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44話 VSガイサ 夢のヒーロー


 ジェノは未だ諦めていなかった。切り札とも言えるとっておきの使い捨ての魔法具全てを使いきり、新しくスキルに目覚めても倒せなかった魔人が再び立ち上がろうとも。諦めてはいなかったが、もはや身体が動かなかった。身体能力強化の魔法具で無理矢理にガイサと渡り合った反動だろうか、なんとかへたりこんだ状態を保つのが精一杯で、それ以上は動くことも難しい。


 ガイサは切り落とされた腕がひとりでに浮かび上がって、はめ込まれたかと思うと切断面が徐々に接合されていく。交差するような傷もうっすらとしか残っていなかった。そのまま動けないジェノへと歩み寄る。


「ちっ、間に合うか・・・!?」


 腰の布袋へと手を伸ばすジェノ。まずは体力を回復させようと回復薬を取り出そうとするがその動きは遅い。この世界の回復薬は液体で、振りかければ傷が治り、飲めば体力の回復や全身の疲労を軽減させることが出来る。ちなみに即効性である。


 ふと、そこでガイサの歩みが止まる。ジェノを、いや、ジェノの後ろをじっと見つめていた。動きを止めたガイサにジェノが不思議に思うのとほぼ同時、一人の男が疾走してジェノの前へと躍り出た。


「白兎超人、ガイバスター!」


 赤いスーツに各所には白いアーマーを装備し、その顔も白いヘルメットで覆われている。目元は黒く、僅かに透明感を感じさせる素材で出来ており、中からは見えるようになっている。顔の横にはウサギの耳を模した太いアンテナのようなものが二本ついている。


 ガイサから守るようにジェノの前へと現れたその男は、ポーズを決めて名乗った。後姿を見つめるジェノは突然の出来事に付いて行けずに呆然としてしまう。何故なら、ジェノは目の前の男に関して全く知らないからだ。


 その男の名は、白兎超人ガイバスター。世界征服を目論む悪の帝国の魔の手から、世界を守るために立ち上がった正義の戦士である。


「あんたは一体・・・?」


 突然現れてポーズを決めて名乗りを行う謎の男に、ジェノは戦闘中で絶体絶命のピンチだったことも忘れて問いかけてしまう。決死の覚悟で戦っていたところで謎の人物が謎の行動をしながら現れたら、混乱してしまうのも仕方ないだろう。それほどまでに、ガイバスターと名乗った男の行動は温度差が凄まじかった。


「私は困ってる人の為に戦い続けるヒーローさ。ここは私に任せておくんだ」


 僅かに振り返ってそれだけを告げると、すぐに腰に挿してあった剣を引き抜き、ガイサと対峙する。


「面白い」


 ガイサは笑いを抑えるように一言呟くと、既に両腕もついて元通りにになった身体でガイバスターへと迫る。そしてガイバスターが迎え撃つ。


「はは、マジか・・・!」


 ジェノが驚くのも無理は無い。突然ジェノを庇うように乱入してきた謎の男が止める間もなく戦い始めたかと思ったら、ガイサと互角に戦っているのだから。ジェノが今持てる力全てと、更に目覚めた力を全て動因しても倒しきれなかった相手と。


「おっと、誰だか知らねぇが今の内に皆を離れたところに運ばねぇと・・・」


 ジェノは布袋へ伸ばしかけて止まっていた手を再び動かし、緩慢ながらも回復薬を取り出して一息に呷る。ジェノは身体に力が漲るのを感じ、足に力をこめてなんとか立ち上がる。全快には程遠いもののなんとか立つことは出来たようだ。


 そこで、ガイサとガイバスターとの戦いに動きがあった。ガイバスターが弾き飛ばされて、ジェノの前まで飛びのいてきたのだ。


「ぐっ、こいつは手強い!」


 互角に渡り合っていたように見えたのは、ガイサが様子見をしていたからであり、徐々に本気を出し始めたガイサに対して時間稼ぎを念頭に置いたとしてもガイバスターは圧倒されてしまっていた。


「大丈夫か!?」


「・・・私は、この命に代えても奴を倒してみせる。その代わり、これからは君がこの世界の為に戦ってくれ」


「おい、急に何言ってんだ!」


「この世の中で大事なものは、愛や勇気だと私は思っている。しかし、愛を守り、勇気を示す為は力が必要になることも多い。強くなれ。力を手に入れて、大事な物を守り貫く為に使うんだ」


「おい!」


 ガイバスターは有無を言わさず、力強く言い聞かせてガイサへと立ち向かう。強い信念の元に。


 急に世界を託されたガイサは混乱する。当然だ。話のスケールが大きすぎる。しかしガイバスターは一切気にせずにガイサとの戦闘を再開する。ジェノを置いて。


「ああくそっ、今はとにかく皆を運ばねぇと・・・まずはスプリからだな」


 コーキンもテッペもガタイがいい。コーキンに至っては300kgを超える重量の斧を握ったまま離していない。そのまま運ぶには今のジェノには、難しい話であった。全快でも引きずることになるだろうが。


 しかし、ジェノが駆け出すより前に、ガイサと戦うガイバスターの方から眩い光を感じた。ジェノが思わず視線をやると、そこには剣を構えたまま、スプリと同じように全身と剣から光を放つガイバスターがいた。


「私の魂の一撃、受けるがいい!ガイバスター、フラッシュ!」


 剣を掲げて吠える。続けて技名を叫びながら、袈裟懸けに輝く剣を振り下ろした。まるで命を燃やし尽くすように発光したガイバスターの動きはガイサの反応速度を超えて、防御も回避も許すことなく胸に斜めに一筋の光の線が奔った。その光景をジェノが認識した瞬間、ガイバスターの全身の光が輝きを増して二人を包み込み、ジェノの視界を真っ白に染め上げていく。


「うおっ!」


 ジェノが思わず目をつぶり、腕で顔を覆うと、熱を伴った爆風が押し寄せてくるのを全身で感じた。なんとか踏ん張ろうとするも思わず尻餅をついてしまう。爆風が止み、光が収まるのを感じて腕を下ろして瞼を開けると、先程までガイサとガイバスターがいた場所には二メートル程の小さなクレーターが出来ていて、もうもうと煙が吹き上がっている。小規模な爆発があったかのように。


「ガイバスタアアアアアアアアアア!」


 思わずジェノは叫んでしまう。通りすがりで自らを救ったヒーローが、言葉の通りに命を掛けてガイサを倒したのだと悟って。ジェノの視界が滲む。会ったばかりで訳も分からない内にいなくなったが、それでも、あふれ出る何かを止めることが出来なかった。


 煙が揺らぐ。


 ジェノが、注視する。


 背中に冷たいものが流れるような感覚がジェノを襲った。


 煙を散らして歩くのは、魔人ガイサであった。



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