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25話 試験二日目 楽しむ心



 何やら納得した感じの二人と違ってこちらは何が何やらだ。とりあえず聞いてみるか。


「どうかした?」


「二人は、試験の一日目で合否を判定して試験の二日目がただの宴会というのに疑問を感じませんでしたか?」


 言われてみると確かに不思議ではあった。試験と聞くと評価の場であって、わざわざこんな料理まで用意して労うものでもないとは思ってたからね。でもそれは文化の違いと言うか、世界の違いだと思って気にしてなかった。でもリアクースがそう言うってことはこっちでも普通に不思議なのか。


「でも今までのランクアップ試験も毎回こうだったんだろ?」


「そこはジェノくんの言う通り。私も最初の頃は不思議に思ってたんだけど、今までは一日目の試合で合格する自信があったから気にしてなかったわ。でも今回はジェノくんにほぼ何も出来ずに負けたから、気づいたの。一日目だけじゃ、判断材料が少なすぎる、って」


 今回初めて試験を受けたジェノもそういうものだと思ってたらしい。その疑問に答えてから、リアクースは自分の気づいた点を話してくれる。途中リクルースがジェノの方を見てジェノが目を逸らしている。


 なるほど。確かにトーナメントで分かるのは主に戦闘に関して。それ以外の情報も少しは入るんだろうけど、やっぱり戦い方だとか強さといった面が大きい。しかし、それらを見るにしても総当りじゃなくてトーナメント形式だといくら自分がDランク試験を軽くクリアする水準の強さだとしても、相手がそれよりも更に強ければ何も出来ずに負けることだってある。昨日のリアクースのように。


 いつかジェノやブロンス爺さんに説明を聞いた限りでは、テイマーに問われるのは強さだけじゃないらしい。モンスターの特性やスキルを活かした偵察、情報収集等の諜報関係も重要になってくる。リアクースの場合はまさに従魔は諜報活動にも強い部類であり、昨日の戦いで全く良いところがなかったからといって切り捨てるような判断をギルドがするとは考えにくい。だから、一日目では見えなかった部分を二日目で見極めるのはごく当たり前のことだ。でもそれが宴会ってどういうことだ?


「それで、スプリちゃんが試験官から聞いた話なの。合格の印が書かれた書類が闘技場に忘れてある、ってことは、昨日の試験で不合格の人達はこっそりそれに合格の印を書き込めれば合格、ってことなんじゃないのかなって」


 考え込んでる俺とジェノの疑問が顔に出てたのか、言葉を続けるリアクース。リクルースは静かに頷いている。


 なるほど、確かにそう考えると色々と腑に落ちる。昨日は戦闘に関する能力をメインで見る。そしてそこで合格圏内に入れなかった者達の情報収集能力や、潜入能力を今日判断するってことか。もしかしたら合格基準レベルの戦闘力があるかも見られるかもしれない。


「そんなことよく気付いたな。オレは全く疑問に思わないで肉食ってたぜ」


 と言いつつ更に肉にかぶりつくジェノ。ほんとよく気付いた。本当に合ってるかどうかはまだ確定してないけど、間違ってはいないと思う。褒められたリアクースは照れたように笑っている。美人さんが笑うと視界が華やかになって素晴らしいね。


「では、闘技場に潜入するとしましょうか」


「え、お前も行くのか?」


「二日目の試験がただの宴会じゃないと分かったんですから、のんびり食事なんてしていられないですよ」


 当然です、とばかりに返すリクールだけど、多分それは無理だ。


「それは駄目、リクちゃんはお留守番お願いね」


「そんな、それはどうしてですか?」


 きっぱりと告げるリアクースと、瞬時に聞き返すリクルース。まぁそうなるよね。理由はいくつかあるけど・・・


「理由はいくつかあるけど、まずリクちゃん達は戦闘の方が得意でしょ?あと昨日の試験ではかなり良い試合をしてるから合格をもらっているだろうし、私は行かないといけないからその辺りが不自然にならないようにフォローをお願いしたいの」


 とまぁ俺が思ってたのとほぼ同じことをリアクースは説明していた。そもそもこの部屋からだしてもらえるかどうかが問題だけど、出られるにしてもあまり大勢で行っても仕方がないし他の連中に気取られてもあれだから少数で行くべきだと俺も思うしね。とな

ると俺達はどうしようかな。


「ジェノはどうする?」


「ああ、オレか?んー、多分合格してるだろうけど若干不安でもあるんだよな。だからスプリだけでちょっと見てきて、不合格ならささっと書き足しといてくれ」


 お気楽満開で言っているけど、大体意図は伝わってきた。ジェノ自身の技量と、あとは俺の力もあれだけ見せ付けることが出来たんだから合格はほぼ間違いないと思う。それで、目立たないようジェノは残るけど、俺をリアクースの手伝いについていかせようということだろう。全く、主人公らしくて良いことだ。


「じゃあ私とクードとスプリちゃんで向かうことにするわね。行きましょう」


「はい、気をつけてください」


「おう、また後でな」


 そう言って進むリアクースの後をクードが付いて行く。俺も遅れないように後ろを歩く。潜入ミッションなんてなんかワクワクしてくるな。










「どんどん酒持ってこーい!飲め飲めー!」


 Dランクのランクアップ試験二日目の会場である一室は、大いに盛り上がっていた。ただ料理を堪能しているものもいるが、大体は酒をどんどん飲んでいた。酒を盛大に煽っている連中の大半は前日に行われたワンクアップ試験の一日目で、自信のある結果を残せなかった者達だ。


 試験二日目の内容は、洞察力と試験官の話す情報から闘技場に置いてある書類に合格の印を書き込めば合格出来るという答えに辿り着き、それを達成するというものだ。Dランクだけあって昨日の内容では合格できないという自覚がある者も多く、大体がそのことに気付いて部屋を出ようとした。しかし、


「まだ始まって大して時間も経ってないぞ。トイレで数分程抜けるのは構わんが最初に言った通り今日の試験はよく食べて、よく飲むことだ。最低2時間それなりに楽しめば少し外の空気を吸うのも許可するがな。しかし楽しんでいない者の外出は認めない。あと、余りにも飲みすぎて具合の悪くなった者も医務室で休むことを許可する。従魔に関しては好きにして良い」


 と長時間の外出は認められなかった。冒険者ギルドコウロ支部から闘技場までは歩いて20分程。酒を大量に飲んで気分が悪くなれば長く時間を使えるし、そうでなくても2時間それなりに楽しめば1時間使える。どちらにしても、この宴会を楽しむという選択肢しか彼らには残されていなかった。


「あーっ、タダ酒ってのはたまんねぇな!」


 ジェノは合格した自信があったし、スプリも送り出す予定なので大した気負いもなく純粋に宴会を楽しんでいた。合格は確実と言える程の戦いぶりをみせつけたリクルースもまた、余裕のある表情で少しずつ料理とぶどう酒を堪能していた。しかし、その中で一人だけ暗い顔をしてグラスに口をつけている人物がいた。リアクースだ。


「うぅ、苦いし変な味・・・」


 リアクースも他の者達と同じく上のセリフを言われていた。元々酒が苦手でほとんど飲めないリアクースは具合が悪くなるほど飲んだらそのままダウンしてしまう可能性が高いと判断し、しかし宴会を楽しむという試験官の基準が分からないため少しだけでも飲んでおこうと果敢に挑戦しているところだった。


「無理して飲んだって仕方ねぇだろ。とりあえず二時間経つまで普通に楽しんでりゃいいんじゃねぇの?」


「そうですよ。あそこで必死にお酒を飲んでる人たちは余裕がなさそうですけど、合格した自信のある方達とお話しするのもいいですし、それに、そうでなくても僕やジェノもいますしね」


 ジェノの言葉に、リアクースも確かに、と思い直してグラスを水のものと持ち替える。今は料理を楽しみつつ、最愛の妹と、今回の試験で新しく知り合った友人との談笑を楽しめばいいのだと思ったのだ。


「そうね、じゃあちょっと挨拶でもしてくるから、リクルースはジェノくんをお願いね」


「分かりました、任せてください。変なことをしないように見張っておきます」


「げ、別にそんなことしなくていいから!酔ってんだろお前!」


 笑いながらリクルースへ微笑みかけると、リクルースは真面目な顔でジェノの手首を掴み、慌てたジェノが嫌がりながらも乱暴に振りほどいたりはしない。リアクースは女性テイマーの方へと向かいながらその様子を見て思わず笑みがこぼれる。


 迫る試験の時に向けて、精一杯楽しんでみせようじゃない。



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