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96話 今頃気付いた文化の違い


 上機嫌で宿屋に戻った俺達を出迎えたのは、この世の非情な理だった。


「え、もう全部使っちまったのか? 一か月分の小遣いだぜ、あれ」


 うおおおおおおおおおおお、マジか。なんてこった。確かに銀貨10枚は多いと思ったけどさ!


「あわわわわわわわ」


「お姉様達が調子に乗って沢山食べるから・・・」


「フィスタニスだってステーキを何度も御代わりしてたからな」


「うぐっ」


 コノミがうろたえて言葉にならない声を発しながら微振動して、フィスタニスは俺達に非難の目を向ける。だけどフィスタニスレアのステーキを気に入ってムシャムシャ食べてたんだから同罪だ。とぼけようなんてそうはいかない。図星を突かれたフィスタニスは何かを詰まらせるようなお決まりの反応をくれた。


 でもまぁ、これからしばらく間食を控えるのは辛いものがある。なんとかしないといけない。こうなったらあれをやるか。


「うーん、しょうがねぇし追加で渡しとくか」


「いや、お金は自分達でなんとかするから気にしないでいいよ。それより晩御飯にしよう」


「お? それでいいんなら助かるけどな」


 ジェノがお小遣いを増量してくれようとするのを遮って食堂へ向かう。俺達の間食に旅費を使わせるのも悪いしな。俺達が食べる分くらいは自分で稼ごう。


 そして俺達は食事を摂り、そしてまた驚愕の事実にぶち当たる。


「風呂が・・・無い、だと・・・!?」


 そう呟いたのは誰だったか。俺かもしれないし、ジェノかもしれない。コノミの可能性もある。それが分からないくらいに、混乱してしまっていた。


「すみません、その、お風呂っていうのは何ですか?」


「ワタクシも知らないですわね」


 宿屋の主人に伝えられた過酷な現実に打ち震えてた俺達に、更なる追撃が来た。フィスタニスはともかく、ターナも知らない? まさか・・・。


「風呂っていうのはこう、お湯で身体を洗ったり、大きな入れ物にお湯を貯めてその中に浸かったりするやつだよ。知らない?」


「王都の一部でそういう習慣があるって聞いたことあるような・・・。でも私はやったことないです。身体を清める時は布で拭くだけですよ」


 お風呂の習慣はこの世界に根付いてないのか!? だって俺達はジェノの家で毎日お風呂に・・・あっ。ここではっと気付いた。気付いてしまった。


 ジェノママは、自身を俺と同じムゲンだと言った。ということは、ジェノママも異世界から来た可能性が高い。だから毎日お風呂に入る習慣があったし、その家で暮らしてたジェノもその習慣にすっかり慣れてた。


 だけど、ということは、


「普通の宿屋じゃお風呂には入れない・・・!?」


「「!?」」


 これはまずい。まさかお風呂が根付いてないなんて予想外だった。っていうかジェノも気付けよ! ああそういえば修行とバイトに明け暮れてて知り合いほとんどいないって聞いた気がするわこのぼっちめ!


 おやつ代も合わせてこの問題をなんとかしないと俺達は先に進めない。俺達に、未来は無い!


「ジェノ、明日出発を少し遅らせて欲しい。風呂は絶対に俺がなんとかするから」


「その言葉、信じてもいいんだな?」


「任せろ」


「ああ、任せたぜ、相棒」


 ジェノと熱い握手を交わす。俺がなんとかしてやる。日本人の魂にかけて!


「よく分からないですわね」


「あはは、そうですねー」









 翌日、俺はジェノに資金として金貨一枚とムゲン袋を預かった。かなり太っ腹な感じもするけど、それほどまでにお風呂というのは重要な問題だからだ。荷物持ちとしてフィスタニスに付き添ってもらって、残りは宿屋の食堂で留守番だ。


 まず向かったのは色々な素材を取り扱ってるお店。とは言ってもあまり大きくはなくて種類もそんなに無い。ただ鉄が欲しいだけだから特に問題は無い。


「いらっしゃい。どういったご用件で?」


「鉄が欲しいんだけどある?」


「若いのに鉄が欲しいなんて珍しいね。鉄はよく使うからそれなりにあるよ。他には何か必要かい?」


 店主は俺の姿に少しだけ驚いたけどちゃんと客として扱ってくれた。さすがプロだ。俺の格好的に冒険者だと思ってくれたのかもしれないけど。


「後は木材かな。魔法的な素材だと嬉しいんだけど。あと金属もあれば」


「それなら杖によく用いられる木材があるよ。金属はそうだな、魔銀なら少しあるね」


「じゃあそれも。量は・・・とりあえず金貨一枚で買えるだけ。全部同じ値段分くらいで」


「あいよ。少し待ってな」


 雑な注文に嫌な顔一つせずに商品を用意してくれる。同じ値段だけ買うとやっぱり鉄が一番多くて次に木材、魔銀とかいうのはかなり少なく見える。


「これくらいで金貨一枚だね。お嬢ちゃん可愛いから少しサービスしといたよ」


「ありがとう、これ代金ね」


「毎度あり。かなり重たいけど運べるかい?」


「フィスタニス、頼む」


「わかりましたわ」


 店主に金貨を渡すと、心配そうに尋ねてくる。金貨一枚分の素材なんて重たいし美少女と美女だけなんだからそうなっても仕方ないな。ムゲン袋をフィスタニスの方に差し出すと、フィスタニスはひょいひょいと袋に素材を突っ込んでいく。これには店主も呆然としている。


「お嬢ちゃん、どえらいもん持ってんな」


「まぁね。それじゃ、ありがとう」


「この辺りも物騒だから気ぃつけなよ」


 店主に手を振って立ち去る。これで材料は揃った。勿論作るのは風呂だ。とは言ってもあんまり立派な物は作れないけど。


 そして俺はフィスタニスの力でゲートを開いてもらって、村の外の草原へと降り立った。街道からは外れてるからそうそう一目にはつかないはずだ。フィスタニスのゲートは最大で自身から2kmほど離れたところまで移動できるらしい。旅に利用しないのは、味気ないからだ。楽ばかりしたって面白くないからな。


 風呂に関しては別だけど。


「フィスタニス、さっきの全部出して」


「これでよろしいかしら? それで、こんなのを買ってきてどうするおつもりですの?」


 フィスタニスがムゲン袋から素材を出して地面に転がしていく。何に使うのかと興味津々だ。そういえば目の前でスキル使ったことなかったっけ。


「【アイテム作成】」


 素材に手を翳してスキルを起動する。まずは金属で湯船を作る。与える能力は、錆びない。これに尽きる。形は長方形で丸みはないカクカクしたもの。この世界の技術で作れそうなものじゃないと不自然だからな。


 底が平らだと温められないから、底の裏側の部分は真ん中に空間が出来るように両側に正方形のぶ厚い板を貼り付けたような感じにしとく。これなら倒れにくいし、真ん中のスペースで湯を湧かせる。


「【アイテム作成】」


 次に作るのは、すのこだ。直火で風呂を焚く五右衛門風呂方式だから、すのこが無いと火傷してしまう。

フィスタニスとコノミは平気そうだけど。


 普通は底だけだったりするけど、内側全てを覆うように作っとこう。壁にもたれてまったりするのが好きなんだ。あと縁にもかかるようにして、角は丸めとこう。与える効果は腐敗防止。あとは折れないように頑丈にしとこう。


 よし、出来た。フィスタニスに試してもらったらサイズもばっちりですのこはピッタリ湯船にはまった。

サイズは予算の都合で大人一人で広々使えるサイズだ。俺とコノミなら二人でもくつろげるかもしれない。


「じゃあこれは仕舞っといて」


 それぞれムゲン袋に入れてもらう。これらは多分フィスタニスかターナじゃないと出し入れ出来ないからお願いして出し入れしてもらおう。


 フィスタニスはアイテムが出来上がるのには驚いてたけどこの道具の有用性がいまいちよく分かってないみたいだから、使うのが楽しみだ。さぁ、ジェノ達のところに戻ろう。



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