38話 魔人との邂逅
今回も少し短め
リアクースは、ボス狼が弾けたのを見届けた後、ふぅと息を吐きながら弓を落としてその場にへたり込む。エロい。緊張から開放されたからか、魔力切れか、多分その両方だろう。
「姉さん!やりましたね!」
「やったなリアクース!」
「いや、最後のはすごかったな」
全員がリアクースの方へ駆け寄り、口々に賞賛している。もちろん俺も駆け寄って、笑顔を向ける。
「やったな」
「ええ、殺ったわ!でも、スプリちゃんがのおかげよ」
にっこりと、笑顔を返すリアクース。雪辱を晴らせてすっきりしたことだろう。役目を譲った甲斐があったってもんだ。そして、俺のことを褒めてくれる。自分でなんとでも出来る力を持ちながら、こだわりのせいで皆を危険な目に合わせている俺なんかを。
「そうだな、あそこで来てくれなきゃ正直あぶなかったぜ」
「確かにいいタイミングだった。それに、二人とも腕もいい。期待の新人と聞いていたが正にその通りだったよ」
ジェノとレイドまで仲良さそうに笑いながら褒めてくれる。まぁ罪悪感はあるけど仕方ないな。これが俺の決めた道なんだし。リクルースは微妙な顔をしてるけど。
「スプリさんが来るのがもう少し遅ければ・・・僕は姉さんを失うところでした。ありがとうございました」
ボス狼に対して何も出来なかった自分を恥じてるんだろうか。森の中では戦闘力が落ちるという理由があったとは言え、アルクスに俺の運搬を頼んだりしたし、そもそも来るの遅れたし、きっとお互い様だ。だから気にさせるのも悪い気がする。全員に対して言えることだし。
「いや、そもそもすぐに合流できなくてごめん。最初からいれば、もっと楽だったと思うから」
頭を下げる。“ムゲン”の力を縛りプレイしているとはいえ、この中では強い方の俺が遅れたのがそもそも悪いんだしな。
なんて謝ったり褒めたりしていた俺達だったけど、リアクースが突然驚いたような声を上げる。
「あっ、クードは!?レルカも・・!」
「大丈夫だ、オレ達がボスを抑えてる間にリクルースが手当てしてくれてるからよ」
何故かドヤ顔で告げるジェノ。そんなに美女に恩を売りたいのかお前は。
「姉さん、二人とも大丈夫ですよ。クードは安静にしてた方がいいですが、レルカさんは気を失ってるだけのようです」
「良かったぁ・・・」
ほっと安堵の息を吐く。リアクースも、俺も。ジェノやレイドだって、そんな感じの顔をしてる。言葉や態度に出さなくても、みんな思うところは同じだったみたいだ。
「ところでコーキンは?」
「ああ、コーキンさんならガイサを一人で抑えるって言って戦っていたよ。巻き添えにしないように奥に移動したんじゃないかな」
わざとらしく辺りを見渡してから問いかけると、レイドが教えてくれた。思ったとおり、一対一で戦っているようだ。早く助けに行きたいけど、この受験者達はどうするか。っていうかあれ?
「ん?んん?」
「どうした?」
キョロキョロと周りを何度も見渡す。おかしい。
「いや、隠密狼の死体が見当たらなくて」
「あー、スプリにはその辺まだ説明してなかったな。まぁこの状況が片付いたら教えてやるから後でな」
と言いながら俺の頭をわしわしと撫でるジェノ。気になるけど仕方ない。それに、なんかこの風景に違和感を感じたけど、きっと気のせいか。早くコーキンを助けに行かないといけない。いくらAランクの実力者と言えど、一人ではきついだろうし。
「でも、この受験者達どうする?」
地面には、横たわったままの受験者達。全員応急処置はしているが、呻いて転がっているやつがほとんどで、自力で歩けそうにない。かといって放置するわけにもいかないし、運ぶのも大変だ。コーキンへの援軍とで人数を裂くのも、少し厳しいだろうし。
「リクちゃん、悪いんだけどちょっと魔力もらえる?」
「なるほど・・・どうぞ」
悩んでいると、リクルースに魔力を分けてもらったリアクースが思い切り両手を叩いた。パァン!という気持ちのいい音が広がる。すると、倒れていたやつらが一斉に目を覚まし、痛みに呻いている。レルカも今の音で目を覚ましたようで、起き上がって頭の上の三角の耳をピクピク動かしている。
「おお、なんじゃこりゃ!?」
「ふふ、エルフに伝わる気付けの魔法よ。痛みとかは和らげないけどね。みんな、助けに来たけど私達も運んであげる余裕は無いの。森を出たところに馬車を用意してあるから、冒険者なら自分の脚で脱出しなさい!」
その光景にオーバーなアクションで驚くジェノに、笑顔で説明してから起きた冒険者達に渇を入れるように声を上げるリアクース。自分よりランクが上のテイマー達に向かって平然と告げている。怖い。エルフだし他の人たちより年上なんだろうけどね。その魔法を見て嫌な思い出が蘇ったのか、姉さん、ほんと鬼畜ですね、とリクルースが小さく呟いている。怖い。
「んん・・・よし、リクルース、リアクースの二人は私と一緒に彼らの護衛をしよう。コーキンさんへの助っ人は、ジェノ、君に任せても大丈夫かな?」
「おう、オレはまだまだ行けるぜぇ!」
パーティーの振り分けを提案するレイドと、見た目は元気そうなジェノ。この人はBランクだけあって中々状況を分かってるみたいだ。
「え、私達はほとんど魔力を使いきってるので魔人との戦いで役に立てないのは分かりますが、レイドさんまで一緒に来なくても、二人で護衛出来ますよ!」
隠密狼はもうこの辺りにいないみたいだし、ガイサ討伐の方に行ってほしいとリクルースが異議を唱えた。リアクースも、無言だけど視線で同意しているのが分かる。
「実はさっきの戦闘で剣も盾もボロボロでね、おそらく魔人との戦闘では役に立てそうもないんだよ。もちろん、馬車までの護衛くらいなら大丈夫だ」
というわけである。盾の下10cmくらいは俺が切り裂いちゃったしな。大してジェノは、目立った怪我も無い。それに、リアクースにボス狼が迫る中俺が到着したとき、用意していた何かを仕舞うのを見た。つまりジェノは奥の手をまだ残してる。レイドもそれを分かっていたから、俺だけに行けと言うんじゃなくてジェノに頼んだんだろう。ジェノが行けば俺だって行くしな。
そういうわけで無理やり覚醒させられて痛みに呻く受験者達を引き連れて、レイド達は馬車へと向かって歩き出す。俺とジェノは、リアクースやリクルースに激励の言葉をもらいながらこの場に残った。血の臭いに誘われて場所にモンスターがやって来ないとも限らないから、出発して少し経つまでは様子を見ていたわけだ。
そうしてそろそろ出発するかと思ったところで、黒い何かが飛んで来て、盛大に俺が切り倒した木々の上を転がってから止まった。それは、胸に拳大の宝石がはめ込まれ、黒と見間違えるほど深い紫色の鎧を身に纏った、魔人だった。