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54話 欲望の影


 その男は、この街が嫌いだった。ガイナース帝国と一番近いこのコウロの街に屋敷を立てたのは、もしもガイナース帝国が責めて来た時に手柄を得るチャンスに乗り遅れない為だ。一番手を勤めるつもりがあったわけではない。ただ、便乗して美味しいところだけをいただくのが男の野望だった。


 今コウロのある辺境一帯はポーツタフ家の領地であるが、その男は納得していなかった。それは、ガイナース帝国が発起した時にたまたまこの辺に飛ばされていただけの貴族が、防衛拠点とも言えるこの地を任されるなど有り得ないことだと認識していたからだった。故に、自分の有能さを見せ付ける為に男は嫌いな冒険者が大勢いるこの街に拠点を構えたのである。


 しかし、男はこの街が嫌いで仕方がなかった。辺境故に娯楽は少なく、いつ襲い繰るか分からない魔物や盗賊、そしてガイナース帝国を警戒して冒険者達が大勢滞在するよう工夫をこらしたコウロの街。大きなダンジョンも近くにあるのでカリウェイの狙い通りに沢山の冒険者が訪れる。しかし、男にとって冒険者というのは薄汚いドブネズミのようなものでしかなかった。


 そしてコウロの街を嫌うもう一つの理由があった。元々コウロはあまり大きくない村だった場所を急遽街へと拡大させた経緯を持つ。その為しっかりと住む者達を区切るような配慮は無く、冒険者を集める為なのか闘技場をど真ん中に作ったりしたせいで貴族街と普通の住宅地がほとんど離れていない。そのことも、この男をイラつかせる原因だった。


「入れ」


「失礼します」


 男が手に持ったワイングラスに注がれた液体を睨みつけていると、ノックの音が響く。男が許可を出すと、一人のメイドが部屋に入って頭を下げた。


「リグシェイム様、ヘキサ様がお戻りになられました」


「遅い!早くここへ来るように言え!私を誰だと思っているんだ!」


「かしこまりました」


 リグシェイムと呼ばれた男は、今にもワイングラスを放り投げそうな勢いでメイドへ怒鳴る。メイドは慣れているのか、それとも感情を失っているのかというくらいに気にした様子も無く頭を下げて退室した。リグシェイムはその姿を見届けると、ソファへ深く腰掛けてヘキサという名の男の到着を待った。



「ただいま戻りました」


「遅いぞヘキサ!報告を聞くだけならば然程時間はかからん筈、何をしておった!」


 しばらくして、小さな眼鏡をかけて黒くて若干長めの髪の男が部屋へと現れた。その男はリグシェイムが使いとして出していた騎士、ヘキサだった。リグシェイムとヘキサとの出会いは、リグシェイムが数年前に女に頼まれ気まぐれで拾った行き倒れが実は槍と魔法の達人だったと知り、そのまま仕えさせたのがヘキサだった。その為礼儀作法は十分ではないが、リグシェイムが平民で唯一多少の無礼も目を瞑る程にその実力だけは信頼していた。騎士長という肩書きの割に扱いは軽いが。


「いやー、すみません。なんか支部で騒ぎが起きてたみたいで」


「騒ぎだと?魔人ガイサは討伐されたんだろう?・・・くそっ!」


 騒ぎと聞いて少し落ち着きを取り戻すリグシェイム。騒ぎといえば魔人ガイサの件が記憶に新しいが、既に討伐されたことは既に情報を手に入れていた。しかし、手柄をカリウェイの出した討伐隊に持っていかれたことを思い出して再び頭に血が上っていく。


「なんでも、流星梟を召喚して従魔登録しに訪れたやつがいたという話でした」


「流星梟だと!?」


 リグシェイムは思わず大きな声をあげて驚いてしまったことに、はっとして口を噤む。流星梟とは、この世界では数百年に一度の周期で人の前に現れて、破滅か勝利をもたらすと伝えられている伝説の魔物だ。その危険度はA上位と設定されている。流星のような輝きと速度で飛行するその姿はもはや残光しか認識できず、その攻撃手段もまるで流星群が降り注いだかのようなものである為、流星梟という名がついた。


 見た目は小さめのミミズクだが、全身の羽毛は煌いているし、頭の上の羽角は水晶のように美しい羽毛で出来ていてその姿は非常に美しいと言われている。魔人ガイサ同様の伝説の存在を召喚して従魔登録するなどということは、とても信じられるようなことではなかった。リグシェイムが驚くのも無理は無かった。


「それは間違いないのか?」


「はい。ギルドマスターと、たまたま訪れた領主が認めたそうです」


「なんだと・・・!?・・・まぁいい。それで、その流星梟を召喚したのはどこのどいつだ?当然調べてきたんだろうな」


 リグシェイムはカリウェイへの怒りを隠しもせずに視線に込めてヘキサを睨む。しかしヘキサも慣れているようで、一切動じた様子は無い。それどころか微笑みを一切絶やしていない。


「もちろんです。なんと、偶然にもあのターゲットらしいですよ」


「ほう、それは中々面白い話だな。よし、そういうことなら今回は許そう。下がれ」


「はい。んでは失礼します」


 ヘキサの言葉を聞いたリグシェイムは、先程までとは打って変わって真剣な表情になりヘキサに退室を促した。ヘキサは軽く頭を下げると、部屋を出て行った。


 そして、リグシェイムは誰もいないはずの空間へと声をかけた。


「今の話をどう思う?」


 すると、部屋の片隅に一人の女が現れた。妖艶な、一人の美女が。豊満な肉体は、男ならば視線を逸らすことすら出来ないだろう。美しい銀髪の中に、紫の毛の束が一房混じっている。


「もちろん、チャンスよ。まとめて奪っておしまいなさいな」


「言われずともそのつもりだ。全てはこの私が手に入れるのだからな!」


 その女はリグシェイムの問いかけに妖しく微笑むと、リグシェイムの頬を撫でる。リグシェイムは欲望に満ちた笑みを浮かべて声を張り上げた。全てが手に入る計画の実行を目前にして、すっかり興奮しているのであった。傍らに立つ女の、ゴミを見るような冷ややかな視線が自分に向けられているとも気づかずに。






 俺はまさかの大量のお金が入った袋を預かって、ギルドの支部を後にした。中は数えてない。だって怖いし。


 というわけでまたもや病院に行ってお金はジェノに渡してしまった。大金なんて持ってても仕方ないしな。そうしたら、「これで装備とか色々必要なもん買ってもいいぜ」と金貨三枚を俺にくれた。


 ひいいいいいい。もし銅貨一枚を百円だとしたらこれだけで三十万円になるけど!?そんな大金をほいほい子供に渡していいもんなのか!?いや俺おっさんだけど!いやでも俺美少女だったわ!!


 なんて混乱してる場合じゃない。あくまで銅貨が百円っていうのは俺の体感であってそんなにきっちりしたあれじゃないし。それに、領主からそれだけもらったってことだし、俺のことを大事にしてくれてるってことだろう。


 というわけで金貨三枚をサイフに仕舞って、ついでにギルドからの帰りで思いついたことを試してみた。それは、【アイテム作成】でガイサについた傷を消すこと。ガイサの宝石ってカテゴリ的にはモンスターじゃなくてアイテムっぽいしいけるかなと。人格を消さないように気をつけないといけない。というわけで借りてみたら脳内に声が響いた。


『この傷は自然に治るまでそのままにしておいて欲しいでござる』


 まさかのござるには思わず噴き出したけど、本人がそう言うなら仕方ない。露店で買った金属を【アイテム作成】で加工し、チェーンが通るようにして首にかけられるようにした。人格は消えてない。多分。あとついでに、ガイサにも内緒でスキルを付与しておいた。このスキルは条件を満たさないと芽生えないから気付かれる心配はないし、いつか役に立ってくれることを祈ろう。


 これは今日加工に出したことにして、明日依頼の説明が終わってからでもまた返しに来よう。


 それと、ジェノもまた田吾作に大興奮だった。あいつも動物が好きだったらしい。そういえばちょくちょく人の従魔を撫でてたような気がする。リアクースやリクルースみたいな女の子に近づくための作戦だと思ってたわ。ってリクルースが女だってまだ知らなかったな、そういえば。


 そんなジェノに田吾作は、頭の上に飛び乗ったかと思ったら頭を啄ばんで毛を毟っていた。「痛い痛い!」と連呼しながら慌てふためくジェノの姿には俺もコノミも大爆笑だった。コノミやレルカに対してはすごく大人しかったんだけどね。男は嫌いなのかもしれない。でもギルドでは大人しくしてたからジェノが嫌いなのかもしれない。


 というわけで田吾作も紹介したし、再びコノミと田吾作を伴って街へと飛び出した。ちなみに、ギルドで寝てたコノミと田吾作も今は元気一杯にはしゃぎ回ってる。田吾作なんかはコノミの頭の上で器用に頭を振って大興奮だ。若干の狂気を感じる。いや、可愛いけどね。




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