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58話 貴族からの依頼


 俺がランクアップ試験の合否を聞きに行ったり田吾作を召喚したり、はたまた焼きおにぎりに遭遇したり装備を作ったりと充実した一日を送った次の日。俺は田吾作を頭に乗せてギルドのコウロ支部へとやってきた。服装は昨日作った新しい装備だ。さっそく着てみたかったしな。


 そしてコノミはいない。今日は依頼の詳細ということで退屈な話が続くだろうから留守番してもらった。着いてきたそうにしてたけど、終わったらまた街をブラブラしたりする約束をしたら渋々ながら頷いてくれた。まぁ田吾作は連れてきたから退屈だろうしな。また屋台でも巡ろう。金ならある。


 いつも通り受付嬢のお姉さんに事情を話すと、会議室のようなところへ案内された。そこには既にリアクースとリクルース、二人の従魔のクードとアルクス、そして何故かレルカがいた。


「二人とも早いな。クードとアルクスも。って、どうしてレルカが?」


「スプリちゃん、こんにちは」


「どうも」


「ヴォウ!」


「クエッ」


「やっほー!色々あってね!田吾作くんもやっほ」


「ピュイッ」


「スプリちゃん、実はね」


 二人とそれぞれのパートナーに挨拶すると、それぞれが挨拶を返してくれた。何故かいるレルカに視線を向けると、笑顔で適当に返された。そこでリアクースが教えてくれたところによると、ガイサ討伐依頼でクードと共に戦ったレルカは、クードとその主人であるリアクースを気に入ってパーティーを組むことにしたらしい。


 それで、元々Cランクであることとガイサの討伐にも参加していたことからレルカも、リアクースのパーティーメンバーということで同行の許可が下りたようだ。


 前にも言ったかもしれないけど、レルカは犬の耳が生えた美女。見た目十代半ばに見えるぐらいわんぱくそうだけど二十前半らしい。種族はケモミミ族の中の犬族。


 この世界では獣人というのは動物が二足歩行してる状態の種族のことをそう呼ぶんだそうだ。例えば見た目完全にパンダであるAランク冒険者テッペは獣人の熊族なんだとか。レルカのように動物の耳や尻尾だけ生えて他は人間と変わらない種族をケモミミ族と呼び、耳の形状で○○族と分けるんだとか。レルカならケモミミ族の犬族といった風に。ややこしい。


「さっきから気になってたんだけど、その頭の上の子はどうしたの?」


 レルカがクードにじゃれ付き始めたのを眺めながらケモミミって良いよななんて思ってると、リアクースが俺の少し上の辺りを見ながら尋ねてきた。口には出さないけどリクルースも興味津々な様子でチラチラ見てる。レルカはもう昨日紹介してあったからクードとじゃれあってる。


「ああ、この子は田吾作。俺も従魔が欲しくなって昨日、あの後に召喚したんだ。可愛いだろ」


 田吾作を紹介すると、ついつい自慢げな口調になってしまった。表情もドヤ顔になってるに違いない。でも実際可愛いからしかたないよね。


「ええ、とっても綺麗ね」


「はい、僕もそう思います」


 エルフの姉妹は素直に田吾作を褒めてくれる。うんうん、わかってくれて嬉しいよ。


「ありがとう。よし、田吾作、クードとアルクスにも挨拶しておいで」


「タゴ」


 田吾作は短く鳴くと、クードとアルクスの方へと音も無く飛んでいった。クードとアルクスは生物的な本能からか少し怯えているようだったけど、しばらくしたら慣れたのか、静かに挨拶を交わしていた。レルカはクードが構ってくれなくなったのでリアクースにじゃれ付き始めた。犬か。


 なんて他愛ない話をしていると、扉が開いてギルド職員で試験官としてお世話になったスカルダがいつも通りの強面で部屋に入ってきた。後ろには黒い髪の男が続いて入ってきた。


 その男は小さな眼鏡をかけていて、顔ははっきり分かるくらいやせている。多分三十くらいか。しかし身体は顔と不釣合いにごつい鎧を着ている。着てるというよりは着られてるって感じの印象だけど。その鎧は模様や彫りが立派だから多分騎士なんだろうな。てことはやっぱり依頼は貴族絡みか。


 スカルダは部屋の隅の入り口からまっすぐ進んで壁際の真ん中辺りに来ると口を開いた。


「よく来てくれたな。では早速だが依頼についての詳しい説明をしていただく。どうぞ」


 スカルダが簡潔に話してから痩せた男に続きを促して数歩下がると、痩せた男は先程までスカルダがいた位置へ移動してこちらを見た。


「えー、私はリグシェイム・ポーツタフ様に使える護衛騎士団団長、ヘキサです。今日はみんなに依頼があって来ました」


 ヘキサと名乗った男の語った内容はこうだ。


 コウロの街の領主であるカリウェイの弟の息子、つまり甥にあたるリグシェイムという名の貴族の領地に盗賊団が現れるようになったという。しかし、今は重要な用件でリグシェイムと共に主力の騎士団はこの街に滞在していてしばらくは離れることが出来ない。しかもその盗賊は厄介なことにテイマーを何人か抱えているらしく、モンスターに対しては冒険者の方が慣れているというのもあって依頼したそうだ。


 規模は三十人程と、従魔が三匹だそうだ。依頼の難度はCランクで、同じランクの依頼なら複数人ならほぼ安全だとリアクースが教えてくれた。報酬も悪くない。


 ただ、出発は早い方がいいそうで準備をして今日これからになるそうだ。領地の場所はこの街からあまり離れていなくて、馬車で3時間くらい西に走った辺りはもうリグシェイムの領地らしい。。領主はこの街の西側は少しだけ残して弟に譲ったんだとか。最前線だからとか辺境だからだとか色々あるらしいね。


 まぁそのくらいならぱぱっと見つければ今日中には帰れるだろうしいっか。後でコノミには謝らないとだけど。というわけで俺はこの依頼を受けることにした。領主の甥っこなら無碍にも出来ないしな。


 リアクースもリクルースも受けることにしたらしく、もちろんレルカも着いて来る。それと全員がすぐに行動出来るよう準備してきたらしく、ほんとに今すぐの出発となった。










 そうしてリグシェイムの領地に馬車に乗ってやって来た。時刻は4時くらいで、太陽は沈み始めて赤くなっている。


 行商人に偽装して盗賊が仕掛けて来やすくする為に、商人がよく使う荷馬車の中に乗り込んでいた。おかげで振動がダイレクトに伝わってきてケツが痛い。レルカはクードのお腹を枕にして平然と寝ていた。


 リアクースとリクルースは護衛という体で馬に乗って馬車と並走している。ちなみに御者と馬車、馬は依頼主提供の物だ。


 点在する森に拠点を作っているということで不自然にならないぎりぎりを狙って通過した。そのまま何個目かの森を横切ろうとしていた時、クードの上に止まっていた田吾作が急にある方向を向いた。それと同時にリアクースの声が辺りに響く。


「盗賊が出たわ!数は三十弱、馬に乗ってこっちに来るわ!」


「よし来た!」


 返事をしながら後部に空いた布の隙間から外へと飛び出す。馬車は既にスピードを緩めてたおかげで難なく着地出来た。盗賊が出たら馬車を止めて全力で迎え撃つという作戦を伝えてあったお陰だな。


 森の方へ目を向けると、確かに馬に乗った人相の悪いやつらが武器をかかげながらこっちへ向かってくる。ヒャッハーとか聞こえてくる辺り、大分テンションが高い。護衛は女二人だし余裕に見えたんだろう。だけど俺もいるし、遅れて出てきたレルカ、クード、アルクスもいる。いざとなれば頭の上に着地した田吾作もいるしな。


「【融合躍進】!!」


「あっ、スプリちゃん待って!」


 待ってるだけっていうのもあれだから早速スキルを使って駆け出す。リアクースの声が聞こえるけど気にしない。走る俺に空を翔る龍が一体化し、水の渦が湧き上がる。そして弾けたかと思えばまるで龍と一体化したかのような美少女が姿を現すわけだ!新しい装備でのこのスキルは初めてだからどんな見た目かじっくり眺めたいんだけど、今はそんなことも言ってられない。


 パラメータが格段にアップしたおかげで盗賊との距離がグングン縮まり、あっという間に残り100m程でしかなかった。立ち止まってからとりあえず水で全員押し流すかと思った瞬間、腕に変な感触があった。

カチャリ、と冷たい何かが腕にはまる感触。


「ん?」


 思わず確認しようと思って腕を上げたら、更に不思議なことになっていた。元の袖、普通の腕に戻っていた。何故だか【身体変容】が解除されていたようだ。しかも身体に力が漲ってる。何事かと思ったら、背後に気配を感じた。


「ふふふ、貴女は全てのスキルを封じられた。大人しくしていれば痛い目を見ずに済むから、一緒に来てもらえるかしら?」


 振り返ると、妖艶な美人がそこにいた。長くて美しい銀髪の中に垂れる一房の紫色の束。目は細く切れ長で、肌も白く、唇は赤い。身体も抜群のプロポーションで、正にボンッキュッボンッ!胸を強調するような漆黒のドレスがその破壊力を倍増させている。


 そして俺は察した。この女の狙いは俺。【身体変容】が解けたのはこの女が言ったようにスキルを封じられたせいだろう。なんだけど、ついでに【弱体化】も封じられたみたいで体中に“ムゲン”としての力も漲ってる。この謎の腕輪が豆腐よりも脆く見える。


 さてどうするか。盗賊達はまるで誰かをふんじばる為に使うようなロープも掲げてるからきっとこの女とグルなんだろうし、このまま突っ立ってたら連れて行かれてしまうだろう。そうなるとこの依頼自体が罠の可能性が高いな。狙いは俺を拉致する為。まぁ美少女だし、龍神の加護をもらってる(ことになってる)し、色々珍しいのは間違いないからな。


「田吾作、これをジェノに渡してくれ!」


「クー」


 とりあえず今にも盗賊達どころか目の前の美女すら始末しかねない田吾作の気を逸らすために、返し損ねてたガイサの宝石とジェノの指輪をごくごく軽く空中に放る。田吾作は俺の意図を汲み取ってくれたらしく、大人しく宝石と指輪をキャッチして空中を旋回している。


 そしてやって来た盗賊達に縄で手足を縛られる俺。


「賢くて助かるわ。けれど、あの子達にはお仕置きが必要ね」


「これは罠だ!逃げろ!」


 目の前の美女は妖しく笑うと、慌てて馬を走らせてこちらへ駆けてくるリアクースとリクルースに向けて手を翳す。思わず叫ぶのと、美女の手のひらから無数の黒い球体が放たれるのは同時だった。


「田吾作!」


 黒い球体はリアクース達の方へ不規則な軌道で飛んで行き、迎撃しようとする二人の攻撃をかわして接近すると大爆発を起こした。二人の姿が爆炎で見えなくなる。


「ふふ、それじゃあ、行きましょう」


 俺は腕と脚を縛られた状態で美女にお姫様抱っこされる。ショックでがっくりと項垂れてしまう。・・・フリをする。全く落ち込んでないどころか、肘が美女の豊満なおっぱいに当たってむしろ天国だ。


 田吾作なら多分上手く撃ち落してくれてるだろうし、至近距離じゃなければあの二人ならきちんと防ぐだろ。正直こんな縄や変な腕輪なんて簡単に引きちぎれるけど、俺はあえてそれをせずに捕まることにした。


 理由は極々単純。連れ去られるのって、すごくヒロインって感じだろ!? 後はジェノが助けに来てくれるのを気長に待つとしよう。




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