57話 ついでに自分の装備も作ろう
俺達は龍神の祠のある広場にいた。お店を周って集めた素材で装備作りに励んでいるところで、コノミの装備を作り終わったところだ。
「これはどうやって使うのかの?」
「銃って言って、弾に魔力を込めて、入れて、こうして引き金を引くと」
メイン武器である杖から次はサブウエポンの銃に興味を移したコノミに、実演してみせることにした。弾丸の先端に埋め込まれてるダイヤに親指をつけて魔力を込める。すると、その魔力はダイヤに吸い込まれていった。そしてその弾丸を、銃身の真ん中から折って中にはめ込んで、腕を振った勢いでカシャンと元の状態に戻す。
ちなみに反動で銃身を閉じたのは趣味だ。こっちの方がかっこいいだろ?
そして適当に前方に向けて引き金を引く。ボッっという音と共にピンポン玉くらいの魔力弾が発射され、見えない壁にぶつかって弾けとんだ。反動はそんなに強くないけど、銃が軽く跳ね上がるくらいはあった。完全に消し去ることも可能だったけど、やっぱり銃って反動あってこそのかっこよさだと思うんだ。
「おー!すごいの!」
「うん、中々の威力みたいだな」
あっけなく消滅したように見えた魔力弾だったけど、この広場に張られている結界はビィィィンという揺れるような音を響かせていた。つまりはそれなりの威力があるんだと思う。ここには木とかは生えてないから威力を確かめるいい的が無い。弾かれるだろうけど祠を撃つのもあれだし。
「我も!我もやりたい!」
「この弾一つで20発撃てるからな。あ、一応サブウエポンだからあくまで何かあった時に使う武器だってことを忘れるなよ」
「わかっておる!」
まるで子供のように飛び跳ねながらやらせてとねだる姿に思わず笑ってしまう。可愛い。コノミの為に作った物だし渡すのは問題ないんだけどな。杖より気に入ってしまわないか問題だ。
とりあえず、銃と弾丸を差し込めるホルスターを作っておかないといけない。動物の革を出してさくっと作った。二重のベルト式で、右側に銃、左側に弾丸を差し込めるようになっている。
さて、次は俺の分の装備を作らないといけない。正直無くてもいいんだけど、せっかくお小遣いもらったんだしこの機会に衣装を一新するのもいいだろう。けど、今の服装も割と気に入ってる。可愛いし、ショートパンツとニーハイで絶対領域が形成されてたり、肩が出てたり、手袋も中二心をくすぐられて良い。
それに、新しい装備をするにしても、腕や脚が出てないと【融合躍進】を使った時に困ってしまう。あくまで身体の一部を変容させるスキルだから服は変わらないし、突き破ってしまう可能性もある。しばらく何着か買った服を着ながら悩んでいると、とある新発見があった。
俺の今着てる服は“ムゲン”としての皮膚みたいなもので脱げない。その代わり上から服を着ると見えなくなる。んだけど、なんと変更することが出来た。方法は簡単、服等を着た状態で取り込んでしまえばいい。取り込むといっても意識するだけでいい。そうすることで元の服や取り込んだ服に一瞬で着替えることが出来た。
発見出来たのは、別の服を着た状態で元の服に着替えようと思った時に「脱ぐの面倒だなぁ、いっそ一瞬で元の服にならないかな」と意識したところ、脱ぐ動作をすることなく元の服装になったからだ。じゃあさっきの服にはなれるのかなと試してみたら、なれた。その代わり、最初の服と同じで張り付いたように脱ぐことは出来なくなっていた。
どうやら元の服で上書きした場合も取り込めるけど、取り込んだ服は脱ぐことが出来なくなるようだった。
それなら、と服装を変えたまま【身体変容】を使ってみた。すると取り込んだ服も身体の一部とみなされたのか、自在に変化させることが出来た。元の服装の手袋やニーハイの部分だけ龍化してたから、出来るだろうとは思ったら正解だった。
理屈は分からないけどこの能力を使えば、新しい装備の状態でも【融合躍進】を躊躇無く使える。せっかくの龍化がよく分からないとかっこよくないからな。とりあえず元の服装に戻る。ちなみにさっき取り込んだ服はコノミに合わせた白のワンピースだった。
そうなると、露出度というか、基本の形は今の服装をベースに新しい装備を考えよう。ニーハイ、ショートパンツ、肩の露出、長い手袋の形は譲れない。へそくらいは出してもいいな。客観的にその姿を見れないのがすごく残念だけど。
というわけで薄水色の布とシルクと適当な金属を用意して、スキルを発動する。
「【アイテム作成】」
形はそんな感じで、腕と脚のプロテクターはあった方が格好良いよな。あ、でもやっぱり脚は金属プレート付きの膝丈ブーツにしよう。手袋は白で、胸にもプロテクターっと。ショートパンツのベルトに腰布を付けて前だけ全開のロングスカートみたいにしよう!
なんて感じの脳内イメージを練り上げて、装備が完成した。プロテクターは軽い金属を薄く延ばしただけで、見た目の為だけについてる。コスプレ衣装みたいなもんだな。スキルは別に無くてもいいから、【頑丈】と【自動修復】の二つをそれぞれにつけておいた。破れにくく勝手に直るという便利な感じになった。
俺はコノミと違って服を脱ぐ必要が無いから、今の服装の上から新しく出来上がった装備を着込む。そうして出来たのは、白をベースに所々薄水色を織り交ぜた新装備だ。ちなみに腰布は薄水色の布で出来ている。へそも出てるし、いい感じだな。
元の衣装に戻れと念じると、一瞬で着替えが完了した。便利だなぁ。旅に出たり依頼の時にはこの新装備で外出することにしよう。新しい服って嬉しいもんだね。
「おっと、ついでにもう一つ作っとこうかな」
手に取ったのは田吾作の羽数枚、銀、ダイヤモンドだ。作るのは羽を使った髪飾りだ。俺とコノミの分と、田吾作にはダイヤの嵌ったリングを作る。
「【アイテム作成】」
【分割思考】でさくっと三つのアイテムを作り上げる。そしてそれを手にしたまま、俺が作った銃にはしゃいで適当に撃ちまくってるコノミと、コノミの放った銃弾を追いかけては光る翼で迎撃して遊んでる田吾作へと視線を向ける。
「おーい、いいものやるから集合」
「ヤキオニギリか!?」
よっぽど気に入ったのか目を輝かせて駆け寄るコノミ。田吾作も遅れて飛んでくるとコノミの頭の上に着地した。そんなわけないだろうに。
「これ、ついでに作ったんだ。お揃いでつけようかと思って」
寄って来たコノミと田吾作に、今作ったばかりの髪飾りを見せる。角が丸い三角形の中央部分に直径1cmくらいのダイヤがはまっていて、辺の一つの辺りに大きくない田吾作の羽が生えるように二枚付いている。それが二つと、真ん中に小さなダイヤが埋め込まれたシンプルなリングが一つ。
「おお、可愛い!やったな田吾作!ありがとうスプリ!」
「ピュギィー!」
髪飾りの一つを手に取ったコノミは満面の笑みで小躍りしている。コノミに声をかけられた田吾作も、喜びを表すように羽を広げて鳴いた。
「喜んでもらえたなら嬉しいよ。それじゃあそろそろ帰ろうか」
田吾作とコノミにそれぞれお揃いの銀のアクセサリーをつけてやった後、散らばった素材やなんかを木箱に放り込んでいき、コノミに預けた。消費して軽くなったとは言えやっぱり俺には重かった。
歩き出した俺の視線の先には、喜びを全身で表すようにくるくる回りながら歩くコノミと、その周りを飛び回る田吾作が居た。コノミの髪飾りは夕日を受けてキラキラと輝いている。なんとも和む光景だ。なんだかんだ充実した一日だったな。これからももっとヒロイン生活を楽しもう。
機嫌が良さそうに揺れる俺の髪の毛の束の根元にも、コノミと同じ髪飾りが夕日を受けて輝いていた。