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78話 自由と挑戦の石

 フィスタニスの周囲を漂う漆黒の衛星は、フィスタニスが立ち上がり憤怒に染め上げた瞳をジェノガイサに向けると同時に漆黒の流星群となってどこか虚空を見つめたまま立ち上がらないターナへと襲い掛かった。その速度は時速120kmをゆうに越える。


『あの威力の爆撃はそう何度も直撃する訳にはいかない故、気をつけるでござる』


『ちっ、死ぬ気で撃ち落すぞ!』


 ターナへと迫り行く流星群にジェノガイサは射線上にその身を躍らせた。それはもちろん、後方で動けないターナを庇ってのことだった。最初はフィスタニスにターナを狙うつもりは無かったが、予想外にダメージを負ったことと、それに対する怒りで我を忘れてしまっていた。


 それ故に、万が一にでもターナが攻撃を受ける事が無いようジェノガイサは全て叩き落すことを選択した。その手に現れたのは、太陽の煌き。ジェノガイサへと変わる前にジェノが装備していた道具や装備品は、念じることで表に出すことが出来るのだ。魔力を流されたそれは3メートル程の昆として形を成した。それを器用に振り回して流星群の尽くを撃ち落していく。


 しかも、走ることは出来なくともほんの僅かずつ、だが確実に距離は縮まっていた。侮るのを止めたとはいえフィスタニスのダメージは大きく、痛みを堪えて漆黒の球体を操ることに集中するのに精一杯でとても距離を空けられる状態ではなかったのだ。球体が爆ぜる余波を一身に浴びながら、ジェノガイサはひたすらに迎撃しながらもにじり寄る。


「ふぅ、ふぅ、・・・中々やりますわね。しかし、これならばどうですか?」


「ちくしょう、せこい真似しやがって!」


 しかし、徐々に黒い流星群の密度が上がっていく。そしていつしかジェノガイサの歩みが止まる。それどころか、僅かに後退すらしていた。フィスタニスの驚異的な回復力によってダメージが抜けてきたことでジェノガイサが圧され始めたのだ。


 ジェノガイサは段々と捌ききれなくなり、それに呼応して爆発する距離が自身と近付き余波で受ける衝撃も増していく。そしてその衝撃で動きが遅れ、また少し距離が近くなり、調節する為には下がらざるを得ない。


 その背中には今も動けない少女。ジェノガイサはもうターナの二メートル前まで後退させられていた。そして、さらに密度を増した死が、二人へ迫る。


「うおおおおおおおおおおおお!!」


 雄叫びを上げ、持てる札を全て切って切り抜けようとしたジェノガイサは、自分の薬指に輝く指輪の存在に気が付いた。いつの間にか表に出ていた、ジェノとスプリとの絆を表す指輪。


 台座に嵌ったファイヤオパールが煌いた。そして、ジェノガイサに迫っていた漆黒の流星群が全て一斉に爆ぜた。


「オーホッホッホ、これでワタクシの勝利ですわ!」


 ジェノガイサの姿が爆炎に飲み込まれるのを確認したフィスタニスは、勝利を確信して高笑いを上げた。これで自分はあの悪魔から解放され、この意味の分からない髪形とキャラ設定とおさらば出来ると。しかし、フィスタニスはすぐにその期待を裏切られ、驚愕に目を見開くことになる。


「馬鹿な、直撃したはずじゃ・・・!!」


 爆炎が晴れると、凄まじい音にも反応しなかったターナと、ターナを庇うように立つジェノガイサ、そして二人の前に立つ、オレンジ色の存在がいたのだ。


「なんだこいつは・・・助けてくれたのか?」


「我こそは名も無きマスターオレンジ。スプリ様の命により、お主と契約を結びお主に従う者也」


「よくわかんねぇけどスプリが助けをくれたのか。よっしゃ、名前が無いのは不便だし、今日からシハンと名乗ってくれ。かっこいいだろ?」


「了解した。我こそはマスターオレンジのシハン也。この者は我が命に代えても守ってみせる。背中は気にせず、存分に暴れて来い」


「おう、任せたぜ!」


 そこに立つのは、大きなみかんに逞しい四肢をとってつけたような、魔物の姿だった。目があるであろう部分には大きくバツの字に傷が入っている。ジェノガイサはシハンと名付けられたマスターオレンジにターナを任せ、未だ呆然としているフィスタニスへ向けて疾走する。

 

「ええい、来るでない!」


 それを見て我に返ったフィスタニスは、若干キャラがぶれつつも漆黒の流星群を再び放つ。しかし、スプリが用意してくれていた増援を信頼したジェノガイサは回避を選択した。


 死の具現とも言える流星群の隙間を縫うように、ジェノガイサは何倍にも加速された思考速度と向上した身体能力を活かして残像すら残す速度と方向転換でその姿を何重にもぶらしながら駆け抜ける。黒い球体は尽くがかわされて、背後のターナへと迫る。


 だが、


「はっ!」


 シハンが腕を振るうとその腕から橙の斬撃が空を駆けて球体を切り裂いて撃墜する。余りの切れ味に切断してから一拍置いて爆ぜる為に一撃でいくつもの球体を切り裂いて飛んで行く斬撃と、密度を増したことで爆発の余波で誘爆する為にシハンに微塵もダメージを与えることもなく全て迎撃されていた。


 先程ジェノガイサに迫っていた攻撃の全てを爆破したのも、シハンのこの技を応用したものであった。同時に、薄いオレンジ色の膜のような防御スキルを展開することによってジェノガイサとターナへの被害を0に止めたのである。


 その魔物の種族はマスターオレンジ。オレンジマンという魔物が極限まで己を高めて辿り着くことが出来る至高の存在。その技は巧みであらゆる武具に精通し、独自の武術すら生み出すと言われている、幻の魔物。魔物にしてはめずらしくその強さや戦闘方法は個体によって全く異なる為に一概には言えないが、最低でもAランク相当の強さを持つと認識されていた。


シハンは、スプリが自分の従魔ペットが欲しくなり召喚を試した時に好みではないという理由でジェノの指輪に契約の権利を付与してジェノに与えていた。それが、ジェノの助けになったのは偶然と呼ぶ他無い。


 思わぬ味方を得たジェノガイサは、死の暴威が吹き荒れる平原を駆ける。相棒を、仲間を、全てを救う為に。


 しかし、シハンが現れてから一度もジェノガイサに攻撃を当てることも出来ずあと数秒でジェノガイサが辿り着くまでに迫られたフィスタニスの瞳は、ただ怒りで燃えていた。



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