87話 たまには使わないと存在忘れるよね
人間に紛れ込んでたはずが突然帰って来たフィスタニスの部下ヘキサは、なんと魔王だった。六芒星がどうとか中二病真っ盛りなこと言いやがって。かっこいいじゃないか。俺も何か考えようかな。
そんなこんなで魔王戦の火蓋が気って落とされた。唐突過ぎてびっくりなんだけど。え、こういうのってもっと壮大にやるんじゃないの?
何章か跨ったりさ、あるじゃん。せめて一章丸々魔王の話にしようよ。突然出てきたキャラが魔王でした、戦います。ってなんだそりゃ。出来の悪いラノベみたいな展開だなまったくもう。
ゆっくり歩み寄ってきていたヘキサが槍を構えると、槍までもが緑色の炎で燃え上がる。なるほど、なんかやばそうだ。炎だけなら炎無効のスキルでなんとかなりそうだけど、槍の方も凄そうな感じがするせいで素手で受けたくない。
とは言っても俺はこれまで肉体の強度を武器に素手で戦ってきたから武器なんて持ってない。ムゲン態(命名俺)ならともかく、龍人態だと普通にダメージを負いそうなんだよなぁ、どうしようか。
加速した思考で考えを巡らせる。必要なのは武器。大事なのはあの槍と炎に対処できること。だけど手元に武器は無い。なら答えは一つ、作るしかない。
材料は・・・これでいいか。
「この炎の威力を感じ取ったみたいだな。だけどそんなものじゃあ防げないぞ!」
「さぁ、どうだろうな。【アイテム作成】」
手に取ったのはオルトロスが持っていたサーベル。それを見たヘキサは馬鹿にしたように嗤いながら槍を回転させていくつもの小さな炎を器用に飛ばしてくる。なんか手を洗った後の飛沫みたいで汚いな。
まぁ、自信満々な感じからしてこのサーベルじゃ防げないんだろうな、きっと。小さいのを沢山飛ばしてくるのを見ると少しでも身体に当たると大やけどしそうだ。
それはもちろん普通なら、だ。
スキルを発動すると手に持っていたサーベルは一瞬にして形を変えた。それは30cm程の両刃の底部分は龍の顔を模したもので、口から刃が生えてる感じだな。その首側に取っ手が付いていて、そこを握ったときに腕を保護するように四角い棒が延びている。形状は俗に言うカタールってやつだと思う。
ネトゲの知識でしかないけどこの形の武器は全てカタールに分類されてたからそれでいい。有名なRPGだとドラゴン特攻武器がこんな形だったな。もちろん二つある。
付与したスキルは【炎熱無効】と【スキル両断】、おまけに【頑丈】【自動修復】まで付いている。そこそこの魔法具だったらしいけど流石にキャパを超えそうだったから田吾作のダイヤを左右一個ずつ埋め込んである。
スキルを付与する時は材料の格によって容量が決まるらしく、付与したいスキルに見合わない場合は素材を足したり良い物に代えたりしないといけないようだ。今回はオルトロスのサーベルだけだと【頑丈】と【自動修復】が精一杯だった。そこにダイヤを足したからオッケーが出たみたいだ。
じゃあダイヤだけ外したらどうなるのかって感じだけど、なんとこのスキルで一つのアイテムとして認識されたら刃がかけることはあっても部品は外れることはないようだ。もし壊れたりして他の物の素材にする場合は、著しく格が落ちるらしい。ダイヤも、元の価値はなくなってしまうみたいだ。俺は入手し放題なんだけどね。
「なんだって!?」
というわけで作り出したカタールを両手に装着して飛んでくる炎の飛沫の中へ飛び込んでいく。炎が身体に当たるが、燃え上がるでもなく霧散した。実は武器を作ると同時に、俺自身にも【炎熱無効】のスキルを取得しておいた。光回線様様だな。
まさか真っ直ぐ突っ込んでくるとは思っていなかったのか驚いて硬直してるヘキサに向かって卸し立てのカタール、双龍刃(今名付けた)を振るう。身体能力に物を言わせた素人剣術を受けてみろ!
「まさか、この魔王炎が効かないとはな、中々やるのは認めてやる。けど、武器の扱いはまだまだだ」
ヘキサは俺の攻撃を易々と受けている。懐に入られてるのに長い槍で両手の攻撃を捌くなんて、こいつ武術も相当出来るな。身体能力で押し切れないところをみるとそんなに差も無さそうだし、魔王を名乗るだけのことはある。
それでも攻撃は止めない。隙をついてくっついたのは、この距離が俺の武器の間合いでありヘキサの槍は扱いにくいからだ。もし離れれば槍で猛攻が始まるのはきっと間違いない。だからこのまま押し切る。もし無理そうなら、プランBだ。
「初めて使ったんだから当然だろ! 龍人煌々(ドラゴンフラッシュ)!」
「うわっ!?」
両手での同時攻撃をヘキサがその槍で受け止めた瞬間に、俺の体の前面が輝きを放った。技名を叫ぶ為にパッシブ化してある【魔力放出】と【爆殺光線】を使って前全方位に放たれた光は、当たれば爆発するという凶悪な代物だ。
もちろん威力は当たった量に比例するから今みたいに範囲を広げると単純な威力は下がってしまう。その分、回避は難しいし距離が近ければ威力だって相対的に増す。ショットガンみたいなもんだな。
ヘキサは全身にばっちり浴びただけじゃなく両目もダメージを受けたたらしく何歩か後ずさって燃える瞳で俺を睨んでる。おお、怖い怖い。じゃあそろそろ遊ぶのもやめて本気で行くか。
瞬間、世界は静止した。
もちろん俺の【時間停止】の効果だ。いやほんと、時間止めれるとかチートの極みだよね。
動きの止まっているヘキサに近付いて腹部に思い切りカタールを突き立てる。そして停止を解除する。
「ぐはぁっ、なんだって・・・!?」
「でかいのいくぞ! おらぁ!」
「ぶっ!」
仰天してキャラがぶれまくってるヘキサにつき立てたカタールに力を篭めて、そのまま上に向かって放り投げて天井に叩き付けた。少しめり込んではいるが、そんなに深くはないからすぐに落ちてくるだろうな。だけどこの部屋に落ちてくることは多分もうない。
「龍神乱舞!!」
いつぞや使った必殺技名を叫んで右手を突き上げる。すると、虚空から龍が現れてそのアギトを開いてヘキサへと空中を泳いでいく。見た目はただの幻想で、その中身は高速の水のミキサーと化しているそれはヘキサのいる天井に齧り付いてそのまま地面を掘り進んで天へ天へと上っていく。水の中に【障壁】で作った極小のバリアを一杯混ぜてあるからもはやドリルだろうな。
「目覚めろ、その魂!」
とりあえず好きな特撮作品のキャッチコピーでも叫んどくか。脈絡もへったくれもあったもんじゃないけど。だってキメ台詞考えてなかったんだもん。