74話 キャラ作り(強制)
久しぶりの主人公。何をやっていたかが明かされます
「ご馳走様でした。美味かったよ。あ、これ下げといてね」
塩を振った肉を焼いただけのワイルドな料理だったが、中々美味かった。たまにはこういうのもいいもんだ。ていうか、普通の牛肉があるんなら最初から出せばいいのに。そしたらチーターみたいなのが顔面を床にめり込ませることもなかっただろうに。
俺は今、吸血ワラジ虫とかいうこの世界のえげつない虫料理を出された後に提供された牛肉のステーキを食べて満足していた。ここの奴らは肉は生で食べるワイルドな連中がほとんどだそうだが、例外として人と同じような食べ物を好む奴も中にはいるらしくそいつの分をわけてもらった形になる。フィスタニスはあの見た目で生肉派だそうだ。
「かしこまりました」
真っ黒い毛皮に覆われた二つの犬の頭を持つ男が手早く食器をまとめていく。こいつはフィスタニスの部下で切り込み隊長を勤める程の猛者で、他の幹部達から俺のお世話係を押し付けられた。多分俺の近くが一番危険な場所だと判断されたんだろうな。
当然嫌がってはいたものの他全員の熱い推薦があっては切り込み隊長ともあろう者が逃げる訳にもいかず、キビキビと働いていた。単純にお世話するのにやりやすい人型で知性のあるモンスターが少ないっていうのもあるみたいだけど。
そんな風にもてなされ、寝てる間に襲い掛かってきたフィスタニスを返り討ちにしたりしつつ一日が経過した。
「フィスタニス、なんかデザートが欲しいから森で探してきてくれ」
お世話係のオルトロス男の作った男の料理を平らげた後、俺に呼びつけられて食事が終わるのを待っていたフィスタニスに唐突にそう告げた。突然のことにフィスタニスは「はぁ?」と言いたげな顔をしている。しかし冗談のつもりじゃないのでもう一度言葉にしてやる。
「森で果物とか探してきてくれると嬉しいなぁ」
「くっ・・・、わかりました!」
言いながら腕に嵌ってるリングに力を込めると、ピキッという音と共に金属のような不思議な質感のリングにヒビが入った。あと少しでも力を込めれば粉々に砕け散るだろう。
俺の腕に嵌ってるこれはどうやらスキルを封じる貴重な物らしい。フィスタニスはこれを俺につけて勝ち誇ってた訳だけど、結局身体能力だけで圧倒してしまった。ということはスキルが開放されれば更に手がつけられなくなる。それを認識した瞬間、フィスタニスは非常に元気な声で返事をし、空間に丸い穴が現れた。
それは、フィスタニスの空間を操るスキルで出現させたゲートだ。きっとこれを潜れば森の中に瞬時に行けるに違いない。けど、それじゃあ意味が無いってものだ。
「あ、ゲートは果物見つけた時だけ使ってね。それに放り込んで直送でよろしく。移動は立派な脚があるんだから大丈夫さ。ほら、駆け足!」
「はい、只今ぁ!」
条件を加えてパンと手を叩けば、フィスタニスは今度こそ部屋から飛び出していった。半ばやけくそに見えたけど、今まで自分が最強だと思ってたのにこの扱いじゃそれも仕方ないだろうな。
なんで俺がフィスタニスをいじめて遊んでるのかと言うと、なんてことなくただの罰だ。別に無茶な要求をするでもなく、大人しく囚われのヒロインを楽しもうと思ってる俺に対して寝込みを襲ってきたんだからこれくらいは自業自得。
部屋に入るまでもなく気付いたから地中を掘り進んで部屋の真横で待機してたモグラ幹部を壁の中に腕を突っ込んで確保して、それをそのまま扉の向こうで合図を出そうとしたフィスタニスに扉ごと叩きつけてやっただけで全員ひれ伏したけどな。ちなみにこの襲撃はフィスタニス主導ということでフィスタニスだけを散々いじり倒してやるつもりだ。
決して暇だからやってる訳じゃない。ホントダヨ。
そうこうしてる内に送り込まれてきた果物をかじりながらフィスタニスの帰りを待つ。帰って来たフィスタニスの瞳には怒りが燻っているが、俺には敵わないのが分かってるからか何も言わない。言わないけど、ただひたすらに不満そうだ。言わなくても意味が無いんじゃないかと思うくらい分かりやすい。
「フィスタニス、ちょっとイメチェンしようか」
「え?」
「まぁまぁ、いいからいいから。そのまま動かないように」
困惑するフィスタニスを椅子に座らせたまま、動かないよう言い聞かせる。そうして背後に周って手に取ったのは、地面に付くかつかないかというくらいに長くて綺麗な銀色の髪。せっかく姫とか呼ばれてて髪も長いんだし、そのまま重力に任せるのも面白くない。いや、確かにこのままでも美人なんだけどね。
「よし、出来た!」
慣れない作業に悪戦苦闘することしばらく、二本の立派な縦ロールが出来上がった!
とは言っても、せっかくだしサクッと腕輪を破壊して得たスキル【伸縮自在】を使って髪の毛をさらに伸ばして体の後ろに巨大なクロワッサンが二つあるかのような巨大な縦ロールを作り上げた。前髪やもみ上げは普通に流して、後ろの髪だけを纏めて二房に分けてそれをロールさせた感じだな。
ちなみに【伸縮自在】は好きな物を伸ばしたり縮めたり出来るスキルだ。他に使う予定も無いしそもそも何に使うのか不明だ。あくまで長さを伸ばすだけだから既に無いものは伸ばせない。だからハゲには使えない。しかも少し伸ばすのにもかなりの魔力を使った気がする。まぁ俺の魔力量からすれば全く大したこと無いけどね。
立派なロールは優雅さや気品を存分に醸し出している。フィスタニスが美人なのもあるし、やっぱり姫なんて呼ばれてただけのことはあるな。
「うんうん、よく似合ってるな」
「髪型がすごいことに・・・」
「せっかくだし言葉遣いもお姫様っぽく頼む。オーホッホッホ、とか、そんな感じで」
「どうして私がそんなことしないといけないのかしら?」
「ふーん?」
「仕方がないわね、ワタクシの華麗な言葉遣いを見せ付けてさしあげますわ、オーホッホッホ!」
「うんうん、そんな感じ」
ついでだしなんとなく思いついた言葉遣いをお願いしてみた。フィスタニスはやっぱり嫌そうな顔をしたから、既にスキル封じから開放された俺は手のひらに輝く球体を生み出した。よく見ると渦巻いていて、莫大な魔力が込められているのがきっと分かるだろうし、少なくとも攻撃手段以外には見えないだろう。
これは【爆殺光線】によって作り出した光球だ。これが当たれば爆発する。フィスタニスもその危険性を察知したのか、それとも脅威は分からなくても碌にはならないことを察したか、見事なお嬢様っぷりを見せてくれた。これには俺も大満足だ。
「それでスプリさん、いつまでここにいらっしゃるのかしら?」
「迎えが来るまでかな。っていうか連れて来たのはそっちだろうに」
お仕置きが怖いのか口調はそのままに、いつ帰るのか聞いてくる。これ絶対早く帰れって言ってるよな。ため息交じりに告げると、フィスタニスは怯えながらもどこか残念そうな顔をしている。
「残念ながら迎え等来ませんわよ。貴女と一緒にいた者は始末しましたし、ワタクシ達の情報が漏れることなど有り得ませんわ」
迎えが来ないと告げる姿がどこか残念そうなのは、俺を引き取りに来るやつがいないと思ってのことか。
なんてやつだ。
「いやいや、俺の相棒は必ず来るよ。なんてったって俺の相棒だからな」
「まさかその方は貴女と同じくらい強いと言うのかしら?」
「それこそまさかだ」
「それを聞いて安心しましたわ」
フィスタニスは突如思いついた予想に顔を恐怖で満たしていく。横で聞いてたオルトロス男も引きつった顔をしている。けど流石にそれは無い。二人も、心底ほっとしたように息を吐いた。
「けど問題ない。なんなら賭けてもいい。三日迎えが来ないか、迎えが来てもお前達に負けたら俺は何もせずに出て行く」
「そもそも賭け等する必要が無いでしょ?」
賭けの提案と、俺が負けた場合のことを告げていく。途中でキャラも忘れてフィスタニスが噛み付いた。それはそうだ、勝ったっていうのに得るものが無いように思える条件だからな。けど、それは次の一言で間違いだって分かるはずだ。
「じゃあ今すぐ全滅するか?」
「・・・」
返って来たのは沈黙。俺がその気になれば問答無用でぶち殺せる訳だから、その命を保障するっていうのは十分なメリットのはず。なんてひどい条件だろうね。
「その代わり、俺の相棒が勝ったら」
「勝ったら・・・?」
途中で言葉を切ると、フィスタニスは不機嫌なのを隠すつもりもなく全身から発している。賭けに負ける気が全くしないから面倒になってきたんだろうな。それでも聞くだけ聞いてさっさと成立させて追い出したいのがひしひしと伝わってくる。
「相棒の仲間になってもらう。もちろん、相棒のことを慕ってる体で」
「・・・分かりましたわ。どうせ、拒否権などないのですからお受けしましょう」
「よし、じゃあ成立だな」
「その代わり、きちんと約束は守ってもらいますわよ」
「分かってるって。あ、ゲートでちょん切るのは無しで」
「・・・」
フィスタニスと戦った時に、場所を移そうと言われて素直にゲートに入ったら途中で閉じられて下半身だけフィスタニスのところに転移し、俺の上半身は牢屋に残された。でもまぁ普通に生きてたし、すぐに下半身も生えてきたからフィスタニスのところにダッシュで向かったわけだ。
ちぎれた下半身の場所はなんとなく分かったからそこに行ったらフィスタニスと、下半身から上半身の生えた俺がいて、俺(元上半身)と俺(下半身)でぼっこぼこにした。なんか爽やかに握手したら一人になってた。
って感じで俺の強靭な肉体すら切断したからそれは禁止にさせてもらおう。多分他の人じゃ詰んでしまう。
「あと、しばらく口調と髪そのままね」
「なんてことですの!」
俺の宣告にもはや若干適当になりつつあるお嬢様言葉が部屋に響いた。もちろん仲間になった後もずっとそのままにしてもらう予定だ。今のパーティにはお嬢様っぽいのが足りないからな。
そして、森の中を真っ直ぐこの場所へ走ってくる集団を察知したとの連絡が入ったのはこのすぐ後のことだった。