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126話 VS魔王トレスリー 友の鎧


 サンダージェノガイサは悠然と歩きだす。魔王トレスリーの誇る【滅空】のスキルをものともせず。


「何故、何故吾輩の【滅空】を食らって平気にしているのであるか!?」


 この世界ではスキルとは、理不尽な奇跡として存在している。物理法則や常識等関係なく、そういう効果だとされていたらそういう効果なのである。つまり、消滅させるスキルを食らえば消滅してしまうのだ。本来ならば。


「この鎧にはな! オレのダチの、一人の男の! 一人でも守り通そうとした信念が! 敵わない相手にも立ち向かった決して折れねぇ鋼の魂がこもってんだよ! お前なんかのスキルで消滅なんかしてたまるか!」


 ジェノガイサは高らかに叫ぶと、走り出した。友の残骸が形作った鎧をその身に纏い。


 ダンジョンの最下層とされている扉を守っていた人造ゴーレム、テッカイザーは魔王トリアに立ち向かい心臓部を消滅させられて機能が停止した、かに見えた。しかし何の奇跡か、それともジェノの言うような信念の賜物か、その身体がジェノガイサと合体し、力を与えた。


 合体と同時に、ジェノの頭の中にはテッカイザーの残骸、テッカイジェットに宿るスキルの詳細等が流れ込んでいた。いくつかのスキルを内包していたが、その中でもトレスリーの【滅空】を防いでいたのは【鋼の信念】というスキルだった。


「くそっ、くそっ、くそっ! 消えるのである!」

「みんなはそこから出ないでくれ! こいつはオレが倒す!」


 何度スキルを放とうとも効果は表れない。頭に血が上ってしまっているのか効果が出ないと分かっていても何度も何度も放つ。しかし、サンダージェノガイサは依然として健在である。

 それどころかいつの間にか集まっていたスウェイ達の周囲は何かで覆われており、それすらも【滅空】の効果を防いでいるという光景がトレスリーの精神を更に追い込んでいく。


 【鋼の信念】は、派手な効果を持つスキルではない。このスキルの所有者は、任意の変化を受けることがなくなる。スキルの所有者が受け入れなければ形が変わることはなく、更には温度等の変化も受け付けない。

 つまり、所有者の心が折れない限り、決して欠けず、決して曲がらず、決して摩耗することのない、不変の戦士と化すことが出来る。ジェノはこのスキルの効果を知った時、たしかにそこにテッカイザーの魂を感じ取った。


「覚悟しやがれぇ!」


 ついに至近距離まで接近したサンダージェノガイサの拳が唸る。テッカイザーの大きな前腕をほぼそのまま使用されたその拳は、ジェノガイサの体格からするとアンバランスな程に大きい。そして鋼鉄で出来たそれは正に鉄塊。とてつもない重量を誇る。


「ふん、吾輩を舐めるなである!!」


 サンダージェノガイサが拳を振るう直前から、トレスリーの身体に変化が表れていた。貴族のような気品と風格のある顔立ちはメキメキと音を立てて獣のような顔立ちへと変貌していく。頭部には二本の捻じ曲がった角が生え、肉体も服を引き裂くように黒い毛皮に覆われた筋肉がはちきれんばかりに隆起する。


 魔王トレスリーの恐ろしさは何も【滅空】のスキルだけではない。ドラゴン等の強力な魔物と比べても劣らないその強靭な肉体もその一つだ。空を飛べるトレスリーが敢えて地上での殴り合いを受けて立ったのも、自分の肉体に自信があってのことだった。

 テッカイジェットが飛んでいる様を見て、サンダージェノガイサも飛べるのではと警戒した部分もあるのだが。


 拳と拳が激突する。


「うおおおおおおお!!」

「ぐぅ、吾輩が、押されるであるか!?」


 しかし、サンダージェノガイサの持つ力・・・スキルも【鋼の信念】だけではない。【鋼の信念】が守りの要だとすれば、こちらは攻めの要。サンダージェノガイサの攻撃力を格段に引き上げるその名も、【剛力無双】。このスキルにより発揮される膂力でもって叩きつけられる不変の鉄塊は、何者にも負けはしない。


「ぉおおっ!?」


 拳と拳のぶつかり合いは、サンダージェノガイサに軍配が上がった。激突した瞬間はせめぎ合っているように見えたがその時点でトレスリーの拳は無残に砕けており、なんとか押しとどめようとしたものの拳を振りぬかれて宙を舞った。


「まだまだ行くぜ!」

「調子にのるなである!!」

「ぐぅぉ!?」


 空中で逆さまのまま静止したトレスリーは砕けていない左腕をサンダージェノガイサへと翳した。すると、追撃する為に跳び上がろうとしていたサンダージェノガイサへ蘇芳色の電撃が迸った。いつのまにか黒球の下へと誘導されていた事実と思わぬ反撃に動きを止めてしまう。


「ほほう・・・。吾輩の雷、盛大に食らうがいいのである!」


 その様を見たトレスリーは思わず唇の端が持ち上がる。そして、好機とばかりに追撃の雷を放つ。勿論周囲に展開していた黒球を集めるのも忘れはしない。


 【鋼の信念】は、あくまでも状態が変わらなくなるだけのスキルだ。衝撃自体は普通に受けるし、電気もその素材によっては通る。つまり、サンダージェノガイサのボディは熱や斬撃等には強いが電気には何の対策もされていない。


「ぐあぁぁ!!」

「ジェノさん!」

「ジェノ!」


 ジェノは幾条もの雷撃を受けて苦痛の声をあげる。その足も完全に止まってしまい、いつ崩れ落ちるのかすら定かではない。魔王トレスリーの魔法も一級品であり、その雷はギルドマスターのネーコですら一撃で行動不能に追いやった程だ。


 ジェノの窮地を察してスウェイやネーコ、他のメンバーも思わず呼びかける。ターナに至ってはサンダージェノガイサが皆を守るように展開している【スキル遮断バリア】から飛び出そうとして、コノミといつの間にか合流していたフィスタニスとスプリに羽交い絞めにされている。




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