表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/130

20話 ランクアップ試験 スプリのとっておき

 

トーナメントの後半戦は、残り九試合。ジェノと俺はさっきと同じように、ジェノ一人による特攻で二試合目、三試合目共に勝利した。三試合目の方は警戒されていたのと、テイマーと従魔それぞれのレベルが高かったことでやや苦戦はしたけど、それでもジェノはこの中では飛び抜けているのか俺が何かするまでもなく相手を降参させてしまった。

 

 おかげで俺は邪魔しないように後ろで見てるだけだ。たまに攻撃が俺の方に放たれたと思っても、全てジェノが打ち落としてしまいその隙をついて突進して行くから、相手も何もしない俺に意識を割かなくなるしとてもつまらない。

 

 まぁ、次の試合は休憩の時間にジェノに絡んできたあの爽やかイケメンだ。あいつはこれまでの試合を見るに剣と魔法の両方かなりの腕を持ってる。従魔のあの鳥も、高速で空を飛び、突進攻撃を繰り出す戦法を得意としているようで強敵の予感がする。やっとあれをお披露目することになるだろう。実に楽しみだ。


「それでは準決勝、ジェノとリクルース、準備をしろ!」


「スプリ、お前はオレが守ってやるからな」


「俺のことは気にしなくていいって。多分あいつ強いぞ」


 試験官に呼ばれてお互いいつもの位置に移動する。ジェノは相変わらず過保護なようで、何度もした宣言を今回もしてくる。別にそんなに気にしなくてもいいのに。パラメータが貧弱だから心配してるっていうのは分かるんだけどね。


 リクルースと呼ばれた爽やかイケメンのほうを見やると、リアクースが手を振って送り出している。あれ、あの二人は知り合いだったのか。だからリアクースに圧勝したジェノに絡んできたのかもしれないな。その予想を裏付けるかのようにリクルースは愛用の品らしい細い直剣を構えてこちらを睨んでいる。ばりばりの殺意を感じる。せっかくのイケメンが台無しだ。


「はじめ!」


 試験官の合図で俺意外の全員が一斉に動き出す。ジェノとリクルースはお互いに突っ込んで武器をぶつけ合う。最初の腕試しというやつか。リクルースの従魔の鶴みたいな鳥はその場で翼を大きく広げると、周囲に長さ1mくらいはありそうなで俺の腕より太い石の槍が三本程浮かび上がり、そのまま射出される。標的は、俺だ。ってまじかよ。


「おっと、そいつは通さねぇよ!」


 体格と武器の重さを活かしてリクルースを押しのけて、石の槍をジェノが叩き落す。しかし、それはまずい。


「隙ありですよ」


 ジェノの横合いから、すぐさまリクルースが跳んできていた。石の槍を打ち払った一瞬の隙を突いて細剣を振るう。慌てて飛び退るジェノだったが、リクルースは読んでいたかのように待機させていた魔法で石の礫を射出する。


「ぐっ!中々せこいことするじゃねぇか」


「戦いにせこいも何もありませんよ。そんなハンデを背負っている貴方が悪いんです」


「けっ、言ってくれるぜ・・・!」


 礫はジェノの腹部に命中していくらかダメージを受けたようだ。そしてその間にも鳥が石の槍をこちらに射出してきてはジェノが迎撃している。そしてその隙を狙ってリクルースの剣と魔法が襲い来る。致命的な攻撃はまだ受けていないけど、防戦一方だ。そして徐々にダメージが蓄積していっている。このままだとジリ貧だな。


「ジェノ、俺は大丈夫だからそっちに集中してくれ!」


「何言ってんだ、お前はオレが守るって言っただろ」


 このままではまずいと、ジェノに声をかけるけど聞いてくれない。今度はリクルースの攻撃を防いでいて石の槍の迎撃が間に合わなかった。しかしジェノは自分の身体ごと突っ込んで右肩で槍を受けた。ジェノは勢いに流される身体を強引に押しとどめて今の一瞬で左手に持ち替えた太陽の煌きでリクルースの攻撃を弾く。石の槍は肩を貫くほどの威力は無かったようだけど、右腕はだらりと力なく垂れ下がっている。


 ああもう、この頑固者め。しばらく言いつけ通り見守ってたけど、もう我慢の限界だ。


「いいから黙って言うこと聞け!お前は自分の相棒のことすら信じられないダメテイマーなのか!」


「ははは、従魔に説教されてるなんて、いくら強くてもテイマー失格ですね」


 今の貧弱な身体で出せる、精一杯の叫びをジェノにぶつける。その様子がおかしかったのか、リクルースは笑いながら一旦距離をとり、今にも倒れそうなジェノをバカにして攻撃の手を止めていた。石の槍は飛んできているけどジェノは片手だけで斬り払っている。ジェノは攻撃を一身に受けすぎてボロボロだ。従魔の俺は雑魚だと思い込んでいたら、油断だって油断にならないだろうな。


「・・・んだよ、お前のこと守ってやったらダメなのかよ」


 息は絶え絶えで疲労困憊なのが伝わってくる。痛みで意識も朦朧としてるんだろう。今のこの行動だって、ジェノの信念に基づいて、俺を守るためにこうなったのはわかってるし嬉しいとは思う。けど、それじゃダメだ。今の時代、ヒロインだってただ見てるだけじゃヒロインとは言えない。主人公とヒロインっていうのは、お互い信じあって支えあうものだと俺は思うからな。


「守られてるだけじゃ、相棒なんて言わないだろ。困った時は助けてもらうから、今は俺に助けさせてくれ」


「わーったよ。じゃあ、あの鳥は任せた。実はもう限界近くってな・・・」


 やっと納得してくれたか。ジェノはペタンとその場に座り込んでしまう。ああ、任された。あの鳥はたっぷりと新技の実験台になってもらうからな。


 鳥は変わらずこちらへ石の槍を三本こちらへ射出してきている。リクルースは笑みで口元を歪ませてこっちを眺めてる。多分勝利を確信してるんだろうけど、残念だったな。俺がジェノを主人公にさせるって決めてるから、敗北は有り得ない。


 ここで俺は一つのスキルを起動させる決意をしていた。それは【龍神の加護】によって得たスキル。【龍神の加護】というスキルは、使用すると龍神のくれた力の範囲内で使用者の望む能力値やスキルがもらえるというもの。しかもコノミは持っていた龍神の力の5割程を込めてくれたらしく、一般人からしたらとんでもないレベルの力だ。これを昨日こっそり使って新しいスキルとして力を授かっていた。


 その名も


「【融合躍進】!!」


 スキルを発動すると、全長4m程の水色の龍が石の槍を弾き飛ばしながら足元から湧き上がってきた。昨日見た龍神の縮小版といった感じだ。そのミニ龍神が空中で止まり咆哮をあげると、俺へと降って来た。そのままぶつかると同時に俺は光に包まれる。周囲には水が渦巻いていて、続けて一直線に放たれる石の槍を弾き続けている。


 そして水の渦と光が弾け飛ぶ。すると俺の両手両足の、靴下と手袋で覆われていた部分までが龍のものに変容していた。薄水色の鱗に覆われていて、五本指のままだけど爪は何故か金色だ。腕と脚には牙のような鋭い突起が生えているけど、膝と肘にはそれぞれ30cm程の長さの物がついていて立派な武器になりそうだ。全体像は自分では見られないけど、この腕も脚も自分でイメージしたものだから、だとすると背中には七つの水の玉が浮いていて、頭には控えめな龍の角。そして頭の左側で結われていた髪の毛は解き放たれて後ろに流れていて、前髪の中に金色の毛が一房存在してるはずだ。


「すごいのう!かっこいいのう!」


 観客席からはコノミや、子供達の興奮したような声が聞こえてくる。当然の感想だな。かっこいいアニメや特撮大好きな俺が自分のイメージを総動員して作り上げた姿だからな。ちなみに、このスキル使用時の効果は【融合躍進】を取得した時についでに作った【幻想投影】と【渦潮防壁】と【身体変容】【発光】を全てリンクさせて自動発動するようにしてやった演出だ。何せ一睡も出来なかったお陰で時間は一杯あったからな。


 まず【幻想投影】で龍を出現させてそれを俺にぶつけることで龍神の力であることをアピール。この投影されたイメージは濃密な魔力で出来ていて物理的にもある程度影響できるらしい。お次は【渦潮防壁】で周囲を囲って目隠しと防御。そこに【発光】で凄まじい力をアピール。そして【身体変容】で龍神と融合したような姿になった。


 ちなみに、これらのスキルは今のところ他に使う予定も無い。どうせ龍神の力を使うのをばらすなら、そこを分かりやすく派手にしようと思い立った。俺の趣味が盛り沢山ではあるけども。それに、戦いに便利なスキルばっかり作ってても一方的過ぎて仕方ないし、どちらかと言うと演出目的のスキルをメインにとっていこうと思っている。下らないと笑うこと無かれ、ヒロインを満喫する為の大事なことなのだから。


 だから、【融合躍進】自体の効果は単純にパラメータを上げるだけで見た目や演出は他のスキルで行った。だからというかそれしかないんだけど、真骨頂は龍神の力を全てつぎ込んだ高いパラメータだ。さすがにムゲンと比べると劣るものの(そりゃそうだ)、その能力値は単純にパラメータだけでもBランク上位のモンスターにも匹敵する程だとコノミが自慢げに語っていた。魔力も強化されているから【水の使い手】も強化されてるし、龍神の力をスキルに振らなかった理由の一つでもある。そして【身体強化】のスキルもこのスキルにリンクさせて勝手に発動するようにしておいた。おかげで魔力にもそれなりに振りわける余裕が出来た。


「くっ、ただの雑魚だと思っていたらこんな奥の手が。アルクス、二人で行きますよ。こちらも奥の手を使います」


 とりあえずはさっきから飛んできてる石の槍の処理だ。自動的に防いでくれていた水の渦はもう存在してない。変身中無敵効果だからな。


 向かってくる三本の石の槍をそれぞれ【水の使い手】によって操る水の球体で包み込み、中で水の圧力を高めて粉砕する。すると、リクルースは一瞬驚いたもののすぐに鳥へと指示を出している。さすがにその辺りは実力があるテイマーだ。しかし、こっちだって一人じゃない。


「おっと、お前の相手はこのダメじゃないテイマーがするぜ」


「貴方は・・・!」


 こちらへ向かおうとしていたリクルースの前に、座り込んでいたはずのジェノが立ちふさがる。座り込んだのは少しでも体力を回復させるためだったようだ。リクルースも流石に驚いたようで、憎らしげにジェノを睨んでいる。


「さっき鳥は任せる、って言ったもんな。そっちは任せた」


「おうよ、任せとけ、相棒・・・!」


 リクルースが手に持った細剣をタクトのように振るうと、石の礫や石の槍がジェノ目掛けて飛んでいく。ジェノは避ける程の体力が残っていないのか、致命傷になる攻撃だけを剣で弾き、打ち落とし、最小限のダメージで進んでいく。きっとジェノはリクルースに勝つだろう。なら、俺はこの鳥を片付ければいいだけだ。


「ケェー!」


 石の槍を叩き落しながら歩いて近づいてくる俺に対して威嚇するように一声上げると、鳥は飛び上がり高速で移動を始めた。羽を畳んで細長い形態を取り、俺の周りの空中を跳ねるように駆ける。そしてその状態のまま石の槍を俺に向けて連射してきた。


 なるほど、これがあいつのとっておきか。本来はこれにリクルースの魔法も混ざるんだろうけど、今はジェノが抑えてくれている。まぁ、二人まとめてでも問題ないだろうけど。石の槍を強靭な龍のものと化した腕で弾いたり砕いたりしながら様子を見る。しばらくそのまま凌いでいると、鳥の姿が視界から消えた。一瞬の呼吸の隙に死角に入り込んだらしい。


 けれど無駄なことだ。何気ない動作で後ろ斜め上方向を掴むと、そこにはあの鳥がいて、俺に首を掴まれていた。スキルで強化されているんだろう身体を掴んでる右手に力を込めていく。強化を貫いて段々と右手が食い込んでいく。相手は自由に動けないだろうしこのまま地面に叩きつけるか?でも鳥って結構好きだしあんまりいじめたくないんだよな。


 そんなようなことを考えて、でもこれは勝負だし仕方ないという結論に達して腕を振り上げようとしたとき、


「参りました」


 という声のした方を見ると、リクルースの首に剣の切っ先を向けているジェノの姿が目に入った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ