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115話 男として、友として


 魔王ヘキサによって暗示をかけられてしまった冒険者達はその実力が陰るのか? 答えは暗示の内容による、である。完全に操っている場合は、命令さえすればその命令をこなす為に全力を捧げるようになっているの。しかし、思考が誘導されているだけのならば感情によってはマイナスになることもある。だがそこは腕利きの冒険者。ほとんどの者が戦闘になれば感情を押さえ込み本来の実力を発揮することが出来る。


 つまり、三十人にも及ぶ腕利きの冒険者達は冒険者としての実力を如何なく発揮してジェノ達へと襲い掛かるということだ。荒れ狂う冒険者達の中でもレンジャーや盗賊の技術を鍛え斥候として活躍する数名が、音も無く集団を飛び出した。まるで影のように奔るそれは一瞬にしてジェノ達へと接近し、刹那の早業で蹴散らされた。


「ちっ、中々やるな。様子見はいらねぇ、全員でかかるぞ!」


 いち早く駆け出してジェノ達へと接近した速さと隠密製を身上とする冒険者達は三人。一人はケモミミ獅子

族の少女、ターナの振るう大剣に両断された。もう一人は頭上からの必殺の一撃をジェノにやすやすと受け止められ、カウンターとして放たれた蹴りで吹き飛ばされて気を失った。


 最後の一人はテッカイザーに刃を届かせたものの傷一つつけることも出来ず、ドラゴンが人の姿をとったフィスタニスという妖艶な美女に頭を鷲掴みにされ、その細腕からは想像も出来ないような怪力で壁に叩きつけられた。


 その姿を見た冒険者達は怯むことなく、むしろ威勢を増してジェノ達に向けて走り出した。最低でもCランクの冒険者であり、内二人はAランクである。まともにぶつかればジェノ達に勝ち目は無いと、冒険者達はそう考えていた。


「所詮Bランク程度のパーティーだ、ぶっ潰せ!」


 それが如実に現れた号令が冒険者達を更に勢いづかせる。しかし、ジェノの味方をするのはパーティーメンバーだけではない。元々この大ホールには、封印を守る守護者がいるのだ。そして、その守護者とジェノは熱い絆を語り合い、今や友として、並び立つ。


「バカが、ここにいんのがオレ達だけじゃないってのを思い出させてやるぜ! 行くぞテッカイザー!」


「オオオオオオオオオオ!!」


 迫り来る冒険者達に対して、二つの影が人物が飛び出した。全身が特殊な金属で出来たゴーレムと、黒と見紛うような深い紫色の鎧に身を包んだ男である。ゴーレムはその重量からは信じられないほどの速度と勢いで真っ直ぐに突っ込んでいく。


「ぐげへぇ!?」


「ぐばっ!」


 その突進の凄まじさは、正面から受け止めようとした冒険者達を纏めて数人吹き飛ばしてしまう程である。そのゴーレムこそ、封印を守る使命を帯びて幾百年もの間戦い続けた、鋼鉄の意志を持つ戦士。鋼の守護機神テッカイザーである。


「こっちも忘れんなよ!」


 テッカイザーと共に敵陣に飛び込んだのは、深紫の勇者。あらゆる攻撃を受け止め反射するスキルを持った魔人ガイサを倒し、そしてその力を手に入れたジェノの切り札とも言える最強の姿。その身に降りかかる斬撃、射撃、打撃、あらゆる攻撃をかわし、逸らし、受け止め、一人また一人と打ち倒していく。


 堅実に、確実に、戦力をそぎ落としていく。その身のこなしは、数十年に及ぶ修行を経た達人もかくやと言えるものだ。しかし、一撃の威力ではテッカイザーに並ぶものは無い。ように見える。


「テッカイザー! オレごとぶん殴れ!」


 冒険者の集団の中へ迷い込んだ二人の獲物を、囲うように追い詰める冒険者達。ジェノが数人の冒険者越しに声を掛けると、テッカイザーは迷うことなくその鉄拳を冒険者ごとジェノへと叩き付けた。


「げふぁっ!?」


「おぎゅ!」


 そしてジェノガイサは、間に挟まれて悲鳴をあげる冒険者ごと何の苦も無く受け止める。これこそがジェノガイサの持つ【装甲】という『二つ名』がもたらした特殊スキルの効果である。だが、これだけでは終わらない。


「どけどけぇ! 道を空けろい! 【巨大化】!」


 ジェノガイサは仲間すら蹴散らし大声を上げながら突進してくる冒険者を視界に捕らえた。それは『火山』の二つ名を持つAランク冒険者、ヴルカンだ。本来なら魔王とはいえ傷ついたヘキサの暗示にはかからない程の屈強な肉体と精神力を持つ。しかし、ヴルカンは酒に弱いという弱点があった。


 他の街へ出かけていて久しぶりにリベルタムに帰還して気分の良くなったヴルカンは目一杯酒を飲み、道端で酔いつぶれていたろころを暗示にかけられてしまった。


 その巨体は山のようであり、激怒する様はまるで火山だと言われるグルカンの得意とする戦術は圧倒的な力で叩き潰すこと。外でならば十メートルにまで巨大化出来るスキルの力によって三メートル程にまで大きくなったヴルカンは、力任せにもはや鉄柱のような棍棒をジェノガイサに向けて振るう。


 が、ジェノガイサはことごとくを腕で、一歩も動くことなく平然と受け止めてしまう。ヴルカンの怒りのボルテージはぐんぐんと上がっていく。スキルを全開にしていないとはいえ、力自慢のヴルカンにとって駆け出しの冒険者程度に受け止められるのは虚仮にされているのと同義なのである。


「どうしたこのガキ! 防いでばかりじゃこの『火山』のヴルカンを倒すなんてできねぇぞ!」


「そっちこそ、そんな温い攻撃じゃオレを倒すなんて無理な話だぜ!」


「なんだとぉ・・・!?」


 挑発することで防御をしくじらせようとしたヴルカンであったが、逆に挑発を受けて更に頭に血が上る。ヴルカンの豪腕によって振るわれる棍棒は味方をも巻き込んでジェノガイサへ迫る。激しさを増すその暴威にもジェノガイサは怯むことなく、周囲の冒険者達を巻き込むようにかわし、いなし、時には受ける。その凄まじいまでの攻勢に、ヴルカンの仲間であるはずの冒険者達も距離を取るようになり、二人の周りには誰もいなくなった。


 そして、遂にヴルカンの怒りのボルテージが最高潮を迎える。


「そこまで言うんならこいつを受けてみろぉ! 【火山砲弾】!!」


 ヴルカンが二つ名によって得た特殊スキルが解き放たれる。その効果は、己の身体を金属よりも硬く変化させ、怒りを推進力に変えて突っ込むというものだ。その威力は、ヴルカンが怒っている程に上がり、最大限の威力を発揮したならば城壁すらも容易く粉砕する程の威力を持つ。


 しかし、今回は相手が悪かった。


「受け止めた、だと・・・!?」


「『二つ名』がつくくれぇ有名だと決め技がばれてたって仕方ねぇよなぁ! 自慢の威力、そっくりそのまま返してやるぜ!」


 ジェノガイサの両腕は、あらゆる物理的な威力を受け止める。そしてもう一つ。


「ま、待て、やめ」


「ガイサ全力反射撃フルリバスター!!」


 それまでにジェノガイサが受けた攻撃の威力が、ジェノガイサの拳を通してヴルカンへと押し寄せる。


「ぐげぶずっ!!」


 ヴルカンは遠巻きに様子を見ていた数人の冒険者をなぎ倒しながら吹き飛び、そのまま壁にめり込んでがっくりと頭を垂れた。全てのスキルが効果を失い、巨大化していた身体も元のサイズへと戻る。奇跡的にスキルの効果が解除される前に攻撃を受けたおかげで、辛うじて生きてはいるようだった。


 この、衝撃を完全に受け止め、打撃の威力に変換して放つ。これこそが、装甲武人ジェノガイサの真骨頂なのだ。


「運のいい奴め、さぁ、残るはお前だけみてぇだな!」


 ヴルカンを退けたジェノガイサの周囲に立つ者はテッカイザーのみで、倒れ付した冒険者達が転がっている。生きているものもいれば、死んでいる者もいる。勿論全員がそこに倒れている訳ではない。ジェノガイサとテッカイザーを取り囲んだ冒険者達だったが、内十名程は後方で待機していたジェノの仲間達へと向かって行ったのだ。


 だがジェノの仲間達もただのお供ではない。それぞれが一級品の実力を持ち、Bランク冒険者にも引けをとらないのだ。従ってその十名も例外なく返り討ちに遭っていた。これで大ホールへと足を踏み入れた冒険者の内、無事に立っているのは冒険者達を先導していた男ただ一人。


 その男は、戦いが始まってからずっとその場を動かず、ただ眺めていた。そして、さも一人で十分だとでも言いたげににやりと笑う。


「くっくっく、確かにそれなりに実力はあるようだな。ギルドのクズ共に利用されるのも頷ける。だが、この俺に敵じゃあない。何故なら、この俺はAランク冒険者でもSランクに最も近いと呼ばれている男だ。さぁ、覚悟するといい。今から泣いてすがり付き、懺悔する覚悟をな!」


「話が長ぇ。さっさと来やがれ!」


「ふっ、後悔するといい。行くぞ!」


 自身の台詞を一蹴したジェノガイサに対して、男は鼻で笑うことを返答とした。そして、男が身体を沈めた瞬間、男の身体が消失した。


「何っ!?」


 そして、そこには男の手足、頭部、そこから零れる赤い液体だけが残されていた。


「全くもう、せっかく着いたっていうのにクソみたいにダサいやつがいるなんて嫌になるんだよね」


 ジェノガイサが何の感慨も無いまるでのどかな日常から切り取ったような声の響く場所、大ホールの入り口に視線を向けると、そこには少年が立っていた。灰色のショートボブに紅い瞳、服装は貴族の子供が着るような立派な物だ。それは、絶世の美少年と呼んでもなんら差し支えの無い外見をしていた。




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