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53話 ギルド職員の間ではスプリは既に有名人だったりする


 コウロの街の北にある門から徒歩で10分程歩いた位置に存在する、周りより一際大きな建物に一つの大きな報せが舞い込んできていた。数百年に一度現れては救いか破滅をもたらすと言われている魔物を従魔登録したいという者が現れたのだ。


 その人物は見た目はまだ幼さの残る美少女で種族もれっきとした人間ではあるが、ギルドの職員の間では有名だった。何故ならこの少女は、ここ数日の間何度も話題に挙がっていたからだ。


 数日前に召喚された従魔としてギルドへとやって来たところから始まり、封印の解けた龍神を鎮めてそのまま気に入られて加護をもらっただとか、その力でAランクパーティーと肩を並べて魔人ガイサ討伐の為に戦ったなんていう、何も知らなければどれだけ尾ひれがついたらそうなるんだと言いたくなるようなものばかりだった。


 しかし、ギルドの職員達はこれが事実であると知っていた。貴族でコウロの街の領主でもあるカリウェイがギルドマスターに事の経緯を説明し、そのギルドマスターから説明されたからだ。もし言い触らしたりすれば職を失うどころか命を失うと、かなり過激な口止めと一緒に。


 そんな美少女が、今度は従魔として登録したいと連れて来たのが流星梟だと言う。若いとは言ってもそれなりに経験を積んだ受付嬢だ。そこらの人物がそんなことを言ったところで、【鑑定】してしまって本気にはしないだろう。流星梟とは、危険度A上位の伝説として語られる程のモンスターなのだから。


 しかし、相手がその美少女、スプリだというのなら話は別だった。万が一の危険性を考えて、受付嬢はすぐさまギルドマスターへとこのことを伝えると判断を下した。


 その報せを聞いた標準より少し肉のついた男、ギルドマスターのキルスは、応対していた客を待たせてまですぐさま行動を開始した。ギルドに保管されている様々な魔物の資料の中から、流星梟に関するものをかき集めさせたのだ。キルスは、伝説や数少ない観測記録から真偽を確かめることにしたのだ。


 【ステータス鑑定】をしてしまえば種族も分かるから話は早い。しかし、受付嬢の話ではギルドでの【鑑定】を断っていたという。従魔としての登録だけなら【鑑定】を強制する決まりはない。もし強引にお願いしたとしても、拒否され機嫌を損ねてしまったら。そしてもし、流星梟が本物だったなら。


 キルスは、自分の想像を頭を振って散らした。そうならない為の資料探しなのだから、心配する必要は無いと自分に言い聞かせて。この慎重さが、冒険者とは違う家業からギルドマスターという役職に就けた理由の一つとも言える。


 ギルドマスターであるキルスがここまで慎重になるのにはもう一つ理由があった。それは、領主であるカリウェイがジェノとスプリのことを気に掛けている様子だったからだ。冒険者ギルドは国家に縛られない自由組織ではあるが、やはり貴族と揉めるのは面倒な為に極力避ける。キルスは特にこの傾向が強かった。冒険者をこの街に必要としているカリウェイが相手であっても、それは変わらなかった。


「急いで集めてください!あまり時間をかけると何が起こるか分かりませんよ!」


 伝説の魔物と、龍神の加護を得た少女。その機嫌を損ねない為に、キルスは声を張り上げて指示するのであった。


 その伝説の魔物すら遥かに凌駕する存在が少女だということを知らないままに。そして、先程まで相手をしていた者が誰の使いだったのかをすっかり忘れて。






 受付嬢のお姉さんが席を立ってからしばらくすると、いつか見たギルドマスターといくつかの紙束を抱えた職員、そして最初に対応してくれていた受付嬢のお姉さんが現れた。


 そこからは挨拶もそこそこにギルドマスターが職員の持つ紙束を手にとっては田吾作を見つめ、また別の紙を手にとっては田吾作を見つめていた。なんか怖い。


「この星屑のように煌く羽毛、瞳は確認出来ないか・・・いやしかしこの輝く羽角は・・・!」


 書類とコノミの頭の上で寝ている田吾作を見つめてぶつぶつと呟いている姿は完全に不審者のそれだ。ここがギルドの支部で、この人がギルドマスターでなければ捕まっててもおかしくないな。


「これは一体何の騒ぎかね?」


 熱心に観察してるギルドマスターの様子に居心地を悪くしてると、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。確かこの声は領主の声だった気がする。振り向くと、そこにいたのはやっぱり領主だ。護衛の騎士が二人傍にいて、さっきまでやかましかった周りの連中も突然の権力者の登場に静まり返ってる。ブツブツと呟くギルドマスター以外は。怖い。


 まぁ普通領主が気軽に来ることもないだろうしな。ガイサの時は非常事態だっただけで。ちなみに騎士の一人は何やら硬そうな物が入った感じの布の袋をいくつか持っている。


「ギルドマスター、領主様がお見えです」


「この細やかで優美な輝きはそれ以外には・・・はっ!これはこれはカリウェイ様、冒険者ギルドコウロ支部へようこそおいでくださいました」


 田吾作と資料を見比べるのに熱中していたギルドマスターは領主の声に全く気づかず、受付嬢が耳元で声をかけてようやく気づいた。慌てて取り繕っても気づいてなかったのは丸分かりだ。俺も受付嬢のお姉さんのに耳元で吐息マシマシで囁かれたい。


「そんなに熱心に何をしておるのかと思えば、ほう、美しいミミズクだな。君のかな?」


 領主は田吾作に目を向けると、俺に声をかけてきた。とりあえず頷いとくと、合点がいったのか微かに笑いながら領主も頷いた。


「この子なら何があっても驚かんな。流星梟とはまた、えらいものを召喚したものだ。ちなみにどこで召喚してもらったんだね?」


「えーと・・・ジェノのお母さんに」


「なるほど、彼女程の実力者ならば不可能ではないかもしれんな」


「ジェノの母親・・・なるほど、確かに納得ですな」


 納得顔の領主とギルドマスター。咄嗟の言い訳に使ったけど、そういえばジェノママは評判の召喚術士なんだっけ。後で事情を話して謝っとこう。


「ここに来たということは従魔登録か。ジェノの従魔としての登録ということになるのかな?」


「いえ、ただの従魔登録とのことです」


「ほう、せっかく流星梟を召喚したのにテイマーの戦力としないのか」


 そういえば普通の従魔登録をしただけの従魔は、冒険者としての評価には影響しないらしい。だから強力なモンスターを呼べた場合にはテイマー登録する人が多いらしいね。


「可愛い従魔が欲しくて召喚しただけなんで」


 戦力が欲しくて召喚したわけじゃないからね。動物が好きだから呼んだだけで、戦わせるつもりは一切無い。俺とジェノだけで戦力は足りてるはずだ。ガイサもいるし。


 その返事を聞いたギルドマスターは唖然としてる。まぁそれも仕方ないだろう。従魔っていうのは戦力として見てる人が多いようだから。領主は肩を震わせて笑いを堪えてた。何故だ。


「まぁ、そういう訳なら特に問題もなかろう。しかし、流星梟だというのはあまり話さぬようにな。良からぬことを企む者がいるかもしれんのでな」


 領主は酒場の方をチラっと見た。全員が目をそらしたけど、逆に怪しすぎる。まぁ領主が釘を刺してくれたしそんなことするやつもいないだろ、多分。


「それでカリウェイ様は、どのようなご用件で?」


「ああ、昨日の魔人討伐の件の報酬を持ってきたんだ」


「そんな、使いの者をやりましたのに」


「いいや、私が依頼したのだから私が報酬を持って来るのは至極当然のことだろう。本来ならば一人一人に渡して周りたいがギルドを通した依頼な上に私も少々忙しくてな。ああ、丁度良かった。昨日の報酬があるからジェノの分をギルドから受け取って帰りなさい。活躍した者には色をつけておいたからな」


 この領主は空気も読めるし街を大事に思ってるし、そして随分律儀なようだ。忙しいなんて言ってる貴族がわざわざ報酬を持ってくる為だけに出かけることはないだろうし。まぁ俺のイメージだけども。


「どうも」


 笑みを向けてくる領主にお礼を言いながら軽く頭を下げておく。揉めたくない俺としてはあんまりいつも通りタメ口聞きたくないけど、でも俺モンスター扱いだし気にしなくてもいいよね?ってことであんまり気にしないことにした。きっとみんな気にしないし。


「ではこれが報酬だ。一緒に渡したメモの通りに分配するよう頼む」


「はい、確かに。畏まりました。お気をつけて」


 騎士の一人が職員に布の袋と紙切れを渡し、領主はそれを見届けると帰っていった。ギルドマスターは頭を下げて見送ると、俺の方に向き直った。


「それでは私も失礼致します。後のことはこちらの者が案内致しますので。それでは失礼します」


 ギルドマスターはそれだけ言うと、奥へと引っ込んでいった。感じが悪いというよりは焦ってる感じだったから、よっぽど忙しかったのかな。悪いことしたな。ギルドマスターに後を任された、最初に応対してくれた受付嬢は再び席についた。


「従魔登録は受け付けました。昨日の緊急依頼の報酬をお渡ししますので、少々お待ちください」


 まさか報酬を今日もらうことになるなんて。もう少しだけ手続きに時間がかかりそうだ。





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