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89話 合身!流星態!

1月7日分の更新です


 魔王ヘキサは思ったよりも強敵で、手を抜くのは諦めてムゲンの力を開放しようと思ったら意外な援軍が駆けつけてきた。それは可愛くも凛々しいペット、田吾作だ。田吾作は金剛石の槍で魔王ヘキサの五点同時攻撃を全て相殺した。


「あーあ、まさかこの技に対応出来るとか予想外。まぁちょっとトドメだと思って手を抜いちゃってたから、次は本気で仕留める」


 ヘキサは三度槍を構える。そうか、ムゲンの力を使わなくても勝てるかもしれない方法があったな。ぶっつけ本番だけどなんとかなるか。


「いくぞ田吾作! 【合身】!」


「させるか!」


 俺がスキルを発動すると、田吾作の持つパワーやスキルが身体に流れ込んできた。これが合身か。身体が光に包まれて、見た目も変わるみたいだ。


 ちなみに、【融合躍進】は見た目だけ解除した。ステータスのボーナスはあった方が便利だからな。“ムゲン”がチート過ぎて緊張感が足りないだけでヘキサは間違いなく強敵ではあるし。


 ヘキサが慌てたように槍を突き出す。爆ぜるような風圧で木の葉が舞い上がるが、ヘキサの槍の先に既に俺はいない。何故なら、俺はヘキサの後ろで佇んでるからだ。目標を見失ったヘキサが咄嗟に振り返り、立っている俺を見つけて愕然とする。


「俺の動きが全く見えなかったみたいだな」


「なんだと? ・・・一体何した?」


「何って、ただ避けただけだよ。速さに関しては田吾作のおかげだけど」


 今のは時間停止は使ってない。そもそもチート過ぎて出来れば使いたくないしね。使いたくなったら使うけど。


 それは置いといて、ヘキサの後ろに回りこんだのは、ただ高速で回り込んだだけだ。田吾作と一つになった今の姿は、素早さと魔力がおかしなことになってると思う。怖くて確認できない。


 見た目は自分では確認出来ないけど、腕や脚は手袋とニーソの部分がそのまま梟っぽくなってるみたいだ。ふわふわの羽毛が生えてて、指は四本で鋭い爪が生えている。両腕には途中からハーピィみたいに羽が生えててなんか不思議な感じ。


「ならこうはどうだ?」


 ヘキサの全身から何か禍々しい霧のようなものが溢れ出し始めた。それはヘキサの周囲を漂いながら、時折苦しそうな顔みたいなものが見える。なんか呪いっぽい何かだなあれ。辺り一体を埋め尽くすつもりか?


「残念だけど、そうはさせない」


 田吾作の持つ【流星光弾】のスキルを起動して無数の光の弾を周囲に撒き散らす。その弾が通ったところはのろいが浄化されて、怪しい紫色の霧は消滅していく。ついでにヘキサにも何個かぶつけておく。迎撃しようと頑張ってたけどいくつも直撃している。


「ぐっ、てて。ならば、【魔王五貫葬サタンフィンガー】!」


「それじゃあ当たらないって」


「【魔王五貫葬サタンフィンガー】!!」


 槍を五本に増やそうと今の俺の速さを捉えることは出来ない。呆れる余裕すら見せつつ避けようと思ったところで、なんとヘキサはスキルを重ねて使用した。五本の槍の先が更にぶれて、合計25の刺突となって俺のいた空間を囲うように中心へ向けて殺到する。


 その一つ一つが必殺の威力を篭められていて、それはさながら死の鳥かご。


 だけど、


「嘘だろ・・・」


「それじゃあ遅いんだって」


 今の俺は【浮遊】によって僅かに浮いている。つまり自重はゼロに等しい。その状態で地面を蹴り、更に【魔力放出】で急な加速、制動、方向転換を可能とする。思考も加速出来るし速く動いても問題ない。


 やろうと思えば直立不動のまま高速移動も可能だ。微動だにしないままスライドする狂った絵面になるからしないけど。


 そんな気はしてたけどどうやらこの世界では俺の知ってる物理法則や常識なんて、スキルやパラメータの前ではゴミクズみたいなものらしい。


 結局、ヘキサの反応速度を越えている以上、何かしようとした瞬間動けば俺に攻撃を当てることは出来ないのである。ヘキサのスキルは優秀だけど穂先がぶれてから何も無い空間に槍が出現するまでの間で移動が可能なわけだし。


「だああああああぁぁぁぁぁ!」


 突然叫びだしたヘキサは霧どころか真っ黒な煙のような、濃密な呪いを全身から噴出した。顔どころかうめき声すらしてきてキモ過ぎて当たりたくない。何か良くないことが起こるんだろうけど、あまりにも不気味すぎて距離を取りながら光弾をばらまいて浄化してしまう。


 すると、そこにはヘキサの姿が綺麗さっぱり無くなっていた。


「・・・逃げられたか」


 いなくなったヘキサに向けて悔しそうに呟く。フリをする。


 どういうわけかヘキサは半透明になって、ゆっくりと離脱を始めていた。多分スキルか何かで隠れたんだろうけど、【魔眼:看破】の力でバッチリ見える。なんだか面白いからちょっとからかってやろう。


「まだ遠くには行ってないはず。こっちか?」


 適当に当たりをつけて高速でカッ飛んでいく。もちろんフリだ。加速すると見せかけて【透明化】のスキルを使っただけだけど、そもそも動きが見えていないヘキサには同じように見えるだろう。


 そしてばれてないと思ってるヘキサは少し待って俺が戻ってこないのを確認したら、ゆっくりと空へと飛び上がった。なるほど、これで本当に逃げる気だな。そうは問屋が卸さないってね。


 ヘキサは俺の龍神乱舞でぽっかりと空いた空間を通って慎重に木々の上へ出ると、そこそこのスピードでどこかに真っ直ぐ飛び始めた。なるほど、なんで上に出るのかと思ったら一刻も早く逃げたかったんだな。


「げぎゃっ!? なんだと・・・!?」


 とりあえず一切の気配を感じさせずに背後から追い抜き、擦れ違い様に【光の翼】で光を纏った翼を叩き込んでやった。攻撃をしたことで【気配遮断】が解除され、【透明化】も解除する。驚愕を浮かべるヘキサは、切り飛ばされてそのまま崩れるように消滅しながら落下していく己の下半身を見つめている。


「残念、逃がさないぞ」


 鳥みたいになった指をズビシと突きつけると、ヘキサは悔しそうに呻いた。だけどなんか諦めてない感じだなぁ。


「こうなったら、奥の手だ!」


 ヘキサが叫びながら俺に向けて手を翳した瞬間、俺の周囲の空間から無数のダイヤの刃と光の弾が飛び出してヘキサに群がっていく。咄嗟に緑の炎や槍で迎撃するけど、数と速さが違う。あっという間にズタボロになっていた。奥の手なんてずっと仕舞っとけ。


「それじゃあ、お別れといくか」


 まだ息のあるヘキサはしぶとそうだからきっちりトドメを刺しとかないとな。再び【光の翼】の力で右の翼が光を放ち始める。槍も落とし、浮いてるのがやっとのヘキサは息も絶え絶えに口を開く。


「ぐ、なんで、なんでだ。いつでも逃げられたはずなのに、これほどの力を持っていてなんで大人しく捕まってなんていたんだ!?」


 どうもヘキサは俺がフィスタニスにあっさりと捕まってそのまま大人しくしてた理由が分からないらしい。最期にそんな質問が出るなんてよっぽど混乱してるかよっぽど納得いかないかのどっちかなんだろうな。


「捕まったヒロインを主人公が助けに来る。なら、助けられるのがヒロインの仕事だろ」


「一体何を言っぎゃあああああああ!!」


 俺の返答にいまいちピンと来てない様なヘキサを、光の翼の一撃で切り伏せる。肩から斜めに奔った光の線から残っていた上半身全体へと崩壊が広がり、やがて消滅した。


「さーて、戻ってジェノ達を待つか。全身ボロボロだけど拷問でもされてたことにしようかな」


 ぐっと背伸びをしてから、出てきた穴へと引き返す。大人しく捕まってたことにしないとヒロインっぽくないからな。捕まってる間に魔王ぶちのめしてましたなんて俺の思うヒロインとかけ離れすぎてる。ヘキサなんていなかったんだ。








 スプリが飛び去ってからしばらくして、森の中で蠢く影があった。


「な、んとか生き残れたか・・・。まさかあんな化物がいるなんて、まだまだ楽しめそうだ」


 それは、スプリが消滅させたはずの魔王ヘキサだった。ヘキサは、下半身が切り飛ばされた瞬間に魔力と魂のほとんどを移すことで、なんとか生き延びる事に成功していた。移動させた魔力を全てつぎ込んで極僅かな破片を浄化による崩壊から守り、そこから再生したのである。


 そして魔王ヘキサは嗤う。最強とも言える力を持ったものの、他の魔王とは違って楽しみをほとんど見つけられなかったヘキサは退屈で仕方がなかった。唯一何かを滅茶苦茶にすることに生きがいを感じたヘキサは、時折魔物や人間に紛れ込んでは様々な混乱を引き起こしていた。


 それも最近では暇つぶし程度にしか意味を成していなかった。しかし、これからは違う。魔王ヘキサは、最高の遊び相手を見つけたのだ。自分がちょっかいをかけるに足る、全力で潰しにかかっても跳ね除けるだけの力を持った存在を。


 故に、魔王は嗤う。


 これからの人生に楽しみを見出して。


 これからの人生に喜びを見出して。

 



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