49話 今日から晴れてCランク
俺とコノミは、ランクアップ試験の結果発表の為冒険者ギルドの支部へとやってきた。受付のお姉さんに声をかけると、笑顔で別室へと通された。それは昨日宴会をした部屋で、他の連中は大体揃ってるようだった。リアクースとリクルースもいて、何故か他の受験者達に囲まれていた。従魔達は思い思いの場所で寛いでいる。
「あ、スプリちゃん」
「おはよう。どうしたの、それ」
「ええ、おはよう。ちょっと待ってね」
「おはようございます。すみません、どいてください」
「む、一昨日肉をくれた奴だの。結局負けてたが肉は美味かったぞ」
「この間の・・・それは言わないでください」
リアクースがこっちに気づいたので挨拶をして、思わず疑問が口から零れる。リクルースが群がってる連中に殺気を放ち、出来た道を二人でやってきた。リクルース怖い。そんなリクルースに話しかけるコノミ。肉をもらったことを覚えてたらしい。だけどリクルースもかっこつけた癖に負けたことを思い出して凹んでるようだ。
「昨日の件がかなり広まってるらしくて、色々聞かれてたんですよ。あれ、ジェノさんは来てないんですか?」
「そうなのよ。そういえばジェノ君は?やっぱり今日は来られない感じかしら」
「へー。ああ、ジェノは病院で寝かされてる。しばらくは安静にしてなきゃいけないってさ」
「あいつは軟弱だからの」
三人の会話に突如割り込んでくるコノミ。ジェノに辛らつな評価を下したその顔はどこか誇らしげだ。そう言うなってコノミ。あいつだって昨日は結構頑張ったんだよ。この評価も上から目線な気がするからそのまま口に出しはしないけど。
「ジェノは昨日すごく頑張ってたからな。先輩の冒険者と一緒に最後まで戦ってたし、最終的には強敵と一人で戦って勝ったし」
「ふーん、そうなのか」
「あ・・・」
「スプリちゃんそれは・・・」
「ん?」
「ジェノが一人で戦ったって本当!?」
「しかもあの魔人に勝ったのか?」
「一人でってどういうことだ!?Aランクパーティーの白黒がいたんだろ!?」
「テッペさんの毛皮ってどんな感触なの!?」
「とにかく詳しく教えてくれ!」
割とどうでも良さそうだけど俺の言葉だからそのまま受け取るコノミと、どこか引きつった顔のエルフの姉弟。何かまずいことでも言ったのかと思ったら、すぐ横に居たさっきまでリアクース達に群がってたやつらが押し寄せてきた。しかも口々に質問をわめきながらだ。リアクースが言ってたのはこのことだったのか。
ここはヒロインとして、どうすべきだろうか。やっぱりせっかくジェノの功績を広めるチャンスだし、みんなに語ってあげるのが一番か。そうしたらジェノの主人公っぽさも増すだろうし。
「待った待った!ちゃんと話すからとりあえず落ち着いて!」
「って、感じかな」
俺が合流してからの話を少し削りつつ、少し盛りつつも簡単に説明した。テッペの毛皮の感触は触ってないから知らなかったけど。
聞いてた連中は近くの人と感想を話してたり「なるほどー」とか「すげー」等と言ってる。ジェノについても聞かれたけど、死闘の結果病院で安静にしてるともう一度伝えた。相打ちしたことになってたら可哀想だからな。
そんな時、鐘の音が響いてきた。闘技場の外周にある四つの柱の上には鐘が設置されていて、朝8時、正午、夕方4時に鳴るらしい。ということはこれは正午の鐘だな。鐘の音が鳴り止まない内に扉が開いて、見覚えのあるいかついおっさんと若い女の人が入ってきた。確かおっさんは試験官をしてた人で確か名前は・・・スカルダだったかな。女の人はなんだろう、職員だとは思うけど
「全員揃ってるな。不合格の者は名前を呼ぶので、別室で記念品を受け取り帰宅するようにまたしっかり鍛えてから再挑戦してくれることを祈ってるぞ」
そしてスカルダの口から不合格者の名前が淡々と告げられ、一人、また一人と部屋を退室していく。不合格者の名前を呼ぶなんて珍しい形式だな。普通逆と言うか、最後の一瞬まで落ちるかもしれない不安と戦わなきゃいけないから受験者の精神によろしくない。まぁこの試験の場合は受験者側も大体合否が分かってるからなのかもしれないけど。現に俺もリアクースもリクルースも、他の何人かも涼しい顔をしてる。これで落ちたら衝撃だけどな。
「不合格者はこれで以上だ」
わっ、っと盛り上がる合格者達。俺も、リアクースもリクルースも、他の何人かも、笑顔で喜びの声を上げている。分かってても合格したらやっぱり嬉しい。そんなもんだよね。コノミはよくわかってないみたいで喜ぶみんなを眺めてただけだけど。
「嬉しいのは分かるが、これから諸注意をいくつか話す。しっかり聞いておくように」
それからスカルダは、少し何点か話した。まぁ簡単に言うと、お前らもうCランクになるんだから色々気を付けろよってことだった。Cランクは冒険者の中でも所謂ベテランと認識されるランクで、凡人の頂点とも言われてるんだとか。だから危険度の高い依頼も増えるし、貴族なんかからの依頼を受ける機会も増えてくるんだとか。その辺りは後でジェノに伝えておかないとだ。
「それでは更新の為にギルドカードを回収するぞ。ジェノに関しては体調が万全になってから持ってくるよう伝えておいてくれ」
「わかった」
「よし。じゃあこれを頼む」
他の人からギルドカードを受け取りながら俺に声をかけてくる。簡潔に返事をすると、回収作業を終えたスカルダはカードの束を若い女の人に渡し、女の人はそのまま退室していった。
「更新には少し時間がかかるので楽にして待つように」
試験官のその言葉で合格者達は口々にこの後の予定を話し始める。お祝いに行こうとか、そんな感じのやつだ。俺もリアクースとリクルースにそんな誘いを受けて、了承した。美人とイケメンと一緒に祝勝会なんて中々無いだろうしね。ついでにさっき紹介しそびれたコノミを紹介しとくか。リアクースは初対面だろうし。
「この子はコノミ。俺の妹・・・みたいなものかな?」
「我の名はコノミだ。よろしく頼むの」
「はじめまして、私はエルフ族のリアクースよ。よろしくね」
「私は先日お会いしましたね。・・・よろしくお願いします」
目線の高さを合わせて笑顔で微笑みかけるリアクースと、また思い出してしまったのか落ち込んだ表情のリクルース。どちらも美形で大変うらやましい。まぁ今は俺も美少女なんだけどね!そして、俺の外見を参考に人の姿をとったコノミも美少女だ。俺は従魔なのに妹ってのもどうかと思ってみたいなものとか言ったけど、似てるから普通は妹にしか見えないな。
「へー、スプリちゃんの妹さんなんだ。リクちゃんと同じなのね」
「そうですね、姉さん」
「え・・・、妹・・・?」
「おや、僕の姉さんだって言ってませんでしたっけ?」
そっちじゃねーよ。リアクースがリクルースの姉なのは知ってたけど、リクルースがリアクースの妹なのは初耳だ。てっきり弟かと思ってた。だって身体も胸も尻も細いし僕とか言ってるし、ああでも、リアクースも体系変わらないし顔もほぼ一緒だ。入れ替えても違和感無い。さすがエルフ。
そしてリクルースが女だとは知らずに避けまくってるジェノ。哀れ。これだけ美形だと女って分かったほうが遠慮してしまいそうだけど、リアクースにはデレデレしてたしそんなことなさそうだしな。哀れジェノ。
そうこうしてる内にさっきの女の人が戻ってきて、ギルドカードを悪人面の試験官に手渡した。女の人が直接回収したり配ったりしないのは、ギルドカードがそれだけ大切に扱わないといけない物だからかな。
今日俺がジェノから預かってこようかとも思ったけど、ジェノにダメだと言われたし。なんでも登録の際に冒険者はギルドカードの管理に責任を持たないといけないらしくて、無闇に預けることはしてはいけないとしつこく言われたらしい。だから更新などでギルド側が持ち主の見えないところに預かる場合はそれなりに責任を持つ人が受け渡しをするんだろうな。
「カードを受け取ったら解散して構わんが、リアクース、リクルース、ジェノ・・・の代理の三名はここに残っておいてくれ」
そしてスキンヘッドの試験官の言葉で、俺達三人とコノミは顔を見合わせた。一体何の用件だろう。