47話 戦士達の凱旋
「あー、超疲れた!手が痛い!リアクースちゃん治して!」
無事に受験者達を救出したし、ガイサも討伐して荷馬車に揺られて大森林を後にする俺達。荷馬車には俺とリアクースが座っていて、ジェノ、テッペ、コーキンが寝かされている。元気そうに騒いではいてもジェノの状態が一番酷かったらしく、他の二人とは違って身体を起こす体力すら無いそうだ。コーキンとテッペは、念の為、というやつだ。ジェノうるさい。
戦いが終わった直後、ジェノはばったりと倒れこんでしまったのでとりあえずコーキンとテッペを揺さぶってみたらなんとか目を覚ました。流石Aランク冒険者だけあって頑丈だ。状況の飲み込めてない二人に軽く説明して、ジェノは俺が背負って三人で森を出た。
すると一台の荷馬車のようなものと御者、そしてリアクースが待っていた。なんでも俺達が出発した後に負傷者を乗せる為の荷馬車を領主が更に手配してくれたらしく、回復魔法を使えるリアクースも待機していてくれたらしい。美女で気が利くなんてとんでもないなこの人。
俺達が乗ってきた馬車は受験者達とその従魔を詰め込んだらパンパンになったから先にもどったらしいし、領主にも感謝だ。追加で手配してくれてなかったら徒歩か受験者達を運んだ後の馬車が帰ってくるのを待つはめになってたからな。
そして場面は戻って荷馬車の中。それなりに高級品らしく揺れを全く感じない。男共が寝かされても広々とした空間は明らかに外観より広い。空間が拡張されてたりしそうだな。ファンタジーといえば定番だし。
コーキンとテッペは先程の戦いについて何事か反省しあっていて、ジェノはリアクースに左手に回復魔法をかけてもらってニヤニヤしてる。ただ本当に力が入らないようでリアクースが手をとっても握り返すようなことはしてなかった。残念だったな!
「ジェノ、ガイサはどうなったのか詳しく教えてくれよ」
「さっきも言っただろ、オレが真の力を解放してズバっとやっつけちまったんだよ」
「嘘つけ、真っ先に脱落したやろうが!」
コーキンがジェノを問い詰め、ジェノが答える。それに納得いかないコーキンがツッコむ。さっきから何度も繰り返した光景だ。リアクースやテッペも呆れたように笑っている。
ジェノはガイバスターのことは話さないことにしたらしい。まぁ「ガイバスターってやつ知ってるか?」と聞いた時に全員から知らないと返って来たんだから仕方ないよな。他に何か思ってのことかもしれないけど。
ただ、一人で倒したと言ってもコーキンからしたら納得出来るものではない。それはテッペや、リアクースですらそうだろう。熟練のAランク冒険者が勝てなかった相手を、Dランクの試験を受けたとは言え冒険者に登録してまだ二日しか経っていない若造が一人で倒したなんてとても信じられないだろう。
「とにかく倒したんだから一件落着だっての。証拠もちゃんとあるしな」
ジェノの目配せを読み取って預かっていた革袋から拳大の宝石を取り出して見せる。平たい三角形で、真っ赤だ。斜めに傷が入っている。
鎧の胸に嵌っていたこれがガイサの本体だ。それを俺達は証拠かつ戦利品として持ち帰っていた。なんせまだ意識が残ってて、ジェノの鎧になることを認めたからな。ジェノの戦力が更に強化されたわけだからこんなに嬉しいことはない。順調に主人公らしくなっていってるな。
「まさか鎧に怨念が宿って暴走してたなんてな。もう意識は残ってないんか?」
「ああ。怨念は鎧と一緒に砕け散ったみたいでこれは鎧を召喚して装着出来るただの魔法具になったみたいだ」
ジェノの代わりに俺がコーキンへ返事をする。他の人には、ガイサ自体はもう滅んでその鎧の力を秘めた魔法具をゲットした。ということにしようとジェノを背負ってる間にこっそり口裏を合わせておいた。宝石が本体でまだ生きてるとばれたら没収されかねないからな。ジェノも俺がガイバスターを演じたおかげか強さを求めることに貪欲みたいで、ガイサを手放そうとはしなかったから丁度良かった。
「ほー。ま、何にせよ死亡者無しで終わって良かったな」
「ほんとそれ。ほんと頑張った」
「オレ達はボロボロだけどな!」
「Eランクの奴が付いてこれただけでも十分やろ。Cランクの連中が壊滅状態だったんだからな」
「隠密狼は質が悪いですからね。本来はもっと深いところに潜んでいて、浅い場所には数匹だけで出てきて人を深い場所まで迷い込ませてから襲うはずなんで、そこが不思議なんですが・・・」
どうやらコーキンは慣れてくると関西弁っぽい何かに翻訳され始めるようだ。何故だ。完璧な関西弁って感じでもないしよく分からないな。けど特に支障も無さそうだし深いことは気にせずに置いておこう。
横になったままああだこうだと議論を始める男共を眺めつつ、遠ざかる大森林を眺める。この世界に来てまだ三日目だっていうのに色々ありすぎだろ。濃いわ。まぁ楽しいけど。
無事に(?)任務を達成できた安心感と共に馬車は街へと向かう。
馬車が街へと着く頃には、外は薄暗くなっていた。門の前には明かりが灯り、兵士達を優しく照らしている。そして執事と十人程の護衛の騎士を従えた領主の姿がそこにあった。御者に聞いたコーキンが先に降りて駆け寄っていく。
俺は顔だけ出して観察だ。領主の他に、一般人っぽいのも何人か後ろの方にいる。どうしてこんなところにいるんだろう。
「カリウェイ辺境伯、こんなとこで待ってなくても良かったんすよ」
「なにせ私が依頼したのだからな、一人だけ安全なところで待つのも性に合わん。本来ならば私も行きたかったのだが・・・」
そこでちらりと執事を見るが、その執事の表情は険しい。「ふざけたこと言ってないで立場を考えろ」って感じの顔だなあれは。
「この通りだ。それに、受験者達の家族も、助けてくれた冒険者に礼がしたいと門の外で待っておったのでな」
門の外はもちろんモンスターが跳梁跋扈するファンタジー世界。だから街がぐるっと高い壁で覆われてるわけだし。そこから外に出るってことは本来自己責任。門の前には兵士がいるけど、それは門を守る為であって人を助けるために詰めてる訳じゃないらしい。心情としては多分助けるんだろうけど、建前上はそういうことだ。
だけど少人数でも命がけで助けに行った俺達を街の中で待つことが出来なかった人たちがいたみたいで、自分がいれば護衛っていう名目で騎士も一緒に連れ歩けるから待ってたわけか。憎いね。着いて行きたいのを妥協して門の前で待ってた、っていうのも本気っぽいけど。
コーキンが依頼を達成したことに対する報告をする内に馬車が二人の横に接近して御者が馬を制止する。少しずつ速度を落とした馬車はやがて止まる。領主が待ってるのに素通りする訳にもいかないもんな。この馬車だって領主が手配してくれたものだし。ジェノもリアクースのお陰で少しは回復したみたいだからそれくらいの礼儀は持っておかないとな。けどさっさと病院なり家なりでジェノを寝させてやりたいのが正直なところでもある。
「ジェノは戦闘の疲れで中で寝てますが挨拶させますか?」
「いや、無事に任務を終えたのであれば今はそれで良い。詳しい話はまた後日聞くとしよう。行って良いぞ」
流石領主分かってる。出来る男は違うね!
門が開き、馬車は再び動き出す。テッペも馬車から降りて、コーキンと一緒に領主と話をするようだ。俺とリアクースは、やっと気まずい空気から開放されたのでさっきの戦いのことなんかをお互い話し合いながら馬車が次の目的地に着くのを待った。だってジェノは寝てるしコーキンとテッペは何やら反省会してるし、うら若き乙女にはとても居心地の悪い空間だったんだよ。異論は認めない。