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97話 そこはまさに桃源郷


 ジェノの念願だった旅に出て数日、最初に訪れた村で驚愕の事実にぶち当たった。それは、この世界に風呂の文化は根付いていないということ。他の国のことは聞いてないからこの国だけかもしれないけど、とにかくそういうことらしい。


 理由は単純に、水を大量に使うのがもったいないからだ。湯を沸かすのにも労力がかかるしな。この国ではテイマーが人気職で魔法使いが少ないのも理由の一つじゃないかと俺は思う。原理は全く分からないけど魔法さえあれば水も火も使い放題な気がするし。


 俺はこのくそったれな現実に立ち向かうべく、材料を集めて、ついに風呂を作り上げた!【アイテム作成】様様だな!【錆び無効】のスキルもつけたし長持ちするはずだ。


 本当は湯を沸かしたり温度調節と保温の機能も付けたかったけど、ジェノやターナには買ってきたことにするからあんまりにも不自然な物は作れない。お風呂が根付いてないこの辺りでこんなお風呂に特化した魔法具が金貨一枚で売ってる筈がないからな。


 というわけでこっそり作ってジェノ達と合流して、レザン村を出発した。そして夜がやってくる。






「あー食った食った。じゃあお風呂試すのか?」


「うん。せっかく買ってきたし早速使ってみる。フィスタニスとターナも一緒にどう?」


 いつも通り肉を焼いて食べて満腹になったジェノが、そわそわしながら聞いてくる。ジェノもお風呂に入りたがってたし仕方ないな。ついでだしお風呂を知らない二人も誘ってみるか。


 別に下心があるわけじゃないよ? 何度か見てるし、俺は小さい方が好きだからな。


「お姉様がすごく良いものだと仰っていたので、ワタクシもご一緒致しますわ」


「えーっと・・・お邪魔でなければ・・・」


 無理やり押し付けられたお嬢様キャラのせいでフィスタニスの口調が定まってない。正直俺もそんな詳しくないからつっこまないけど。ターナも控えめながら興味があるらしい。やったぜおっぱい。


「じゃあお風呂入ってくるよ。上がったらジェノにも声掛けるから」


「おう、じゃあこれ持ってけ」


 ジェノはムゲン袋を投げ渡してくる。着替えや小さいタオルなんかもこの中に入ってるからな。ごわごわしてるもののタオルがあるのは、ジェノママが贔屓にしてた商店で普通に売ってたからだ。多分ジェノママが風呂に入るのに自分で作ると目立つから作らせたんだろうな。


「田吾作、あいつが来たら撃って構わんからの!」


「ぎくっ! えっ、いや、なんのことかな?」


 コノミが頭の上にとまっていた田吾作に声を掛けると、ジェノがあからさまにうろたえだした。


「ワタクシも部下に見張らせておきますわね」


「いやいや、この僕がそんなことするわけないじゃないですかあはははは」


 それを見たフィスタニスがジトっとした視線を向けて冷たく言い放つ。ジェノは冷や汗を滝のように垂れ流しながら笑ってる。分かり易過ぎるだろ。


 ふと背後に立つ気配がして振り向くと、そこにはオルトロスがいた。影の焚き火で出来た俺の影の中から出てきたんだろう。


「スプリ様、見張りは田吾作殿だけで十分でしょうし、俺様がジェノ様と火の番をしてましょう」


「そうだな、任せた」


「さぁさぁジェノ様、ゆっくりと語らいましょう」


「あっ、くそ、覗いたりなんかしねぇって! だから離せ! 話せって! ほんと覗かないから! お願い! 離して! あああああぁぁぁぁっぁ!」


「さぁ、あの馬鹿はほっといてお風呂だお風呂」







「これでいいですか?」


「うん、オッケー」


「こちらも出来ましたわ」


 ターナが2m程の杭に布の角を巻きつけて、少し離れた位置でフィスタニスも同じようにしている。夜で近くにはジェノくらいしかいないとはいっても、一応目隠しは必要だからな。ジェノからも隠す必要があるし。だから位置的には街道、ジェノ、目隠し、浴槽、って感じだな。


「じゃあフィスタニス、ここにあれ出して」


「よろしくてよ」


 フィスタニスにムゲン袋を渡して、中から浴槽とすのこを引っ張り出してもらう。重たくて俺じゃ出し入れ出来ないからな。


「わー、これがお風呂なんですか?」


「そうだよ。・・・よし、フィスタニス、ここに火つけてー」


「フッ」


「ありがと」


 フィスタニスが取り出した浴槽を見つめているターナに思わず笑ってしまいつつ、水を半分くらいまで入れる。底の真ん中にある空間に適当に薪を置いてフィスタニスにお願いすると、一瞬で火がついた。なんて便利なんだ。さすがドラゴン。


「ついでにこの水をお湯にしてもらえる?」


「なんだか便利に使われてる気がしますわね」


「そんなことないよー」


 少し憮然としつつもちゃんとお願いを聞いてくれるフィスタニスはやっぱり根はいい子なんだろうな。コノミの妹だし。ちょっと変な方向に拗らせちゃっただけで。


 フィスタニスがお湯の中で黒い球体を何個か弾けさせると、すっかりお湯になっていた。むしろ熱湯だ。水を足して少し熱いくらいに調節する。


「それでこの木で出来たのを・・・あ、そうだ。【アイテム作成】」


 俺はとあることを思い出して気付かれないようにスキルを使う。普通木は中々沈まない。だから五右衛門風呂もフタだけだったはずだ。だから沈むようなこうかを付けとこう。良い素材を使っといて良かった。要領はまだ余裕があったみたいで無事スキルも着いたみたいだからな。


「これがすのこっていうんだけど、これを沈めて入るんだ。火を焚いてる時に普通に入ったら火傷しかねないからな。フィスタニスお願い」


 フィスタニスが湯船の内側だけじゃなくて縁まで覆うパーフェクトすのこを湯船に沈めた。お湯は丁度零れないくらいの量になっている。そして村を出てからそこらへんの木で作った長さ3m程の普通のすのこを

フィスタニスに湯船に向かって置いてもらった。


「よし、出来た! 後はこのお湯を身体に浴びてから、この中に全身浸かってゆっくりするだけだ。本当はしっかり身体を洗うんだけど、色々足りないしそこまでしなくてもいいかな。俺とコノミで先に入るから、後は順番に入ってよ。お湯は俺とフィスタニスで用意するから」


「わかりましたわ」


「わかりました」


「お風呂! お風呂!」


「コノミ、脱ぐの早いって」


 ほかほかのお湯で満たされた湯船にコノミはもはや大興奮だ。既に服を脱ぎ始めている。あらやだ大胆。


 俺はムゲン袋から手桶とタオル、身体を洗う用の布切れを取り出してコノミに近寄る。洗ってやらないとすぐさま湯船に飛び込んじゃうからな。決してやましい気持ちがあるわけじゃないよ。


「服やタオルが濡れるといけないからここに立って」


「おおー、少しぬるいくらいだがやっぱりお湯を被るのは気持ちいいの!」


「どうせ火耐性とかありそうだし煮えたぎってて丁度いいとか言いそうだな」


 湯船側のすのこの先端で手桶ですくったお湯をはしゃぐコノミの頭からぶっかける。コノミは目を瞑ったままきゃいきゃいとはしゃいでる。久しぶりの風呂だし気持ちは分かるんだけどね。


 続いてコノミの全身を布切れで磨いていく。布切れが冷めたら手桶のお湯でざぶざぶ洗って、お湯が汚れたら捨てて新しいお湯を掬う。それを何度か繰り返しているのを、ターナとフィスタニスは興味津々って感じで眺めてる。


「はい、終わったから先に入っていいよ」


「お風呂ー!・・・ああぁぁ・・・。」


 終わるやいなや湯船に入って気の抜けていくような声を上げている。見た目の割に妙におっさん臭い。実年齢を考えるとおかしくないんだろうけど。


 俺もお湯を被って全身を洗う。服? 俺の服は身体と一体化してて皮膚みたいなものだから脱ぐ必要がなかったりする。スカートとかだと洗いにくいから部屋着として使ってたパンツにタンクトップ姿だけど。


「ふぅー・・・」


 俺もお湯に身体を浸すとやっぱり声が出てしまう。仕方ないよね、あったかくて気持ち良いんだもん。


 見れば、ターナもフィスタニスも早くやりたそうにこっちを見てる。んー、順番にと思ったけどこの大きさなら詰めれば入れる・・・か? フィスタニスが脚を伸ばしてゆったりリラックスくらいの大きさではあるからな。別に、美女や美少女と鮨詰め状態になりたいわけではないんだよ? ほんとに。


「順番にと思ったけど時間もかかるし、二人ももう入っちゃう? 多分窮屈だろうけど明日からは各自で入ればいいんだし」


「ワタクシはそうさせてもらいますわ」


「あ、私も入ります!」


 提案してみたら二人ともあっさりと頷いた。あんまり羞恥心とかは無さそうだ。片やドラゴンで、片や冒険者だもんな。同性っていうのもあるし。もしかしたら早く入ってみたくて我慢できないのかもしれないけど。


 ああ、やっぱり女の子が服脱ぐ姿ってすごくエロいよな。



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