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76話 装甲武人ジェノガイサ


「これで邪魔者はいなくなりましたわね」


「何・・・? ターナ!」


 フィスタニスが攻撃の手を止めて、一仕事終えたように呟く。銀の旋風が止んだことを訝しんだジェノが視線をターナへ向けると、ターナは頭を空いた手で押さえたまま膝を付いて呆然としている。ジェノがターナに駆け寄ると、今度はフィスタニスからの妨害は無かった。


「ターナ、大丈夫か!?」


「う・・・あ・・・」


「ターナがやられるなんて、一体何しやがったんだ」


 駆け寄ったジェノはしゃがみこんで声を掛ける。しかし、目は虚ろで、口からは僅かな呻きばかりが漏れるだけ。そんなターナの様子に、ジェノは怒気を込めた視線をフィスタニスへと向ける。鋭い眼差しを向けられたフィスタニスはやはり動じることもなく平然としている。


「簡単なことですわ。力押しで無力化するのは面倒そうだったから絡めてを用いただけのこと。やっぱり獣らしく簡単にはまってくれましたわ」


 ふふんと小馬鹿にするように鼻を鳴らしながら語る態度に、ジェノの怒りは頂点に達した。


「ターナのこと馬鹿にしやがって。確かに野生の獣そのまんまみてぇなやつだけど、まぁわりかしいい子なんだよ。お前のその根性叩きなおしてやるぜ!」


「ふふ、貴方にそれが出来るかしら?」


 太陽の如く橙に煌く刃の切っ先をフィスタニスに突きつけて自らに気合を入れるように宣言するジェノ。対するフィスタニスは馬鹿にしたような、しかし妖艶さも混じる微笑みを浮かべる。その表情には絶対に負ける筈がないという自信に満ちていた。先程の僅かの攻防で、ジェノの実力は把握していたのだ。


「出来るか出来ないかなんて考えても仕方ねぇ。やるっつったらやるんだよ!」


 技量や身体能力を把握されているとも知らないジェノは、フィスタニスに向けて駆け出した。フィスタニスは手にした銀色の多節鞭を振るい迎撃に出る。


 本来ならばフィスタニス自身が相手にする必要も無く、幹部を何体かぶつけるだけで負けないだろうと考えていた。しかし、スプリとの話し合い(一方的な要求とも言う)によりいくつかのルールが設定されていた。


 そのルールにより、ジフィスタニスは自分自身がジェノと一対一のタイマンを張ることになってしまったのである。それでも、数多の魔物達に姫と呼ばれ、恐れられていたフィスタニスは負ける気等微塵もしなかったのだ。


 フィスタニスにとって、ジェノと戦うことに何の気負いも感慨も無く、降って沸いたただただ面倒なことを処理しているだけに過ぎない。スプリによって募らされた鬱憤を八つ当たりのようにぶつける為に即座に潰すことはしないつもりであったが。


 フィスタニスの細腕によって放たれる銀の鞭はその重量そ速度を存分に乗せてジェノへと幾度と無く放たれる。ジェノはその全てを、両足を踏ん張って力任せに弾いていた。そして、攻撃と攻撃との僅かな隙間に少しずつにじり寄っていく。その歩みは遅くとも、確実に距離を詰めていた。


 かわせば後ろで動くことの出来ないターナに被害が及ぶ可能性もあったし、何より、この鞭がただの鞭でないことをジェノは察知した。根拠は、振るっているはずのフィスタニスの腕と振るわれているはずの多節鞭の動きが噛み合っていないのだ。


 フィスタニスがその手を軽く、僅かに動かしただけで縦横無尽自由自在に蠢くその姿から、純粋な力や力学で動いているのではなくまるで鞭自身がその身を躍らせているようなイメージをジェノは持った。故に、ギリギリのところを回避するか逸らすなりすれば、その銀刃が背後から襲い掛かってくるか最悪巻きついて雁字搦めにされてしまうと判断したのだ。


「ほう・・・」


 ジェノのその予想は正しく、フィスタニスは感心していた。避けた瞬間に絡め取ってやろうという思惑が外され、口からは思わず感嘆の声が漏れる。ジェノのことをただスプリに頼っているだけの威勢の良い雑魚だと考えていたフィスタニスは、予想外に腕の立つ姿に驚いてしまったのだ。


 フィスタニスの振るう鞭は、フィスタニスの本来の姿である銀のドラゴンの尾である。人間の姿をとっている時は本来の自分の姿を元にした武器を具現化することが出来るのだ。自分の尾であるが故、ある程度の操作が可能でドラゴンの膂力によってただ動かして叩き付けただけでも相当な威力となる。


「それならば、これはどうする?」


 フィスタニスが引き戻した多節鞭の持ち手をしっかりと握り、その腕を大きく振りかぶった。人間の姿をとっていて十全ではないにせよその膂力は膨大である。この戦いの中で今この時、初めて解き放つ為の鞭を振るう為の本来の動き。


 それを見たジェノが咄嗟に横へ跳ぶ。着地も体勢も全て考慮しない咄嗟の回避。直後に、ズバァン!という激しい音と共にジェノが先程まで立っていた場所に銀の鞭が視認すら出来ない速度で叩きつけられていた。茂った草は衝撃で吹き飛び、多節鞭の先端は地面にめり込んでいる。


 絶大なパワーによって振るわれた銀の閃光はただ尾の動きだけで振るわれていたこれまでと違い、正に必殺の威力を伴っていた。抜群の強度と再生能力を持つ『太陽の煌き』で生み出された刃であっても正面から受ければジェノの身体と共に粉砕されていただろう。


 丁度先端がジェノの位置に来るように調節されていたおかげでターナがダメージを受けることは無かった。しかしそれを確認する暇すら無く、咄嗟の回避で地面を転がっていたジェノに向けて鞭が追撃とばかりに動き出す。


 それは自在に操れることを止めたのか、地面にめり込んでいた鞭は間の土を蹴散らして最短距離でジェノへと迫った。転がりながらも追撃を認識したジェノはなんとか片手で身体を持ち上げ、そのまま逆立ちをするようにしながらもう一方の手に持った愛剣で鞭を迎え撃つ。


 しかし、体勢も不安定で片腕での迎撃では完全に弾くことは出来ず、防いだもののジェノの身体は再び地面を転がる。そしてその間に、既に銀の多節鞭はフィスタニスの元へ戻り、最大限の威力を発揮する瞬間を待ち構えていた。


 そして、未だ体勢の整わないジェノに向けて再度、銀の閃光が振り下ろされようとする。それは、放たれれば間違いなくジェノを木っ端微塵に吹き飛ばすだろう。ジェノ自身も回避は不可能だと理解していた。万が一にかけて受けるしか無いと。


『ジェノ殿、修復が終了した故、いけるでござる!』


 その時、ジェノの頭に声が響いた。


 絶大なる破壊力を伴って放たれる一筋の閃光。


「武神、装甲!」


 瞬間、ジェノの身体を光が包み込んだ。漆黒にも見える、深い深い紫の光が。


 草と土が盛大に巻き上がった。


「んん・・・?」


 そして銀の鞭を振り下ろしたフィスタニスは、音も手ごたえも一切伝わってこないことを訝しんだ。視界の先を覆うように舞い上がった土埃の中ではジェノが砕け散っている筈なのに、異常な事態に漠然とした何かがフィスタニスの胸中に沸いてくる。


 多節鞭を引き戻そうにも、何故だか動かない。フィスタニスは何が起きているのか分からないまま、呆然と佇んでいた。そして、砂埃が薄れてくると、そこには人影が見えた。


「まさか!? 回避のしようがなかったはず!」


 ジェノのいた周囲を覆っていた細かい砂が消えると、黒と見紛う程の深い紫色の全身鎧に身を包み、片手で銀の鞭を掴んでいるジェノの姿だった。


 そして、腰を落とし、腕を振りながら高らかに叫ぶ。


「装甲武人、ジェノガイサ!!」



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