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37話 合身

短めです


 当時18歳にしてDランク冒険者だったコーキンは、とある先輩冒険者に憧れていた。シェーネというCランク冒険者だ。年上で、明るく、快活で優しい彼女にいいところを見せたくて仕方が無かった。そんな彼女の口から零れた好みのタイプは、冷静で優しくて、でも時には野獣のような人、というものだった。


 そんな時に召喚したモンスターを鑑定してみたら、とんでもないスペックのモンスターを召喚できた。早速とばかりにその力を試す為、シェーネと共に街の近くのダンジョンへと訪れた。ダンジョンの途中に石碑のようなものを見つけ、そこで影ゴリラを呼び出して攻撃するように指示するが、クゼンと名づけた影ゴリラは従わない。


 「オレ、タタカウ、キライ。タベテ、ネル、スキ」


 とたどたどしく喋るだけであった。しかし、苦笑いするシェーネに恥をかきたくないと焦り必死に説得するコーキンに、クゼンは告げた。


「チカラ、カス。オマエ、ナグレ」


 ふと、コーキンは自分の中に新たなスキルが生まれるのを感じた。その効果は、クゼンと一体化することでその力を得るというものだった。直接獣魔を戦わせるわけではないが、さらに強く、かっこいいところを見せられるのならコーキンにはなんでも良かった。


「よし、【合身】!!」


 スキルを発動すると、クゼンの身体がコーキンへと重なり、一つになる。そして、膨大なパワーが身体を巡り、筋肉がはち切れそうな程に密度を増しているのをコーキンは感じた。シェーネも、見惚れたように呆然としている。


 さらにかっこいいところを見せようと、石碑を軽く叩けば破片を撒き散らしてバラバラになる。その力に、コーキンの胸は興奮と胸筋で一杯だった。コーキンは笑顔のままでシェーネに歩み寄る。


 しかし、シェーネは後ずさる。コーキンが不思議に思っていると、シェーネは言った。


「コーキンはいい子だと思うんだけど、私ゴリラ嫌いなんだ。ごめんな、今までただでさえ似てて辛かったのに、それはもう完全に無理。元気でね」


 固まっているコーキンを余所に、シェーネは去っていく。ダンジョンから、その街から。元々ゴリラに似ていたコーキンであったが、クゼンと合体したことで完全に二足歩行するゴリラと化していた。全身フサフサで、顔も黒い。顔にはコーキンの面影はあったが、元々ゴリラの顔だった為に違和感など欠片も無く、見た目はただのゴリラしかならなかったようだ。


 シェーネが嫌々ながらもコーキンの世話をしていたのは、コーキンのことを気に掛けていたCランク冒険者の男と仲良くなるのが目的で、その冒険者と結婚して他の街へと引っ越していったというのを知ったのは、コーキンがショックから立ち直って2ヵ月後のことだった。


 この話を聞いたところで、ただの八つ当たりにしか聞こえないだろう。実際その通りで、クゼンに何かの罪があるなんてことは一切無い。だが、この一件がコーキンの心に深い傷を負わせたのは事実であり、この一件がきっかけでクゼンと共に戦う気が無くなったのは事実なのだ。


 コーキンは、何をするのか楽しみに待っているガイサに向けて憎しげな視線を送る。


「これを使わせたお前は絶対に許さんからな」


「ははは、楽しみにしてるよ」


「いつまで楽しめるか楽しみにしてるよ。【合身】!!」


 悲しみと、それを振り切るだけの気合を込めて、コーキンが叫ぶ。その叫びに呼応するように、影ゴリラのクゼンの身体が、コーキンに重なっていく。


 今、ゴリラとゴリラが一つになる。


 そしてガイサの前に立つのは、二足歩行するゴリラと化したコーキン。その身長はあまり変わっていないが、全身が毛深くなり、顔まで黒くなり、長くなった腕は太さも増している。


 シャドーゴリラは、影に潜む闇の番人である。性格は温厚で、争いを好まない。食っちゃ寝をこよなく愛する平和主義者なのである。しかし、その戦闘力は凄まじく高い。本人達はその能力を活かすつもりは全く無いのだが。その代わりに、影ゴリラと相性の良い者は一体化することでその能力を使うことが出来る。高いパラメータと、特殊なスキル。


 魔法の類が苦手な短所を、扱いづらい魔黒鉄で出来た武器を使いこなすことで長所へと変えた。魔法の修行をする時間を全て己の肉体を鍛える為に用い、魔力を弾く為に魔法や魔力を纏わせられない斧で、逆に相手の魔法を切り裂いてみせたのだ。コーキンがこれまで歩んできた人生の全てを、影ゴリラと一体化させ更なる高みへと挑む。


 コーキンと影ゴリラが一体化することで生まれるパワーは、コーキン単体の比ではない。


 コーキンは、ゆっくりと、斧を横に振りかぶって止まる。


「へー、どのくらい強くなったのかたしかmぐっ、おぉ!?」


 ガイサが軽く足を踏み出して斧の射程内に入った瞬間、高速のなぎ払いがガイサを襲った。斧を振るうスピードはガイサの認識を追い越し、初めて腹部へとその刃を叩き込んだ。その頑強さから真っ二つにはならずにすんだガイサだったが、今のコーキンの膂力を表すかのように真っ直ぐに後ろへと吹き飛んでいく。


 何本もの木々を貫いて、コーキンが元来た方へと吹き飛ばされていく。 そして、周囲の木々が切り倒された場所で横倒しになった木々の上を転がり、ようやくガイサの身体は止まった。





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