23話 ランクアップ試験 二日目
そんなでもないかもしれませんが、微グロ注意?
ランクアップ試験一日目が終了し夜も更けた頃、冒険者ギルドコウロ支部の一室で、何人かの男達が作業をしていた。その部屋は15m四方くらいの部屋で、普段は会議や講義などに使われる場所である。
「へあー、Eランクのとこは大したやつらがいないな。お前んとこは今回は生きのいいやつ等が揃ってるじゃねーか。あー、興奮してきちゃうなー」
その中の一人が、怪しく笑う。僅かな灯りだけを灯した薄暗い部屋で、男の手にした刃渡り40cm程の肉厚の刃が、不気味に光る。
「ああ、今回は中々逸材が揃っている。まさか紛れ込んだ試験官に勝利する者が二人も出るとは思わなかったからな、そう考えると仕方ないのだろうが」
そう返したのはスカルダ。一日目のランクアップ試験のDランクの試験官を担当したスキンヘッドのギルド職員であり、その顔はとてつもなく強面だ。ギルドにいても討伐された名うての盗賊だと言われても納得出来るというか、むしろそっちの方が自然に思われるほどである。そしてスカルダは、明日もDランクの試験官を担当することが決まっていた。そして一緒にいる彼らもまた、他のランクを担当し、そして明日も担当する試験官達である。
「へー、そいつは確かにびっくりだ。Eランクなんてどいつもこいつもからっきしだったからな。まったくつまんない連中だ」
最初に話しかけた男がその刃物を振り下ろすと、ダンッという音と共に目の前の獲物を骨ごと叩き切る音と真っ赤な鮮血が辺りに撒き散らされる。
「おいゾック、もっと綺麗にやれないのかお前は。後始末だってあるんだぞ」
スカルダが顔をしかめながらゾックの方へ責めるような視線を送る。ゾックが力任せに切断したのは首の部分で、それまで普通に生きていた為に勢い良く血が噴出したのだ。おかげでゾックの手も身体も、魔法で眠らされて首を切断されるのを待つしかない哀れな獲物も、真っ赤に染まっていた。
「わりーわりー、この手で肉と骨をぶった切る瞬間がとてつも無く好きでさー。つい興奮しちまった」
「まったく・・・。いいか、これは遊びじゃないんだから真面目にやれ。後始末も全て自分でするように」
「へーへー、わかりましたよ」
ゾックは次の獲物に目線を向けながら、軽く返事をした。
こうして試験の一日目は終了したのだ。
二日目はここで行われるということで、俺達は昼少し前に起きてそのまま冒険者ギルドコウロ支部へとやってきた。ちなみに今日は関係者以外は立ち入り禁止ということでコノミはお留守番だ。
ジェノと二人で受付嬢に挨拶して用件を話すと、とある部屋へと案内された。そこには大量の料理が用意されていて、既に14人程の試験参加者がいた。その中にはリアクースとリクルース、そしてそれぞれの従魔の姿もある。リアクースは笑顔で小さく手を振り、リクルースは軽く頭だけを下げる。
「おー、なんかめっちゃ美味そうなもんが用意してあるな。食っていいのかこれ?」
などと嬉しそうなジェノだけど、昨日の一件で苦手意識が芽生えたのかリクルースから逃げようという意識が見て取れた。そのおかげでリクルースは未だきちんと謝れていない。まぁ仕方ないかもしれない。でもそうなるとリアクースとも仲良く出来ないんだけどね。
「どうなんだろう。二人は何か聞いてる?」
こちらへ歩いて来たリアクースとリクルースの二人に話しを振ってみる。ジェノはビクッとして目線を泳がせている。大分トラウマを植えつけられてしまったようだ。
「こんにちは、ジェノくん、スプリちゃん。特に何も聞いてないわ。その内説明があるんじゃないかしら?」
「やぁ、二人とも。・・・き、昨日の件なんですけど」
「よく来てくれたな。これよりランクアップ試験二日目を行う!」
普通に返してくれるリアクースと、チャンスとばかりに謝罪しようとするリクルース。しかし丁度その時にスキンヘッドのギルド職員が勢い良くドアを開けて部屋へと入ってきた為にかき消され、チャンスとばかりにそちらへ意識を向けるジェノ。リクルースは恨めしそうにジェノを見つめていたけど、すぐに試験官の方へと意識を向ける。
「試験の内容は、3時間の間よく食べて、よく飲み、昨日の疲れを癒すことだ。何人かは残念ながら参加できなかったが、気にしなくても良い。何か質問がある者はいるか?」
にやり、とその厳つい顔を歪ませる試験官。怖い怖い。ジェノも、他の受験者達も呆然としてる。そりゃそうだ。
「えーっと、じゃあこの料理や酒は好きに食べてもいいってことか?」
仕方ないのでジェノの聞きたそうなことを聞いてみた。すると試験官は変わらぬ笑顔で頷いた。食べてもいいらしい。その反応を見て沸き立つ受験者達。そりゃあ、さっきから焼けた肉のいい香りを至近距離で嗅がされてたらね。俺だってご飯と一緒にかき込みたい。米なんて無さそうだけど。
「因みに、この様々な肉料理はうちの職員であり酒場の料理長を任されている、ゾック氏が担当してくれた。なので私も闘技場に忘れ物をしてしまったが、この宴が終わったら取りに行くことにする。さあ、思う存分堪能してくれ」
その言葉に湧き上がり肉料理に殺到する周囲。どこにそんな要素があったんだ。そのゾックって人はそんなにすごい人なのか?見ればリアクースやリクルースまでもが、まさかあのゾックさんのお肉料理が食べられるなんて・・・と興奮気味だ。なんだこれ。ジェノに聞こうとも思ったけど、隣を見るとすでにいない。
まさかと思って人だかりに視線を向けると、激しい肉の争奪戦の中で暴れてるジェノの姿があった。激しい雄叫びや怒号が聞こえてくる。むしろ従魔達の方が大人しく荒れ狂う主人達の姿を見ている。どっちがモンスターなんだか。
「スプリ!お前も食ってみろって!超美味いから!」
人ごみの中から俺を呼ぶ声が聞こえてくるけど、あんな中に突っ込んだらもみくちゃにされた挙句に弾き出されるのが明らかだ。疲れるだけだし大人しく他の料理を食べてるよ。
真ん中のテーブルに置かれたメインの肉料理は人だかりがすごいから、周りのテーブルの料理を皿に乗っけては食べていく。普通においしい。調味料の種類は少ないらしく変わった味はほとんどしない代わりに、素材の味が上手く活かされている。メインでない何かの肉も、焼き方や塩加減が最高にちょうど良かった。上手い。米が欲しい。
「美味そうに食ってもらえて何よりだ。ゾックの奴は、肉料理だけは絶品だからな。あいつはこの辺りでは肉に関してはSランクと呼ばれるくらいに評判がいいからな。人格には多少の難はあるが・・・」
その言葉に視線を上げると、2m近くもある屈強なスキンヘッドが俺を見下ろしていた。
殺される!?
一瞬混乱したけど、なんのことはない、この人はギルド職員であって決して盗賊団のボスなんかじゃないんだ。落ち着け、大丈夫大丈夫。
「うん、ほんと美味しい」
薄くスライスされた何かの肉をかみ締めながら、素直に感想を述べる。味も見た目も豚みたいだ。添えられた野菜と一緒に食べるのもさっぱりしていていい感じだ。試験官が最後に呟いた事は聞かなかったことにしておく。
そこでふと暇だというのに気づいたので、せっかくだし少し話をしてみることにした。話しかけてくれてちょうど良かったな。
「この二日目って、他のランクも同じことしてるのか?」
「Dランクまでのランクは同じ内容だな。Cに関しては私も知らない」
「ふーん。忘れ物って何を忘れたんだ?」
何気なく聞いたこの質問、大して興味があったわけでもなかった。ただの暇つぶしという面が大きい。しかし、既に酒が入って頭まで真っ赤になっているからか、とんでもない内容が飛び出してきた。
「ああ、試験の合格者の名前の横に印を入れた紙をな。まぁ今日の夜までに提出すれば良い物だし、この宴会が終わればすぐに取りに行く。私でさえ、あいつの肉を食べる機会は稀なのでな」
と言いつつ骨つき肉にかぶりつく試験官。その様子は正に盗賊。様になっている。っていうかそれでいいのか試験官。
こうして、俺達のランクアップ試験二日目が幕を開けた。