93話 締まらない旅立ち
いよいよ旅立ちの日がやってきた。
ジェノは当初ランクアップ試験が終わったらすぐに旅立つ予定だったらしいけど、魔人ガイサが出たり、領主の弟が暗躍したりでそのままズルズルと先延ばしになってしまったんだな。
というわけで俺達は旅の支度をしっかりと整えて、門へと向かっていた。パッと見これから旅に出る程の荷物は誰も持ってないのは、旅を舐めてるとかじゃない。異世界もののラノベなんかでよく見るアイテムボックス的な道具を作って、フィスタニスのアジトで発見したと言ってジェノに渡したからだ。
見た目はただの革袋だけど、某未来の猫型ロボットのように重さや大きさに制限無く収納出来てオマケに重さも感じない。入れるときは普通に入れて、出す時は手を突っ込んで取り出したいものを思い浮かべれば手にとれる。何を入れたか思い出せない時の為に脳内にリストを表示することも可能で、そこから選択しても取り出せる。非常に便利なアイテムだ。名付けてムゲン袋。
旅に必要な物は片っ端からそこに突っ込んで、ジェノに預けてある。リーダーはジェノだし、アイテムの管理も任せてしまうのが良いというのが皆で相談した結果だからだ。ジェノは戦闘中によく魔法具使うし。決して管理とか出し入れが面倒なんて思ったわけじゃないぞ。
ちなみに、ジェノの所持金はナムカラ達に依頼の達成料を支払って、残りの殆どが物資になってムゲン袋の中だ。消費が激しかったのと領主を助けたことでお金はほとんど貰ってないのが大きいな。依頼受けたわけじゃなくて居合わせただけだし、少しだけもらって残りは他の形で受け取った。
ふと視線を前に向けると、いよいよ旅立つことに胸が躍ってるのか、後姿だけでも分かるくらいご機嫌だ。鼻歌混じりにズンズンと大股で歩いてる。
俺と手を繋いで歩いてるコノミはまだ眠たそうで、後ろを歩いてるフィスタニスは明らかに不機嫌そうだ。まだ怒ってるのか。
「いい加減機嫌直したら?」
「別に、ワタクシ怒ってなんていませんわよ」
「本当に?」
「ええもちろん。犬が使うような小さな小屋の前で犬のように待機を命じられた挙句、朝になってやっと帰って来た貴方達がどう見ても宴会帰りだったことなんて、これっ・・・・・ぽっちも怒ってなどいませんことよ」
どう見ても怒ってるし根に持ってる。なんかお留守番っていう言葉が出てきたらつい意地悪したくなっちゃったんだよな。あとまさか打ち上げがあんなに盛り上がるとは思わなかった。3軒くらい梯子して朝まで騒いでたからな。
「まぁまぁ、そんなこともあるさ。これからもそのキャラで頑張ってね」
「ぐぬぬ・・・そのキャラというのは嫌がらせのことか、お嬢様キャラ?というののどちらのことでしょう?」
「両方」
間髪入れず返した俺の言葉にフィスタニスはがっくりとうなだれる。確かに酷かったけど、ちゃんとお詫びもしたんだからな。
まずは怒りと恐れと空腹と眠気がごちゃ混ぜになって吹っ切れたのか、号泣し出したフィスタニスをまだ準備してる串焼き屋の前に引きずって行って、焼く前の串をありったけ食べさせた。
その後、余ってた素材で髪飾りを作成してプレゼントした。田吾作のダイヤと羽をあしらった俺達とお揃いの物だ。しかも、これからもお嬢様キャラと共にその髪型を維持していくフィスタニスのことを思っていくつかの効果を搭載してある。
まず、付けてる状態ならどんな髪型も変幻自在、長さも自由自在で思い描いた髪型にすることが出来る。デフォルトは大きなツインドリルだ。ついでに強度も自由自在で髪を武器にも出来る。この機能はフィスタニスに戦闘能力を詳しく聞きだした時に得た情報から思いついた技を使用するのに必須だった。
プレゼントした時についでに伝授したらそれはもう嫌そうな顔だったけど、なんとか受け取らせた。早く実際に見てみたいものだ。後は田吾作のと俺のとで大まかな位置が分かるようにしてある。これで万が一はぐれても安心だ。
やがて門が見えて、ジェノは手続きをする為に門番に近付いてギルドカードを差し出した。
あのギルドカードにはBの文字が躍ってる。ジェノの頑張りの結果だからなんとなく俺も誇らしいな。そして門に設置してある灯りをギルドカードに貼り付けてある金属が反射してきらりと光る。ああ、そういえばあれもあったな。
「テイマーだね。従魔はどの子かな」
「スプリ、来てくれ」
「はいはい、今行くよ」
ギルドカードを確認してた兵士が顔を上げて俺達の方へ視線をさ迷わせる。田吾作のところで止まったけど残念、ハズレだ。呼ばれた俺が返事してコノミと共に駆け寄っていくと兵士は少しだけ驚いた顔をしてた。でもなるべく出さないようにしてるのは訓練されてる証か。
俺が首にかかっていた文字のくり貫かれた金属のプレートを差し出すと、兵士はギルドカードに貼ってある金属と形を合わせる。Eの形の金属と刳り貫かれたような穴は、触れ合うと癒着するように境界が薄れていく。へー、これで従魔とテイマーの確認をするのは知ってたけど、こんな感じになるんだな
「はい、確認が出来ました。そこのそっくりな子も従魔ですね。テイマーとしてではなく通常のですか。プレートを拝見します」
「はいどうぞ」
今度はコノミがプレートを差し出してた。っていつの間に登録してたんだ。なんでも俺を救出する際に連れて行くのに登録してたそうだ。戸籍が無くて冒険者でもないと街の出入りは面倒らしい。通常の従魔登録だから鑑定もしてないし、俺の妹ってことで種族は人間で登録されてる。
通常は人間を従魔登録することは出来ないし、明らかに人間の見た目のモンスターを従魔にする場合は鑑定をして人間じゃないことを証明する必要がある。それが出来ると攫ってきた子供を従魔登録してしまえば人として扱う必要が無くなってしまうからな。
じゃあなんで俺の場合は出来たのかと言うと、例外があるからだ。種族が人間でも召喚された者ならオッケーらしい。召喚した人間を登録する為にはきちんと契約する必要があるからね。召喚された側が嫌がればそれでお終いだし。
召喚された人間なら大丈夫とは言っても、人間を召喚しちゃった場合は召喚術士の証明書を添える必要があるとかなんとか。ジェノママは一級の召喚術士らしいから、それで俺は大丈夫だったそうだ。コノミも、俺と見た目そっくりだしジェノママに一筆書いてもらってささっと登録したんだとさ。
「はい確かに。ではそちらの方の証明書をお願いします」
「ほらフィスタニスの番だぜ」
「分かっていますわ。ワタクシに指図しないでくださるかしら」
そう言ってフィスタニスも懐から冒険者の証、ギルドカードを取り出して兵士に差し出した。それを受け取った兵士はじっくりと眺める。
「はい確かに、カードをお返しします」
「どうも」
フィスタニスは受け取ったカードを仕舞う。よし、ちゃんと使えたみたいだな。
当然のことだけど、フィスタニスに戸籍なんて無かった。かといって冒険者になろうと思っても鑑定されたらドラゴンなのがばれてしまう。部下のワニ男と違って人に近いわけでもなく、純粋なドラゴンだから大騒ぎになるのは間違いない。
だからジェノは、領主からの報酬としてギルドカードの発行をお願いした。そうしてコネの力でフィスタニスの冒険者登録が完了した。もちろんギルドマスターを抱き込んでの公認偽造だから、ランクアップなんかも滞りなく出来る。
コウロ支部のギルドマスターには魔人ガイサの件で領主もジェノも大きな貸しがあったみたいだから、快く協力してくれたそうだ。色々免除してもらってDランクからのスタートだけど、多分上げようと思えばあっという間だろうな。
「では扉を開きます、お気をつけて」
兵士が脇に避けて、大きな扉が開いていく。
すると、そこには沢山の人がいた。
「うちの息子を救ってくれてありがとー!」
「魔人をやっつけるなんてすげーぞー!」
「笑っちまって悪かったな、お前は最高にいかした男だ!」
「領主様を助けてくれてありがとう!!」
何か数十人の人達が門の向こうで道を作るように二手に分かれて口々に何か叫んでる。なんだこれ。ジェノも混乱してるみたいですごいキョロキョロしてる。コノミは人ごみ=屋台と思ったのか涎を垂らしながらキョロキョロしてる。落ち着け。
戸惑いながら人々の間を歩くジェノについて歩くと、人垣の後ろでニヤリと笑っている領主を見つけた。全くもう、人も屋敷も失ってこれから大変だろうに。その横でターナが待機してるのも見つけた。
「ったく、しょうがねぇな」
ジェノも同じく気付いたのか、照れたように笑っている。
「行ってくるぜ!」
ジェノは腕を掲げてそれだけを言うと、人々に背中を向けて歩き出す。遅れないよう俺達も付いていく。後ろからは歓声が聞こえてくる。街の人口からすればほんのごく一部だ。それでも、一連のことでジェノはこれだけの人から感謝される冒険者になっていたってことだ。
主人公っぽくていいじゃないか。これからもヒロインとして一緒に頑張っていこう。
「ジェノ」
「ああ? どうしたスプリ?」
「やったな」
「まだまだだな。オレはもっとビッグになってやるで。それこそ世界を救うくらいのヒーローにな」
「おはようございます! ジェノさんならなれますよ!」
「おう、サンキュー。とりあえずこの剣も袋に仕舞っとくな」
「なぁ、お腹が減ったんだがの」
「さっきあれだけ食って来たじゃねーか! 今感傷に浸ってんだからちょっと我慢してくんねぇ!?」
「ああ、ワタクシもなんだか五月蝿い男を引き裂いて血を啜って肉を貪りたい気分ですわ」
「こえーよ! ちょっと落ち着け!」
俺達の冒険はこれからだ!
やっとこさ一区切りつきました
勿論まだまだ続きますので、これからもお付き合い下さい