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60話 梟急を告げる

これから水曜日と日曜日は更新をお休みします。

水曜日は新作「あらゆる能力を付与した武器を創造出来るスキルもらった~他は全てがゴミのただの雑魚~」を週一で更新します。1話が載っているので良ければそちらも読んでみてください


日曜日は余裕があればどちらかを更新します


 既に危険の無いことを悟っているのかコウロの街へと飛んでいく田吾作を尻目に、リアクース達は襲い掛かってきていたはずの盗賊団の姿が無いことに気がついて慌てて馬を走らせた。そして、地面が黒く抉れている黒い球体が爆ぜたであろう地点を迂回しながら、壁で視界が遮られるまでスプリ達のいた場所へとたどり着く。二人は馬を下りて地面を調べる。


「そんなに時間は経ってないはずです。まさか見失うなんて・・・」


 そう、体感的には長く感じられてはいたが、爆発が続いたのはせいぜい十秒程だった。周りには盗賊団が出てきた場所も含めて小さな森がいくつかはあるが、それだけの時間で隠れられるような場所は辺りには存在していないのだ。足跡等の痕跡もぱったりと途絶えてしまっている。


「誰かがスプリちゃんの隣に現れた時に、まるで空間に穴が空いたかのように出てきたのが見えたの。そのスキルを使って逃げたのかもしれないわ」


「空間を操るスキルですか・・・厄介ですね」


 弓を武器として使うリアクースは、それに相応しいスキルとして視力を強化するスキルを持っていた。そのスキルのおかげで女が突然現れ、そして消えた謎に感づくことが出来た。


「おーい!すっごい爆発があったみたいけど大丈夫?スプリちゃんは?」


 スプリを攫った存在の能力に見当がついて顔を顰める二人の後ろからここまで来るのに使った馬車が猛烈な速度で駆けてきていた。そして馬車が近づくと、荷台の上で手を振っていたレルカが飛び降りて慣性でずささささと地面を削りながら二人の前へと到着する。


「それが、スプリちゃんが攫われてしまったの」


「ええー!?大変じゃん!どうしよう!?」


「落ち着いてください。どうやら相手は空間を移動するスキルを持っているようで、痕跡もこの地点でぱったりと途絶えています。スプリさんが碌に抵抗も出来ずに捕まったのを考えると、私達だけでは対処できない可能性も高いです。ここは一旦退きましょう」


「うーん・・・」


 リアクースが簡潔明瞭に伝えると、レルカが大声を上げて驚き、それをリクルースが窘める。そして、冷静に分析と判断を告げ、撤退を提案する。レルカは微妙に眉を顰めるが、反対まではしない。


 スプリがあっさりと連れ去られたという事実と、先程の攻撃の威力、そしてどこへ行ったか全く手がかりの無い状況では仕方の無い判断だった。レルカもその辺りは理解できてはいるが、どうしても仲間を置いていくという行為に対する忌避感と、直接対峙していないという事実が素直に頷かせてはくれなかった。


「そうね、それが良いと思うわ。けれど、もし近くに潜んでいたらこのまま逃がしてしまうことにもなりかねないわ。多分スプリちゃんの居場所を追えなくはないでしょうけど、確実じゃないから」


「むー、私は残ってこの辺りを調べたい。ダメかな?」


 リアクースも、同意しつつも煮え切らないといった雰囲気だ。それを聞いたレルカは、自分が一人残ることを提案した。レンジャーとしての技能を鍛えた自分なら情報収集や隠密行動は得意分野、それならリアクース達が報せに戻っている間探索を続けようという考えだ。


「しかし・・・」


「危ないことはしないから!」


「それならクードを一緒に付けるわ。それならいいでしょう?」


「わかりました、ではそれでいきましょう」


 レルカの提案に対してリクルースはすぐに頷けない。近くには盗賊団やあの女が潜んでいるかもしれない上に、これから夜がやってくるのだ。一人で残ることは明らかに危険だった。しかし、リアクースが援護とばかりにクードを同行させるという提案をした。ここまで整えばリクルースもこれ以上無理に引き止めるつもりは無かったらしく、レルカが残ることに同意した。


「では急ぎましょう。レルカさん、気をつけてくださいね」


「もちろん。スプリちゃんはきっと無事だろうし私が怪我なんてしたら笑われちゃうよ」


「そうね、じゃあまた後で会いましょう」


 三人は微笑みを交わしつつそれぞれの進路を取る。リアクースとリクルースは馬車と共に全速力でコウロへ。レルカはリアクースに借りた馬でクードを伴って近くの森へ。スプリの規格外の強さを信じてるせいか、その誰もが焦りや絶望といった感情を抱いてはいなかった。









「はぁー、寝てるだけっつうのも退屈だな。誰か見舞いにでも来てくれりゃあいいんだが・・・依頼だったなそういえば・・・んー、つつつ」


 寝てばかりで固まりつつある身体を伸びをすることで少しでも解そうとし、筋肉のいたる所から痛みが走って力を抜いてがくっと項垂れる。ジェノは魔人ガイサとの戦いで無茶をしすぎたせいで全身の筋肉が断裂し、治療の為に小さな治療院で三日の安静を言い渡されていた。


 回復魔法を連続で掛け続ければ5時間程で完治するのだが、治療院でそれを行うとなると費用が嵩んでしまう。お金が無いわけでもなかったが、ガイサとの戦いでほぼ全ての魔道具を使い切ったおかげでこれから旅立つことを考えるとそこまで余裕も無かった。故に、ジェノは休養も兼ねて時間がかかっても安い治療で済ますことにしたのだった。


 ジェノはお見舞いに期待できないことを思い出して退屈感に苛まれる。時刻は夕方四時半を過ぎた辺り。ジェノの母親は昼頃に姿を見せたし、リアクース、リクルース、レルカは依頼で隣の領地に出かけていて戻るのは早くても七時は過ぎる。コノミはジェノにあまりなついていない。


 ジェノが思いつくお見舞いに来てくれそうな人物は、これだけだった。ジェノはこれまでの人生を自らを鍛える為の修行と、旅立つ為の資金集めに母親の元でのバイトに明け暮れていた。その為ある程度仲の良い

知り合いですら、ここ数日で知り合った数人しかいなかったのだ。


「ああー、退屈すぎてやばい・・・ん?」


 自分で選んだ道故に知り合いや友達がほとんどいないことをジェノは嘆いたりしない。しかし、退屈なものは退屈だった。おそらくここ数日は特に濃密な時間を過ごしたせいもあるだろう。未だ全身に痛みが奔るせいで転がることすら満足に出来ず、独り言で退屈を紛らわせていると、何かが窓を叩く音がした。


 この世界にガラスはあるが高級品である為、貴族の屋敷くらいでしか使われていない。大体の窓というのは壁に空いた穴のことで、ジェノのいる部屋も同じで今は木の板がはめこんであった。その木の板を何かが叩いているのか、コンコンと音が続く。


「何だ一体。っつ、まだ歩くと全身に響くな。・・・田吾作?」


「タゴ」


 ジェノが痛みに顔を顰めつつも窓にはまった板を取り外すと、窓の外には夕日を斜め後ろから受けてキラキラと輝くミミズクが鎖のついた宝石と指輪を足で摘んで浮いていた。名前を呼ばれたミミズク、田吾作はそのまま部屋に入ってくると目線の高さでまた空中で静止した。


「届けにきてくれたのか?」


「タゴ」


 ジェノが意図を汲み取って手のひらを差し出すと、田吾作はその上にガイサの宝石とジェノがスプリに預けていた指輪をそっと落とした。届けに来たのはジェノにも理解出来たが、何故そうしたのかジェノは考えた。


 確かに指輪は返してもらうのを忘れていたし、ガイサも預けてはいた。しかしどうせ依頼が終われば帰ってくるのだからその時でも良いはずだ。ジェノは今入院していて動く予定も無いのだから。だがわざわざ向こうにいる間に田吾作に届けさせたということは、帰ることが出来なくなったか、ジェノが動く必要が出来たか、はたまたその両方か。


 ジェノは、そう考えてガイサの宝石についている鎖を自分の首にかけ、指輪を嵌めた。そして田吾作へと視線を戻した。


「つまり、スプリ達に何かあったってことだな?」


「タゴ!」


 一際強く鳴く田吾作。それを見てジェノは確信した。スプリが自分に助けを求めていると。何があったかは分からないが、早いにこしたことはない。ジェノはいつもの軽装ではあるが冒険者然とした装備を身に纏い、支度を終える。


「よっしゃあ、行くぞ田吾作!」


 全身の筋肉は未だ悲鳴を上げているが、ジェノにとって些細なことでしかなかった。


 こうしてジェノはギルドへとやって来た。そこで田吾作がスプリの荷物を届けに来たことを職員に伝えるも、反応は芳しくない。言葉を喋れない田吾作しか状況を知るものがおらず、ギルドとしては推測だけでは動きようがなかったのだ。


「だー!だから、オレの従魔のスプリに何かあったから、こいつがわざわざ荷物を預かってきたんだって。な、田吾作!?」


「タゴ!」


 ジェノは何度も繰り返した説明をもう一度伝え、更に田吾作に同意を求める。田吾作は大きく何度も頷きながら力強く鳴くが、受付嬢は苦笑いでこちらも何度もした説明を繰り返す。


「ですから、それだけではこちらとしましても判断しかねますので・・・」


「スプリになんかあったってのは相当やばいことが起きてるってことなんだよ。あいつはAランク冒険者と一緒に魔人ガイサとも戦えるくらい強ぇんだぜ?」


「はぁ、そうは言われましても・・・」


 つい一昨日のことを話しながら説得を試みるが、やはり状況は良くない。スプリについて色々と情報を持ってはいても、Aランク冒険者と肩を並べて戦ったというより、Aランク冒険者のフォローがあったからなんとか戦ってただけなのでは? と考える者も多かったのだ。


「だぁもう、とにかく伝えたからな!ギルドマスターにもちゃんと伝えといてくれよ、何が起きるかわかんねぇから!」


 それだけ言い残すとジェノはギルドの建物を飛び出した。このやり取りで一件ジェノは妄想に取り付かれて助力を求めに来た様に見える。実際、対応した受付嬢や見ていた何人かはやれやれといった雰囲気で苦笑している。


 しかし、ジェノにそんなつもりは一切無かった。ジェノは、スプリを攫うことが出来る連中がただの密猟者、もしくは人攫いだとは思えなかったのだ。それ故に、何か大きなことが起きると予想してギルドに報せに走っただけだった。


 ギルドの対応に大した手ごたえを感じなかったジェノが次に向かうのは、カリウェイの館だった。ジェノとスプリがつけている指輪には特殊な効果が付与してあり、それは契約による繋がりをより強くするというものだ。そのおかげで大体の位置は分かる。だから慌てることなく、迫っているかもしれない脅威を警告しておくことを優先したのだ。


 ジェノは全身の筋肉に奔る鋭い痛みを歯を食いしばって堪えながら、貴族街へ向けて駆ける。




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