52話 田吾作、まさかの大物だった
「冒険者ギルドコウロ支部へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「あの、この子を召喚したんで従魔の登録をしたいんだけど」
「綺麗なモンスターですね。【ステータス鑑定】はなさいますか?」
龍神の祠がある広場で召喚スキルを試した俺は、大好きなミミズクのモンスターを引き当てた。その後街中でレルカに遭遇して、召喚したモンスターは登録しないといけないと言われたからこうして冒険者ギルドへとやって来ていた。
街中でも随分注目されたけど、それは建物に入っても変わらなかった。いや、場所が荒くれ者の集る冒険者ギルドなせいで余計に目立ったかもしれない。田吾作と名付けたこのミミズクのモンスターがこの世界で一般的かどうか分からないけど、まるで現金1億円を見るような視線からすると珍しいのかもしれない。これだけ綺麗で可愛ければ高値でも買いたがるやつは多そうだし。
昼の日中から酒場で飲んでるいかつい連中から注目されるのは面倒だと思ったけど、気にしないことにした。中にはさっき一緒に合格発表を聞いてた連中もいて、何やらひそひそ話してる。
一切合財を無視して受付嬢に話しかけると、動じた様子もなくいつも通りの笑顔で迎えてくれた。さすがプロ。言う程何度も見てるわけじゃないけどね。田吾作はコノミの頭の上でモチのように潰れて寝ており、コノミも手を繋いだまま眠そうに目を擦っている。なんだこいつら可愛いな。
「うーん、鑑定はいいや」
「かしこまりました。ではお手続きだけですので、このまま説明に入らせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。お願いします」
鑑定は自分でも出来るしね。パパッと済ませてしまおう。そして受付嬢のお姉さんがあんまりにも畏まるから思わず敬語になってしまった。小心者なのか、コミュ障なのか、まぁそんな感じのが出てしまったな。
んで受付嬢から説明されたのをざっとまとめるとこんな感じだった。
・従魔としての登録だけなら特別な資格とかは特に必要ない。
・従魔のしたことは主人として登録した者が責任をとる
・冒険者以外の従魔用の印をどこかにつける必要がある
ごくごく当たり前のことだし、そんなに難しい話じゃなかった。印のことも小型の鳥型モンスター用に脚輪とかあるらしいし、普通のフクロウだって脚にタグとかつけるから大丈夫そうだ。問題ないことを伝えると、受付嬢は一枚の紙とペンを差し出してきた。
「ではこちらにお名前をお願いします」
「名前?あー、名前ね。名前を・・・・んん?」
今気づいた。よくある異世界転移ものの小説と違って、何故か俺はこの世界の文字が読めた。試験の二日目の時も、何の違和感も無く書類に書いてある文字がジェノやリアクースの名前だとわかっていた。今手渡された書類もばっちり読める。
それは日本語で書いてあるわけでもなく、ただなんとなく意味が理解出来た。まるで日本語を読むかのように、意味が頭に入ってくる。あんまりにも違和感が無いせいで全然気づかなかった。なのでもう一つの問題にも今気づいた。字、書けない。
「代筆も承っていますよ」
どうしようかと固まってると、受付嬢のお姉さんが笑顔のまま助け舟を出してくれた。なんて出来る人なんだ。若いだろうに立派に働いて、俺が男だったら間違いなく求婚してるよ。男だけど。いや、男じゃなかった。落ち着け俺。
「じゃあお願いします。スプリで」
「はい、スプリ様ですね」
返した書類とペンを受け取りササッと俺の名前を書くお姉さん。それは確かにスプリと読めた。あれを真似すれば自分の名前くらいは書けるな。頑張って覚えておこう。
「では従魔登録をしていただくモンスターのお名前と、種族を教えていただけますか?」
「名前は田吾作で、種族?種族は・・・えっと、ちょっと待ってください」
「お名前は田吾作ですね、畏まりました。ゆっくりで構いませんから」
受付嬢のお姉さんは相変わらずの眩い笑顔を俺に向けながら、書類に書き込んでいく。召喚した日付や時間、名前に種族は書かないといけないらしい。完全に予想外だったから今の内に【鑑定】してしまおう。
「【ステータス鑑定】」
コノミの頭の上で寝ている田吾作を見ながら小さく呟いてスキルを起動する。幸い早めに依頼を終えて報告しにきた冒険者や、素材を売りに来た冒険者、併設の酒場で騒ぐ連中のおかげでちょっとくらいスキルを使っても聞き取られる心配は無い。
さて、田吾作のステータスは・・・っと。なんだこれ。
種族:流星梟
筋力:F 魔力:S 頑強さ:F はやさ:S 生命力:E
スキル
【流星光弾】
【金剛閃刃】
【光の翼】
【透明化】
【気配遮断】
【魔眼:看破】
【魔力音波】
【射手】
【浮遊】
【合身】
うわー、ステータスも魔力と速さがSでスキルもてんこもりなんだけど。ギルドで【鑑定】してもらわなくて良かった。これ大騒ぎになってただろ。
上から簡単に説明していくと、魔力を光弾に変えて放つ【流星光弾】、ダイヤモンドの刃を精製して放つ【金剛閃刃】、羽に光を纏って敵を切り裂く【光の翼】、透明になる【透明化】、気配を消す【気配遮断】、暗視能力と偽装や隠蔽を見破る力を持つ【魔眼:看破】、魔力を音波に変えて放つ【魔力音波】、射撃系スキルの威力と射程にボーナスと追尾能力を付与する【射手】、空中に浮いたまま停止出来る【浮遊】。
最後の【合身】っていうのは田吾作と一体化するスキルらしい。コーキンがゴリラと一体化してたのも多分これだろうな。【合身】するとパラメータにボーナスと、そのモンスターのスキルが使えるようになるらしい。合身状態の時だけ使えるスキルも存在するみたいだけど、それは実際にしてみないと分からないっぽい。
このラインナップはやばい。気配を消して高速で飛び回り、光弾やダイヤモンドの刃をばらまく。時には擦れ違い様に光の翼で切り裂いて、いくら逃げても隠れても魔眼や音波で察知されるし、しかも攻撃にも追尾能力があるとか。遠距離からの固定砲台としても随分優秀だ。しかも【合身】まで出来るなんて。ほんとに【鑑定】してもらわなくて良かった。
なんて油断した俺がバカだった。
「えっと、種族名はたしか流星梟だったような」
「はい、流星オウ・・・え?すみません、もう一度言って頂けますか?」
「流星梟だったような・・・」
「すみません、少々お待ちいただけますか。ただいま上の者を呼んで参りますので」
念の為もう一度確認した受付嬢に対してバカ正直に繰り返す俺。受付嬢はすぐさま俺に断りを入れてから、奥の方へと消えていく。俺が二回目に田吾作の種族名を言った瞬間に静まり返っていた周りも、ざわめきが戻ってきた。けどほとんどの連中がこっちを見てざわついてる。
【鑑定】なんてしなくても十分大騒ぎになってた。今考えると普通に分かりそうなものなんだけど、あのステータスでもしこの世界に元からいるモンスターなら有名じゃないわけないもんな。ガイサですらあの大騒ぎだったのに、Sランクのパラメータが二つあるってことは間違いなく危険度Aランク以上なんだから。
あー、どうしよう。
俺はざわついてる周りの声を浴びながら、既に立ったまま寝てるコノミと、そのコノミの頭の上で寝てる田吾作を見つめて呆然としていた。