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77話 深紫の勇者


 その全身は一見黒と見紛う程の深い紫に染まり、あらゆる攻撃を弾く頑強な鎧。胸には熱く燃える勇気を具現化したかのような宝石が輝くその姿は、装甲武人ジェノガイサ!


 ビシッ! っと効果音がつきそうなポーズを決めたジェノはどこか満足げだった。かつて自分を救ったヒーロー、ガイバスターから託された正義の遺志を表現するために用意していた物で、入院している間の時間でジェのが必死に考えたものである。


『!? お主・・・いや、今のジェノ殿がジェノ殿であることに違いは無いでござるな。共にあやつを打ち倒すでござる』


『あぁ? おう、とっととぶっ倒してスプリも皆も守ってみせるぜ!』


 ジェノの脳内に声が響き、ジェノも念じることで言葉を返す。ジェノとガイサは不思議な絆で繋がれており、念話が可能になっていた。


 肩書きについては元々のガイサの呼び名である装甲魔人では悪役のイメージが強いし、武神だととんでもなく大仰であるということで装甲武人となった。ジェノガイサの部分は単にジェノとガイサを繋げただけではあるが、相談に乗っていたスプリも満足のいく名前となった。スプリの言葉を借りるならば


「ちゃんとヒーローっぽい名前になってる」


 である。


「何故、何故平然と立って・・・いるんですの!?」


 回避出来る状態ではなく防ぐことなど叶わない威力の銀の暴威をあっさりと受け止めていたジェノガイサに対し、フィスタニスは混乱する。一瞬押し付けられたキャラが剥がれ落ちそうになるほどだ。


 ジェノガイサは、ジェノが“装甲”の二つ名を持つ魔人ガイサの鎧を装着した状態である。ただ着ただけという訳ではなく、厳密にはガイサの持つ【合身】のスキルで一体化した状態だ。故に、ガイサの能力は全てそのまま引き継いでいる。今のジェノでは全てを引き出すことは難しいが、ガイサの誇る絶対防御のスキルは鎧そのものに付与されている特性であり、未熟なジェノでも扱うことは出来る。


 そのスキルとは【装甲】という名で、前腕部分は一切の物理的な衝撃を吸収し、手からその威力を解き放つことが出来るというものだ。ガイサが元々持っていた【物理反射】というスキルが“装甲”の二つ名を得た時に加護を受けて進化したものである。その性能は一線級のAランク冒険者を跳ね除けるほどの凄まじさを見せた。


 ジェノガイサは、全てを粉砕するかのような威力で放たれた銀の鞭を前腕の【装甲】で受け止めた上で掴みなおしたのだ。


「まぁいいですわ、どうせ何かしらの小細工、すぐに化けの皮を剥いでやりますわ!」


 理屈は分からなくとも、今現在自身の尾を具現化した多節鞭をしっかりと掴まれているのは事実。しかし生物としての相手の気配や実力等を読みとる機能が丸ごと欠落しているフィスタニスは、力任せに鞭を引いてしまった。先程少し引いた程度ではびくともしなかったとはいえ、己の膂力で全力で引っ張れば離さざるを得ないだろうと。


『やはり短絡的に動くようでござるな。タイミングを誤らぬよう気をつけるでござる』


『ああ、お前のお陰であいつの動きがよく見える。ミスる気がしねぇぜ!』


「がはっ!?」


 しかし、ジェノガイサはフィスタニスが多節鞭を引くのと同時に大地を蹴った。鞭を引く勢いと鎧の持つのスキルにて身体能力が格段に向上しているジェノガイサは、まるで矢のようにフィスタニスへ飛び蹴りを放った。


 ジェノは、ガイサを装着する前では有り得ない程の思考の早さ、相手の動きを全て捉えることの出来る目を手に入れていた。ガイサの持つ【思考加速】と【鷹の目】の効果である。そのスキルの効果でフィスタニスの僅かな動きから次の行動を予測し、絶妙とも言えるタイミングを合わせたのである。


 跳躍だけでなくフィスタニスの膂力すら利用して放たれた深紫の弾丸はフィスタニスが驚愕している間に接近し、その右足がフィスタニスの鳩尾に深々と突き刺さった。ドラゴンであるフィスタニスの身体は人間の姿をとっていても人間とは比べ物にならない程に強靭である。故に貫くことはなかったが、フィスタニスは踏ん張ってしまった為に余計にダメージを負いながら地面を転がり、反動で飛び上がったジェノガイサは

クルリとバク宙を決めて大地へ降り立つ。


「いくぜ、ガイサ反射撃リバスター!」


「ぐぅ、げほっ・・・げぁっ!?」


 鳩尾を押さえながらよろよろと立ち上がろうとしていたフィスタニスに、ジェノガイサはすかさず追撃を仕掛ける。距離を詰めながら腰溜めに構えた右手をまるで刀を抜くように振るう。その手刀はガイサによって爆発的に向上した身体能力にジェノが仕込んでいた身体能力強化の魔法具を使い、更には先程のフィスタニスの放った剛撃の威力をそのまま宿しており、咄嗟に差し出された右腕を砕いてフィスタニスの首筋へと叩き込まれた。


 フィスタニスはあまりの衝撃に堪えることすら出来ずにまるで風車のように二回転半しつつ吹き飛ばされ、頭から地面に着地した。手刀を降りぬいたジェノガイサはやり過ぎたかなとも思いつつも、追撃を止めるつもりは無く倒れ付すフィスタニスに向けて走り出す。


 絵面だけを見れば深い紫の全身鎧を着て顔も見えない不審者が美女に襲い掛かっているという完全にジェノガイサが悪者にしか見えないのだが、ジェノからすればスプリを誘拐したり魔物をけしかけたり、カリウェイリを害したグシェイムと手を組んでいたりと容赦する要素が何一つ無かったのである。いくら相手が美女の姿であろうと、ジェノはそれはそれだと割り切ることにしていたのである。


 それに、ジェノが聞いていた話からすれば全力を出していないであろう内に勝負を付けたかったというのもあった。


「ちぃっ!」


 手足が僅かに動いているフィスタニスに距離を詰めて決着をつけようとしていたジェノガイサは、突如己の眼前に出現した黒い球体に苛立ちの声を上げた。突進の勢いに乗っている状態では避けることも叶わないそれを、ジェノガイサは咄嗟に左腕で受ける。


 その瞬間黒い球体は盛大に爆ぜてジェノガイサの突進を止めた。それどころか、その凄まじい爆発はジェノガイサの身体を押し戻したのである。


『吸収しきれねぇ!?』


『【装甲】は前腕の部分でしか発動しない故、面の攻撃には滅法弱いでござる。しかも中々の威力。今の爆発で表面を覆っていた障壁が三割は削れたでござるよ』


『マジかよ・・・。こっちを舐めてる内に仕留めたかったんだがそうもいかねぇか』


 フィスタニスが放ったと思われる暗黒球の爆発の威力に愕然とするジェノガイサは、足を止めて構える。首や鳩尾を押さえながらゆっくりと立ち上がるフィスタニスの周囲には、まるで衛星のように黒い球体が現れ飛び回り始めた。


「よくもやってくれましたわね・・・この痛み、数十倍にして返して差し上げますわ!」



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