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24話 試験二日目 本当の意図

時間がなくて今回は少し短めです、すみません


 ジェノは今、一つの戦いに挑んでいた。今日はランクアップ試験の二日目であり、越えなければいけない試練であった。目の前には敵の山。自分以外は全員敵という様相を呈しながら、それでもジェノは果敢に立ち向かっていく。


「うおおおおおおおお!!」


 目の前には人の壁。その中をかきわけて、目標へとたどり着かなければならない。肉料理に関しては天下一品だと評判のゾックの肉料理が食べられる機会など、この街に住んでいるジェノですらほとんど無かったのだから。


 そもそもゾックという男は、料理長という立場でありながら料理をすることはあまりない。何故なら本来の仕事はギルドの解体を担当する職人であり、素材の剥ぎ取り等を主にやっていたりだとか、そもそもこの街を留守にしていることも多いからだ。もしくは厨房にはいても味見と評価を下すだけして去ることも多い。それが極稀に暇になった時に、ギルドの酒場に現れて、限定メニューが出されるのだ。もちろん高額で数量限定。しかしその知らせが出た瞬間に売り切れるほどの人気である。


 18年間この街で生きてきてジェノがその味を体験したのは、一度だけ。誕生日に母親がギルドからの依頼の報酬としてゾックの肉料理を持って帰ったことがあった。その時に食べた料理の味は、未だに鮮明に焼きついている。あふれる肉汁とあふれる肉汁、そしてあふれる肉汁。それ以来もう一度味わいたいと思ったものだが、テイマーになって旅に出るという夢の為にお金を貯めているジェノには、無理な話だった。


「肉うううううううううう!」


「これは私のものよ!」


「おらよこせ!」


 阿鼻叫喚の中、メインの肉料理の積まれた皿は比較的早めに駆け出したジェノの目の前だった。今回のメインは、霜降らせ牛(フローズンバッファロー)の肉を使ったステーキだ。霜降らせ牛はDランクのモンスターで、冷凍系の能力を持つ雪原に住む牛だ。その素材はうっすらと冷気を帯びていて、その素材で作られた装備品も冷気をまとったものになる。その肉は冷気を防ぐために特殊な成分が含まれていて、それがまるで肉に霜を降らせたような宝石のような輝きと、極上の旨みを演出する。コウロの周辺には冬になるとやってくることもあるが、今の季節はこの辺りでは貴重な食材となっている。


 同じテーブルには、僅かな灯りの中で下処理を行わないと途端に素材や肉が劣化する、幽霊鶏ゴーストチキン等の料理も用意されてはいるが、あくまで群がっている者達の一番の目標はステーキである。それはジェノも同じで、鍛え上げた身体能力で他の物の腕を肘で弾き、身体でブロックしながら遂に肉へと手を伸ばす。


 他の者達が足を引っ張り合っている中、フリーになった瞬間をジェノは見逃さない。フォークで何切れかの肉をまとめて貫いて、そのまま素早く離脱する。









「いやー、なんとかステーキとってこれたぜ」


 機嫌良さそうに酒を取りに行った試験官を見送って、料理を囲うようにしてテーブルと椅子の置いてある食事スペースでリアクースとリクルースの従魔にも料理を与えていると、ジェノがあの人ごみから帰ってきた。収穫はあったようでその手の皿には何枚かのステーキが乗っているらしい。


「取ってこれたのか、良かったな」


「おう、あの人の肉料理なら絶品間違いなしだからな。ほらよ、お前の分だ。これ食って力つけてこれからもよろしく頼むぜ」


 そう言いながら俺の皿にステーキを一枚乗っけてくるジェノ。あんな中から俺の分までとってくるなんて、面倒だったろうに。まぁ、せっかくだしもらっとくか。


「ん、ありがとう。こっちこそよろしくな」


 お礼を言ってからステーキを切り分けて口に入れて噛み締めてみると、小さな欠片にも関わらずしっかりとした味の付いた肉汁が口の中に広がっていく。味のコメントなんてろくに出来ないし、食事に特に気を使ってなんかいなかったけど、これは素直に美味しいと思えた。今まで食べた肉の中で一番な気がする。変わった調味料なんてないだろうに。


「美味しい・・・」


「だろ?だからみんな必死になってるってもんだ」


 これなら確かに、あそこで行われている争奪戦も納得出来る。自分で取りに行くのは面倒だったけど、取ってきてもらえてよかった。ご飯欲しい。


「あら、クードにもご飯あげててくれたのね、ありがとうスプリちゃん」


 ゆっくり味わっていると、同じく戦いを終えたらしいリアクースとリクルースが皿を持ってこちらへと歩いて来て席についた。その皿の上にはしっかりとステーキが一切れずつ乗っている。二人ともちゃんと取ってきたんだな、、さすがだ。一戦目ではジェノが瞬殺したけど、俺の目から見たリアクースは決して弱くはなかった。ジェノとの試合では相性が悪かったのと、不意をついたのが大きい。


「リアクース達もとれたんだな」


「リクちゃんが助けてくれたおかげでね」


「あの程度、大したことじゃないですよ」


 照れたように話すリクルース。お姉ちゃん大好きなんだなー。なんか危ない感じがするけどきっと気のせいだ。俺が汚れてるだけなんだ。


「しかしまさか試験の打ち上げなんてあるとはな。下のランクもこうなのか?」


 ジェノは微妙にリクルースから視線を外しつつ、問いかけている。やっぱり苦手意識は拭い切れないようだ。


「さっき試験官と話したら、Cランク意外は今日同じことやってるって聞いたけど、今まではどうなんだろう」


「今までも同じように、二日目は完全に秘匿の宴会でしたよ」


「そうねぇ、ここまで豪華なのは初めてだけど。ランクが上がってるからかしら」


なるほど。普通に今までもそうで今回だけの話ではなかったらしい。こんなのを毎月やるだなんてギルドも奮発してるな。ここまで豪華ではないみたいだけど。


「それにしても、試験官もうっかりしてるよな。最初に言ってた忘れ物って、昨日の試験の合格者の名前に印が書かれた書類を闘技場に忘れてきたんだってさ」


「マジかよ、だらしねぇな」


 軽い感じにケラケラと笑っているジェノ。しかし、他二人の反応はジェノと違って真面目そうな空気を感じる。俺、何かまずいこと言ったかな?


「まさか・・・」


「そうね、そうかもしれないわ」


 二人はお互いアイコンタクトだけで納得しあってる様子だ。何かを察したみたいだけど俺達には全く伝わらない。どういうことなんだ。


 そして、俺の何気ない一言が本当のランクアップ試験二日目を開始させることとなる。




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