ボツ版119話 演出と仕込みは大事だね
ダンジョンの地下十階にある大ホール、俗に最深部と呼ばれているそこでまさかの魔王との戦いが勃発した。またかよ。どいつもこいつも突発的過ぎるわ。
「ふぅん。じゃあ、出来るものならやってみれば?」
「やべぇこっち来やがる、急げ!」
そう言うとトリアはジェノ達の方に飛んで行く。げっ、先にあっちを止めるつもりか。まずいな。ジェノも気付いたようでターナ達を急かしてる。
「龍神乱舞!!」
とりあえず必殺技の一つを放つ。【幻想具現化】で作った幻の龍の中に【水の使い手】で発生させた水のドリルを内包させてぶつける技で、あたかも龍に飲まれて粉々になったかのように演出できるかっこいい技だ。【障壁】で生み出した小さな障壁を大量に混ぜることで岩盤すら砕くことが出来るこの技はあの魔王ヘキサにもダメージを与えられた。少しはジェノ達の手助けになるはず。
放たれた龍神は横合いから一瞬でトリアを飲み込んだ。そのまま龍を動かしてトリアを壁に押し付けるように動かそうとするけど、感覚がおかしい。この技は外側の幻影と中の水を同じように別々に操ってるんだけど、水の方が消えていってる感じが伝わってくる。まさか。
そのまま龍を横に飛ばすと、トリアが平然と入り口に向かって飛んでいる。嫌な予感はしたけど当たってたか。あいつ、自分の周囲をスキルで覆ってやがる。実質無敵だな。諦めて龍神乱舞を消滅させる。
「ちっ、三人は先に行け!」
ジェノが叫ぶと同時に激しい閃光が大ホールに充満する。ジェノが目くらましを使ったみたいだ。続けて入り口の辺りに煙幕みたいなものが発生する。
「ぐっ、ほんとにもう、鬱陶しくて仕方ないね。そんなに死にたいなら先に相手してあげるよ。どうせすぐに追いついて殺せるしね」
ジェノが離脱を諦めて目くらましに徹したおかげで他の三人は大ホールの外に出たらしい。イラついた感じのトリアの声が聞こえる。チョロい。さっさと天井ぶち抜いて追いかければいいのに。挑発に弱いんだなきっと。
ジェノの張った煙幕が途切れる。数秒しか持たないけどトリアを封じるのにいい手段だったから、咄嗟の判断にしては上出来だ。
トリアが入り口に立つジェノガイサに向かって何かを投げつけた。ジェノガイサが一瞬受け身構えるような素振りを見せた後慌ててその場から離脱した。すると、トリアが投げたブローチのようなものが入り口の辺りに飛んできて、丁度境界の辺りで空中に静止した。
次の瞬間には入り口が丸く抉れる。なるほど、そういう道具か。逃げてよかったなジェノ。
「今更逃げようとしてももう無駄だからね、これで君達はここから出ることが出来なくなったよ」
トリアが勝ち誇るように言う。トリアに勝つだけならいくらでも手段はあるんだけど、ただ勝つだけじゃ面白くない。テッカイザーとジェノをコケにした分はきっちり痛い目見てもらわないと俺の気がすまない。
「逃げるつもりなんかない。さっきも言ったけどお前なんか俺一人で十分だ!」
トリアの顔が引きつるのがよく分かる。こんな簡単な挑発に乗ってくれるなんて扱いやすくて仕方がない。
「よし、どうせそこの鎧男にはどうしようもないだろうし、先に君を消してあげるね」
ほんとチョロい。トリアが殺気を込めた満面の笑みを浮かべて飛んでくる。ジェノガイサは佇んだままこっちを見つめてる。さっきの俺の言葉を信じてくれてるんだな。今動かれると逆に面倒だから助かる。
こっちに迫るトリアを余所に、俺はすぐ傍に転がってるテッカイザーの腕や足を視界に納める。さっきからのトリアの行動からあのスキルは割と射程が短い。だから近付いてからじゃないとあの攻撃は怖くないわけで、慌てる必要は全くない。
そしてスキルを発動する。俺の持つチートスキル、【アイテム作成】だ。形はほとんどそのままにスキルを付与していく。
まずは文字通りの効果の【変形】と【合体装着】に、力を倍増させる【剛力無双】。収納が大変そうだから【異次元召喚】もつけとこう。後はトリア対策として任意のあらゆる変化を無効化する【鋼の信念】とスキルを通さない球状のバリアを貼れる【スキル遮断バリア】も付けとこう。
【鋼の信念】はこのアイテム用に名前を変えたけど、同じ効果のスキルを俺自身も習得してる。それは空欄で申請したら【絶対不変】という名前になってた。
そうそう、あたかも勝手に動いてるように見えた方が演出としてかっこいいから、念じるだけで操れる【脳波コントロール】と【浮遊】も付与しといた。特殊な素材で出来てるのか、これだけの強力なスキルを付与できるなんてすごいな。余裕がありそうならまた追加しとこう。
膝から下と肘から先はそのまま使って、余った部品は胸部アーマーと頭部のバイザーに使おう。んでこれは普段は変形合体して特撮的な戦闘機みたいなビジュアルになるようにデザインしとくか。昔好きだった特撮番組で、そういうメカがあったんだ。そのサポートメカが変形合体してロボットにもなるし、ヒーローが装着するとパワーアップ出来たり。今回はそれをイメージして作る。
早速完成したアイテムを試してみるとするか。テッカイザーの残骸が光を放ったかと思うと、俺が想像した戦闘機チックなメカになった。それが浮き上がって、こっちへ向かってきていたトリアに向かって飛んでいく。名前はテッカイジェットだ!
「あの魔術人形は完全に消したはず・・・。まぁいい、何が来たって、消えない!?」
自分に向かって金属の塊が飛んできてもトリアは相変わらず余裕そうだったけど、多分スキルを使ったんだろうな。この時初めてトリアの慌てたような顔を見た。このままぶつけても良いんだけど、それじゃあ面白くない。避けようとするトリアの手前で旋回させて俺の傍らに戻ってこさせる。
田吾作が空気を呼んでかジェノの方へ飛んでいく。
「魔王トリア、テッカイザーの魂を受けてみろ。アクセスコードは、テッカイザー!」
【融合躍進】の見た目だけを解除しつつ特に設定してないキーワードを叫ぶのに合わせて、テッカイジェットの【変形装着】を起動する。テッカイジェットがいくつかのパーツに分離して周囲に浮いてスタンバイ完了だ。
俺がジャンプするとテッカイザーの足と前腕が俺に装着されて、胸部アーマーが前後から俺を挟み込む。ドリルが肩に乗っかって、左側で束ねた髪が解ける。そして額にバイザーがセットされる。そのバイザーのオデコの部分には金色に輝く角が一本。
装着を終えて着地すると、ズシーンと乙女が鳴らしてはいけない音と衝撃が大ホールに響く。相当重たいだろうけど、色々な強化のおかげでこの状態でも軽々動ける。さぁ、呆然としてるトリア相手に初陣と行くか。
「合体龍人、カイザースプリ!」




