98話 曲げられない男の意地

お風呂の話はさらっと流すはずがもう3話も使ってる・・・


「よっこいせ、っと」


「ジェノ様、どこ行かれるんで?」


「ん? あ、ああ、ちょっくらトイレに」


 ジェノが立ち上がると、すかさず一緒にいたもう一人が声を掛けた。ジェノは当たり障りのない返答をするが、それで納得する程この男は甘くはない。


「そっちはスプリ様がおられるんであっちで済ませてください」


「へいへい。・・・ちっ」


 二つの目で睨みつけるとジェノはすごすごと引き下がり焚き火から離れていく。


 その男は、二つの犬の頭を持ち、全身が真っ黒な毛で覆われている。その身体は屈強で、人と同じように二足歩行で移動する。スプリのいた世界ではオルトロスと呼ばれる魔物が直立したような姿だ。そして左の頭はほとんど眠っている。


 人格が二つあるわけではないが、右の頭がオル、左の頭がロスという愛称で呼ばれている為、他の者は彼のことをオルトロスと呼んでいた。本人も何となく好ましく思っているのでそのまま定着した。


 オルトロスは元々、更なる強さと闘争を求めて旅をしていた。その中でフィスタニスに敗れ、フィスタニスの部下となった。与えられた役目は切り込み隊長。そのしなやかで強靭な肉体で敵陣に真っ先に飛び込んでいく彼は、フィスタニスの部下でも獅子奮迅の働きだった。


 それが、フィスタニスがコンプレックスを抱いていた姉にちょっかいをかける為に、一人の少女を攫ってきたことで全てが砕け散った。フィスタニス達はその少女に蹂躙され、オルトロスもその少女の世話係として働くというとても惨めな扱いを受けていた。


 しかし、オルトロスは気付いた。この少女こそがこの最強に程近い存在であり、この少女の傍こそが最も危険で、最も己を高める場所だと。こうして彼は、スプリのお世話係に正式に就任して共に旅立ったのである。


 そして今はスプリはフコノミやフィスタニス達と共にお風呂の真っ最中であった。お風呂になじみのないオルトロスだったが、水浴びのようなものだとすぐに納得した。そしてそれを覗こうとする輩を見張るという指名を帯びていた。


 オルトロスにとってのジェノは、主人の相棒である。だから一応はほぼ同列に扱うが、あくまでも建前の話であって最上級はもちろんスプリに他ならない。臣下の礼を取ったわけでもなく単なるお世話係という名目なのでその気持ちを公にすることはないのだが。


「ジェノ様、そっちへ行くと俺様も手を出さざるをえなくなりますぜ」


 オルトロスが座ったままの体勢で、振り向きもせずに声をかける。しかし何の反応もない。オルトロスが鞘に収まったままのスプリにもらった剣を手に立ち上がろうとすると、暗闇からジェノが現れて焚き火に照らされる。


「・・・いやー、道に迷っちゃってさ、ははは」


「まったく、大人しく座っててくれや」


 ジェノが元の位置に腰掛けるのを見て、オルトロスもどっかりと腰を下ろす。オルトロスは小さくため息を吐きながら目の前の軽薄そうな男を見る。


 オルトロスから見てジェノはそこそこ腕が立つとは思ったが、敵に等なり得ないと思う程度の実力しか感じなかった。何度かあった野生の魔物との戦闘をこっそり影の中から観察していて、身体の使い方や動きは確かな実力を感じさせたがやはり身体のスペックの差は大きい。


 その程度の男をスプリが相棒と呼ぶことにオルトロスは憤りを感じていた。いっそ、この男が死ねば自分がスプリと並び立てるのではと、そう考える程に。


「ヤミ、こんなでっかいのをつけてどうするつもりなのだ!?」


「お、お姉様! そんなところを強く触らないでくださるかしら!?」


 ふと、遠くの方からコノミとフィスタニスの声が二人の元へと届いた。よほどはしゃいでいるのか、はっきりと。それはもうはっきりと。


「ああ、急にお腹が、あいてててててて」


 ジェノが立ち上がり、腹部を押さえて何かに導かれるかのように歩き出す。向かう先は、パラダイス。しかし、そこには屈強な門番が控えている。


「ジェノ様、もうこれ以上は警告はないですぜ。口で言っても分からないなら身体でで覚えてもらおうか」


「・・・ちっ、やっぱそう簡単にはいかねぇか」


 ジェノは諦めたように小芝居をやめて姿勢を正す。もちろん、ジェノは進むのを諦めたわけでも、止まることを決めた訳でもない。ジェノは、楽をするのを諦め、困難を打ち砕く覚悟を決めたのだ。


「男には、どうしても闘わなきゃいけねぇ時がある。諦めちゃいけねぇ時があるんだ。邪魔をしようってんなら、死ぬ気でかかってこい。ぶっ殺してでも押し通る!」


『えぇ・・・、ジェノ殿、ほんとにやるでござるか?』


『目の前に理想郷があるのに飛び込まないで何が男だ! いいからやんぞ!』


『これも宿命さだめか・・・仕方ないでござるね』


 ガイサが明らかに嫌そうな声色でジェノの頭に声を響かせる。ジェノはガイサのやりたくないオーラを一切気にせず脳内で強引に説得して構える。二人の会話が聞こえないオルトロスは、構えをとったジェノを見てニヤリと笑う。殺す理由が出来た、と。


「ほう、よく言った。それなら俺様も、殺してでも阻止してやろう!」


「武神、装甲!」







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