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117話 戦うべき相手

今回かなり短めです

お許しください


 テッカイザーの胴体は球状に大きく抉られており、結合部の無くなった足や腕は無惨に地面に横たわる。頭部も床へと落ちて衝撃で少しだけ床を転がる。


「無駄ではあったけどなんとなく邪魔された気がして嫌だから消しとくね」


 扉の一部を消滅させたトリアは、スプリ達を巻き込めなかったことに不満を抱いてテッカイザーの頭部へと視線を向ける。もういつ機能停止してもおかしくないはずのテッカイザーの瞳は、それでもトリアに燃えるような視線を送っていた。


「くそっ!」


 ようやく立ち上がったジェノガイサがトリアへ向かって駆け出す。しかし、大したモーションもなくスキルを放てるトリアを止めるには遅すぎた。まるで最初からそこには何も無かったかのようにテッカイザーの頭部はトリアの視界から消失し、床を丸く抉ったような傷だけが残された。


「ふぅ、とりあえずは気が晴れたね」


「テッカイザー! ・・・この野郎!!」


「ジェノ、待って!」


 テッカイザーが完全に消されたことを悟ったジェノは更に加速しようと足に力を込めるが、すかさず飛んできたスプリの制止の声にジェノガイサは思わず足を止める。いくら頭に血が上っていようとも、大切な相棒の声を無視することなど有り得ないのだ。


 しかし、咄嗟に反応しただけで納得して止まったわけではない。だが状況からしても悠長に話してる時間等無い。


「破壊された扉から魔力が噴出してる! 封印されてた奴が出てくるみたいだからジェノ達はそっちを任せる。こいつは、俺がなんとかするから!」


「ボクは別に誰が相手でもいいけどね。その扉から出てくる人を待ってる間はこっちからは手も出さないであげるよ」


 どこまでも余裕を崩さないトリアをにらみつけたまま、スプリが堂々と宣言した。その声に怯えはなく、決然とした覚悟だけが込められていた。その言葉を受け取ったジェノは、考えるのを止めて、ただ自分の相棒を信じることにした。


 それは単純な思考停止などでは無く、スプリが任せろと言うのならジェノは迷わず任せる。交わすのは視線だけ。二人の間に繋がる確かな絆、紐を通して首にかけられた指輪が鎧の中で僅かに輝いた。


「やっとお目覚めだね、お父様」


 ジェノが動きを完全に止めた時、大ホール全体が振動を始めた。それは足を伝わって全身へと駆け上がっていく。そして喜びに満ちた声でトリアが呟いた瞬間、黒い影が扉から飛び出してそのまま上へと昇っていく。


 普通ならば貫通することの出来ないはずの天井は、まるでその影を避けるかのようにぽっかりとトンネル

を形成し、影が入っていくと同時に閉じてしまった。


「ああもう、いっちゃった。気付いてくれないなら追いかけるからね。・・・ああ、ボクは忙しいから見逃してあげるよ。良かったね」


 それをぼうっと見つめていたトリアは残念そうに呟き、ジェノ達へなんでもないことのように告げて追いかけようとふわりと浮き上がった。ジェノガイサの方へと駆け出しているターナ、コノミ、フィスタニスには目もくれていない。


「ジェノ、あれは任せた! 行け!」


「おう、スプリこそ、そいつは任せたぜ!」


 ジェノガイサはスプリの言葉を受けて踵を返す。背中を向けて、親指だけを立てて後ろから駆け寄ってきた三人と共に大ホールの入り口へ向けて走り出す。そのやりとりを聞いていたトリアは深いため息をついた。


「手は出さないとは言ったけど、明らかに邪魔しようとしてるのをほっとくほどのお人よしでもないよ。それに、ボクを一人で足止めするのは正気だとは思えないね。時間稼ぎにしても笑っちゃうよ」


「こっちこそジェノ達の邪魔はさせない。悪いけど、時間稼ぎなんてするつもりはない。ここできっちり倒すからな!」


 こうしてジェノ達とスプリのそれぞれの戦いの火蓋が切って落とされた。





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