92話 新たな依頼
というわけでやって来ました領主の館・・・ではなく冒険者ギルド。屋敷焼けちゃったらしいからね。冒険者ギルドの会議室は申請さえすればレンタルできるんだそうだ。
建物の前にザ・執事って感じのナイスミドルが待っていた。領主の執事でしかも執事長らしい。ジェノに聞いた話だと領主を守って孤軍奮闘してたんだそうな。執事ってなんか強いイメージあったけど気のせいじゃなかった。
執事長に連れられてギルドの二階へ。ノックしたら中から短い返事が聞こえて、執事長は扉を開けて中へ入るよう促した。ジェノに続いて俺とコノミ、田吾作も中へ入る。執事長は外で番をするようで俺達が入ってすぐに扉を閉めた。
中には領主が待っていて、席を立って出迎えてくれた。あれから三日、怪我の影響は全く無いようだ。魔法があると回復が早くて便利だな。
「よく来てくれた。色々話はあるが、まずは救ってくれたことを深く感謝する」
領主はそう言って頭を下げた。貴族なのに良い人だなぁ。この人が領主でコウロは良かったと本気で思う。
「オレ達はスプリを助けたかっただけで、正直なとこついでみたいなもんなんで気にしなくていいっすよ。感謝の気持ちは物理的にもらうってことで、頭上げなきゃその相談も出来ないんでほんと、頭上げてください」
「・・・ああ、そうだな。では話を始めようか」
茶化すようにジェノが言う。こんなこと他の貴族に言ったら即刻処刑だろうに、領主がその微妙な言い回しの意味を理解してくれる人で良かったな。結構失礼な言動してるから今更かもしれないけど。
「君達に来てもらったのは礼を言いたかったのもあるが、実は指名での依頼をしたいと思ったのだ」
「指名依頼? また唐突っすね」
「うむ、実はそこまで急いでもいなかったのだが、今回の件で事情が変わってしまった。詳しく説明するとだな」
そうして領主はまず自らについて語った。高齢にも関わらず、魔法具で誤魔化して領主を続けている理由。簡単にまとめるとこんな感じだった。
領主には、子供が居なかったわけじゃない。娘が一人いた。しかしよくある話で平民の男と恋に落ちて、政略結婚を嫌がって駆け落ちした。領主は後悔しつつも、必死に探したが全く足取りが掴めなかった。領主はそれでもいいかと考えた。それで娘が幸せになるのなら、と。
それでも娘を愛していた領主は、いつか娘が困った時に頼ってこられるようにと、現役を貫いていた。高価な魔法具の力で若返り、娘に誇れる立派な領主を続けていた。やがて知り合った『白黒』というAランクパーティーに領内のことを依頼する合間に娘のことも調べてもらった。
そして、ついに手がかりを掴んだ。けどそれは、娘が十六年程前に亡くなったという情報だった。そこまで聞いて俺は、あれ、終わったぞ? って思っちゃったんだけど、まだ続きがあった。
その領主の娘は、男の子を一人産んだ直後に亡くなってた。で、その男の子を捜して欲しい、というのが領主の依頼だった。突然すぎてびっくりだな。
「内容は分かったけど、どうしてオレ達に? そのまま『白黒』の二人に頼めばいいんじゃないんすか?」
全く持って同感だ。いくら助けたからって、登録したての新人より付き合いが長くて実績もあって、なにより信頼してるだろう二人に頼む場面じゃないのかと思う。その情報を掴んできたのもその二人なんだし。
「実は、コーキンが冒険者を引退するらしくてな。テッペは『野生の獣』に合流してそのまま私の子飼いにはなるんだが、今はこの街も少し混乱していてそっちで手一杯というわけだ。片付いてからでは、・・・時間が足りない」
「時間が足りないってのは、どういう意味っすか? 言っちゃあ悪いけどこれまで消息不明だったんだから少しくらい遅れたって問題ねぇと思うんすけど」
それは俺も思うんだけど、心情とか考えたら言っちゃダメだと思うぞ。俺もそう思うけどな!
「うむ・・・。私の使っている魔法具は身に付けた者のエネルギーを活性化させて健康にすることで若返らせて寿命を延ばすものだ。しかし先日の怪我で致命傷を負ってしまった。おそらく私はこれから急速に衰えていくだろう。持って一年と既に宣告されている」
「・・・」
なんじゃそりゃあ。まずその魔法具の説明もよく分からないし、致命傷受けたらもうだめって、欠陥品にも程があるだろ。まぁそうほいほい若返りなんて出来たら色々大変そうだけど。ジェノも無言になってしまってる。
「これから旅立つのなら、丁度良いと思ったのだ。それに君達は強い。どんな困難も跳ね除けられると私は信じている。だからどうか、私の孫を探し出してはもらえないだろうか」
領主は再び頭を下げた。切羽詰ってるのはすごく伝わってくる。コノミですらすごく真剣に聞き入って、無言のままジェノに熱い視線を送ってる。ジェノに判断は任せるけど、どうするんだろうか。
「しゃあねぇな、どうせ色々周るし、ついでで良ければ受けるぜ」
「・・・恩に着る」
「その代わり、色々便宜図ってくれよな」
「ああ、ああ、もちろんだとも。出来る限りのことはしよう」
「うむ、大船に乗った気でいるが良い!」
まぁそうなるよな。なんだかんだ言ってもジェノは情に厚いし、何しろ主人公だからな。依頼くらい引き受けてくれなきゃ男が廃るってもんだ。あと何故かコノミもノリノリだ。大人の話に混ざるんじゃありません。
そこからは今回の件に対する謝礼や、依頼を受けることに対しての援助等の話し合いが始まった。
お金に関しては色々入用だからということで、根回し等が主な報酬となった。明確に言うと、魔人ガイサ
の討伐と領主の弟がモンスターと手を組んでコウロを支配しようとしていたのを阻止した(ということにした)件は、全てジェノの功績にすることになった。
元々ほぼ事実とは言っても世間的にはガイサは『白黒』の手によるものだと思われているし、今回の件は逆に何が起きたかすらよく分かっていない人が大半だ。それをジェノの功績だと領主がお墨付きすることで、評判が上がるというわけだ。
そしてそれに対する評価として、ジェノの冒険者ランクがBランクになった。ギルドとしても、有能な人材はさっさと高ランクに引き上げて難しい依頼を消化して欲しいという思惑もあるそうだけど。
あとは旅立ちに必要な道具類も一通りと、少しのお金。馬車も用意してくれると領主は言ったんだけど、流石に断っていた。そこまでされると気を張っちゃうしね。ジェノ曰くあくまでも旅のついでだと念を押していたからな。照れ屋め。
後は領主の紋章の入った手形のような物をジェノが受け取った。何かで揉めたときにきっと役に立つだろうって言ってたからきっとあれだ、領主が仲良くしてるから便宜図ってねって伝えるものかな。貴族に絡まれた時とかに便利そうだ。
こうして話し合いを終えた俺達は、会議室を後にした。部屋を出た時に執事長が領主と同じく深々と頭を下げてたけど、ジェノはどこか懐かしいものを見るように笑った後、軽く手を上げて階段を下りた。コノミが全力で手を振ってたから俺も軽く会釈だけしておいた。
一階に降りて酒場に向かうと、リアクース、リクルース、レルカ、ナムカラ、ターナ、ユヴィクス、おまけにテッペとコーキンまで席についていた。なんか打ち上げでもしようって話になってたらしい。皆冒険者だけあって酒好きか。
「ジェノさん、お疲れ様です!」
ジェノに気付いたターナがジェノへと駆け寄る。その視線はまっすぐにジェノへと向けられていて、視線があったらしく背負っていた大剣をジェノに向かって振り下ろす。
「おうターナ、待たせちまったか?」
「いいえ、皆さん今揃ったところですよ」
ジェノは装着したままのガイサの腕で大剣を難なく受け止めて、何事も無かったかのように会話を続けてる。ギルドの職員や偶々居合わせた冒険者達はギョっとしてたけど、俺や仲間達、何より当のジェノが平然としてるのを見て気にしなくなる。
実はこの光景はここ数日で何度も繰り返されてて、もうすっかり慣れてしまった。なんでもターナは眼が合うと襲い掛かってしまう習性があるらしくて、ジェノはその習性ごと受け入れたからターナは安心して眼と眼で会話(物理)が出来るんだそうだ。普通に殺しに掛かってるのにジェノの精神力って何気にすごいよな。
「それでは全員揃ったところで、今回の主役に挨拶してもらいましょうか」
二人のイチャイチャ(物理)を楽しそうに眺めていたナムカラがそう告げながらワインみたいな酒が入ったグラスをジェノに渡す。俺とコノミにはリアクールがジュースを注いでくれた。多分実年齢は二人とも成人してるけど大人しくもらっとこう。
「あー、なんかここ数日すっげー怒涛の展開だった。けどお陰で皆と知り合って、なんやかんやあってあーもうこういうの苦手なんだよ! オレの奢りだから沢山食って飲んでくれ! 乾杯!」
「「「乾杯!」」」
ジェノが投げやりに言いながらグラスを掲げると、全員がそれに続いた。誰もが楽しそうに笑っている。オレが攫われたせいで起きた問題もあるけど、まぁみんな楽しそうだし結果オーライだよね。ヒロイン目指す為には多少の犠牲も仕方ないってことで、ジェノにはこれからも頑張ってもらおう。
さぁ沢山食うぞ!