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120話 友の魂

話は進みません


 魔王トリアの強襲により、ジェノ達はピンチに陥っていた。ジェノの咄嗟の機転でターナ、コノミ、フィスタニスの三名は離脱することに成功したが、ジェノとスプリは大ホールに閉じ込められてしまう。果たして、ジェノとスプリは魔王トリアを打倒することが出来るのか。


『やっべぇ、三人を逃がせたのはいいけどすげぇこっち見てる。これオレが狙われる流れだよな?』


『拙者もそう思うでござる。あれを直撃したらいくらジェノガイサといえどイチコロでござるよ』


『畜生め!』


 魔王トリアがジェノガイサに向き直り狙いを定めたところで、かっこよく構えをとりながらもジェノはガイサに愚痴とも言えない何かを零していた。いくらヒーローを目指していても、実際トリアのスキルを突破することは現状ジェノガイサの能力では不可能であった。


『スプリのスキルを食らっても平然としてやがったことを考えると多分あのスキルを身体に纏うか周囲に展開してやがるからな。反則すぎんだろ!』


『あのスキルは拙者も噂に聞いたことがあるでござる。なんでもあらゆるものを消滅させる、絶対のスキルだとか。そのスキルを持つ者は魔王と呼ばれ恐れられたとかなんとか・・・でござる』


 トリアに敵わないのは、ジェノガイサが弱いということでは決してない。ただ、魔王トリアが強大すぎるのだ。


「田吾作、いくぞ! 【合身】!」


「タゴ!」


 闘志が半ば折れかけていたジェノガイサの耳に相棒の勇ましい声が届き、大ホールの一角から光が放たれる。扉の付近にいたスプリが流星梟の田吾作と一つになるスキル、【合身】を使ったのだ。スプリは一瞬にしてジェノガイサの背後に現れると、後ろから抱きかかえるようにしてすぐさま離脱する。


 物理法則を無視したかのような急な制動にジェノは悲鳴を上げそうになるも、なんとかこらえる。ジェノガイサの状態でも、流星態となったスプリの全力での移動は激しかった。それでもスプリがジェノガイサを抱えたまま空中で静止した時、ジェノは魔王トリアからある程度の距離をとったのを認識して動揺を表に出さないよう口を開いた。


「すまねぇな、助かったぜ」


「気にしなくても大丈夫。とりあえずジェノはこのままジッとしててくれ。実はあんまり自信無いんだけど、やれるだけやってみる」


「おっけい、任せた」


 ジェノガイサはそのまま力を抜いてスプリに身体を預ける。一人で戦おうとしていたのに実は自信が無かったと言い放ったスプリに苦笑しつつも、ジェノガイサは一旦スプリに託すと決めた。どのみち自分では足手纏いにしかならないのを自覚していた為、無駄に拘ってスプリの邪魔をすることはなかった。


 スプリはジェノの返事を聞いて移動を繰り返しながら魔王トリアへ向けて攻撃を開始する。流星梟の持つ【金剛閃刃】によって生み出された無数の金剛石の刃が魔王トリアへ殺到する。しかし、その尽くが魔王トリアの眼前でかき消される。一切が、届かない。


「そんなの効かないよ」


「まだわからないだろ!」


 スプリはトリアに距離を詰められる前に素早く移動しては攻撃を繰り返す。途中、薄い霧が発生して大ホールを満たしていく。これは、大ホールの入り口に設置されているものと同じ物を警戒したスプリが、自信の操る霧が消えるかどうかでその存在を察知出来るよう発生させたものである。


『つうかこの体勢だとおっぱいが背中に当たってる筈なんだけど、鎧のせいで感じねぇ! 解除してやろうか!』


『今武神装甲を解除すればスプリ殿の動きで軽全身が有り得ない方向にひしゃげて死ねるでござるよ。それでも良ければ解除するでござる』


『だー! なんつースピードで動きやがるんだよ。色んなもんが口から吹き出しそうだぜ』


『え、吐くなら武神装甲を解除してから頼むでござる』


『死ねってか! 死ぬくらいならゲロまみれにしてやらぁ!』


『ぎゃー! 殿中でござる! 殿中でござる!』


 スプリに全てを託したジェノは戦況を観察しながらも、ガイサと下らないやりとりを繰り広げていた。何も出来ないとはいえこの緊迫した状況で緊張感の無いやりとりを出来るのは、ある意味大物と言えなくもない。


「くっ、そろそろ限界みたいだ・・・!」


勝ち目の見えない空中戦が始まってから五分程経ち、スプリが苦しげに呟いて魔王トリアから離れた地面へと降り立つ。そこは偶然か、テッカイザーの残骸が横たわる場所だった。


「確かに速かったけど、それだけじゃあボクには勝てないよ。無駄な時間を過ごしちゃったし、そろそろ消えてもらうね」


「スプリ、頑張ったな。後は下がってろ」


 魔王トリアはにこやかに笑い、ジェノガイサはスプリを庇うように迫るトリアの前へと躍り出る。勝算があるわけでもなく、相棒が頑張ったのだから次は自分があがく番だと、そう思っただけのことである。そして、遂に魔王トリアがスキルの射程の寸前にまで迫っていた。もう逃げることも叶わない。


「それじゃあね、仲間もすぐに同じ無に還してあげるよ」


「オレノトモハオレガマモル!」


 魔王トリアが勝ち誇ったように宣言した時、抑揚の少ない機械音声でありながら、どこまでも熱い声が大ホールに響き渡った。テッカイザーの残骸が光を放ち、鳥のような不思議な形態テッカイジェットへと変形した。それはまるでテッカイザーの魂が宿っているかのように浮き上がり、魔王トリアへと突進して行く。


「あの魔術人形は完全に消したはず・・・。まぁいい、何が来たって、消えない!?」


 魔王トリアは余裕の表情を崩さずに向かってくるテッカイジェットにスキルを行使した。あらゆるものを消滅する絶対のスキルを。しかし、テッカイジェットは一片たりとも欠けることなく、大ホールの空を駆ける。


 そのまま驚く魔王トリアの眼前を旋回してジェノガイサの傍らへと舞い降りた。そして、再びテッカイザーの声が友へと語りかけてくる。


「ジェノ、オレトトモニタタカッテクレ。アクセスコードハ、テッカイザー!」


「お前・・・分かった。力借りるぜ、テッカイザアアアアアアアアアアア!!」


 何か言いたげな雰囲気を漂わせながらも押し殺し、その声に応え、ジェノが叫ぶ。その様子に慌てたのは魔王トリアである。己が負けることなど想像もしていないが、スキルが通用しなかったという事実が魔王トリアを警戒させていた。


「何かわからないけどさせない・・・!?」


 だが、絶対のスキルである【滅空】を発動した魔王トリアは再び驚くことになる。ジェノガイサの周囲に球状のエネルギーフィールドが発生し、そのせいかは定かではないがジェノガイサにスキルが効いた様子が見られなかったのだ。


 魔王トリアが驚いている隙に、アクセスコードに反応したテッカイジェットがいくつかのパーツに分離してジェノガイサの周囲に漂っている。若干の戸惑いを見せるジェノガイサに、三度テッカイザーの声がかけられる。


「ジェノ、トべ!」


「おう!」


 その言葉に応えるように跳びあがったジェノガイサの身体に、テッカイザーのパーツが装着されていく。巨大な腕、足、胸部アーマー、新たなマスク、そして肩にはドリル。装着を終えてジェノガイサが着地すると、激しい衝撃と音が大ホールを揺らす。


『すげぇ、力が漲ってくるぜ。それに、頭の中にこいつの使い方が流れ込んでくる』


『これなら奴をも打倒しうるでござる!』


『ああ、テッカイザーの魂、確かに受け取った。ぶっ飛ばしてやろうぜ!』


「合体武人、サンダージェノガイサ!」



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